見出し画像

物体認識を行わずに検知だけを行う高速衝突回避技術 - Ghost Locomotion社

 先週毎年恒例となった NVIDIA社の GTC(GPU Technology Conference、2022年3月21~24日) が開催され、今回も NVIDIA社の様々な AIを中心とした取り組みが発表されましたが、近年はロボット向けの取り組みも加速させていて、今年は自律走行搬送ロボット(AMR) の開発プラットフォーム「Isaac Nova Orin」を発表しています。Isaac Nova Orin は AMRの自律性を設計、構築、テストに必要な環境がパッケージ化されており、昨年(2021年) 11月に発表した新型 AIコンピュータ「Jetson AGX Orin」やカメラ、LiDAR、超音波センサーなどで構成されるセンサースイートも含まれています。さらに Isaac Sim on Omniverse でロボットをシミュレートするために必要なツールや ROSソフトウェア モジュールのサポートも含まれており、個人的に今最も注目しています。

 シリコンバレーがあるカリフォルニア州では、昨年(2021年) の一般的なハイブリッド車を含まない電気自動車(EV) 販売台数が 100万台を突破し、全米での EV販売シェアの 4割に達しました。EVをベースに自動運転技術を開発するベンチャーは、Nuro社をはじめとする車両も含めた開発を行っている会社や、Argo AI社のように自動運転技術開発に特化している会社、Ghost Locomotion社のような自動運転機能を後付けして衝突回避を行う技術を開発する会社など、いくつかのタイプに分類することができます。最近の傾向としては自動運転技術開発だけでなく、自動運転車両を活用するための仕組みをプラットフォームとして提供する会社も出てきており、Nuro社などは 7-Eleven と提携し、ここマウンテンビューで試験的ではありますが自律走行機能を搭載したプリウスによる商用配送サービスを昨年(2021年) 12月から開始しています。7-Eleven のアプリ 7NOW で飲み物やスナックを注文すると Nuro社の自律走行車が商品を届けてくれます。Nuro社は 7-Eleven以外にも北米大手スーパーマーケットチェーンの Kroger や FedEx などともパイロット プログラムを多数行ってきています。
 北米スーパーマーケット最大手の Walmart もいくつかの都市において自律走行車を使った配送サービスのパイロット プログラムを行っていますが、中でも Ford Motors社と Volkswagen社が共同出資する自動運転技術を開発するベンチャー Argo AI社と、テキサス州オースティン市やフロリダ州マイアミ市、ワシントンD.C. などで商品の商用配送サービスを昨年(2021年)末に開始しています。Argo AI社と Ford社は既にモビリティ サービスを展開する Lyft社と今後 5年間で 1,000台以上の自動運転車を展開する計画も発表しており、地域や条件は限定されるものの、自律走行車による商用サービスはここ数年で実用化が進む勢いです。

 ここシリコンバレーには自動運転技術開発ベンチャーが多く活動していますが、その中でも 2017年にマウンテンビューに設立された Ghost Locomotion社は自動運転技術の後付け市場にフォーカスした珍しいベンチャーです。画像解析技術を活用し衝突回避技術にフォーカスしており、障害物などの対象物の認識は行わずに検知だけを行い処理するため反応が非常に高速なのが特徴。

通常自動運転システムは物体を認識し、障害物かどうかを判断、位置を特定して物体の大きさや距離などを判断しています。この "認識" 処理を行うには物体を事前に学習しておくことが前提で、学習された情報がないと物体を認識・分類することが難しく、また誤った認識を行った結果思わぬ事態を招くことにもなりかねません。
Ghost Locomotion社のアプローチではこの "物体認識" のステップを行わず、カメラがとらえた画像データ内のピクセルの集まりを追跡し物体との距離や相対速度を求めて衝突回避を行うため、軽くて高速な処理が可能とのこと。処理が軽いということは消費電力も少なくて済むため、EVに適した仕組みであるとも言えます。もし物体の認識・識別が必要であれば、衝突回避処理を行った後に行う流れとなるようです。

 市販車にレベル4 の自動運転機能が実装されるのも時間の問題だと思いますので、用途に応じた様々な自動運転関連技術にこれからも注目していきたいと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?