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絵本プロジェクト はじめました

 僕は写真の仕事をしている傍ら、地元の浜松で海外の写真集をメインに扱っている本屋を営んでいる。年に何回か、アーティストたちの個展やトークイベントなども開いている。去年は人気イラストレーターたちの個展を多く手がけた。とてもいい出来だったと思うし、評判もとても良かった。その理由のひとつとして、滞在制作という形で、浜松という場所からインスピレーションを得た作品を作ってもらえたことが大きい。自分がとてもいいと思っている作家たちと展覧会をするのはとても嬉しいことだし、その内容がまた自分の地元についてとなると、なおエキサイティングだ。何より、その作品を観にきた多くの方たちに興味持ってもらって、購入いただけたことがこのプロジェクトを続けられた一番の理由だと思う。そして彼ら作家たちとのつながりを続けたいという思いで始めたのがこの絵本プロジェクトだ。

 そもそもきっかけはこれらの展覧会を企画する前、自分の子供が2歳になる頃で、読み聞かせを始めて一年くらい経った頃に戻る。それまで世の中に絵本は数え切れないくらいあると思っていたが、自分のイメージする絵本の多くは主に5歳から6歳以上のもので、ストーリーもしっかりしていて、文章だけでも面白い上に、とても素敵な絵や、装丁で作られたアート本的なものだった。しかし、1、2歳の子にとってストーリーの展開は理解できないし、集中力もないからそれほど長い話もついてこれない。まずは幼児向けの絵本を通して、少しずつ単語と絵を合致させることで世の中に存在するもの何から何まで認識の対象になるよう意識させるのだ。たとえば、この色は青とか赤とか、食べ物の名前とか、笑った顔とか泣いた顔とか、車はタイヤがまわって動くとか。それからだんだんと、お化けの話とか、挨拶をしようとか、満月の夜は明るいとか、状況も理解できるようになってくる。寝る前の読み聞かせは、「寝るタイミング」を作るのにもとても適している。寝ることをテーマにした絵本が売れているのもよくわかる。

 それでも何度も連続で繰り返し読み聞かせする親にとっては、これらの絵本はシンプルすぎてあまり面白くない。しかし子供にとってはとても刺激的で、それを何度も繰り返してもらいたい気持ちもよくわかる。親のほうももなんとか一緒に楽しんで読んであげたいから、自分にとっても新鮮な気持ちで読めるものを探すようになる。しかし幼児向けの絵本はそれほど多くないように思える。なぜなら幼児向けの絵本の名著と呼ばれるものは60年代、70年代頃からずっと出版され続けているものが多く、それらの本が今でも本屋の幼児絵本スペースの半分近くを占めているからだ。自分が幼い頃読んでもらった時と同じ本が今でもあるのはとても嬉しいし、懐しさとともに、同じ体験を子どもにしてもらいたいと思う気持ちが強く働くのは当然だ。そしてさらに新しい本も読み聞かせたいのだが、アニメキャラクター的なものはちょっと避けたい気がする。そうなってくると意外にチョイスは少ないのだ。

 うちもそうだが、3、4才ともなると、携帯やテレビで幼児用のチャンネルやアプリを見せている。そうしてどんどん読み聞かせする時間は少なくなる一方だから、それほど沢山の種類の本はいらないのかもしれない。それでも、というかだからこそ幼児期の絵本のジャンルはまだまだ可能性があるように思えるのだ。5、6歳ともなればゲームを始めているに違いないであろう今の子供達でも3歳のころまでは絵本を読んでもらっていたに違いない。僕自身もそうだが、これだけ携帯やパソコンにお世話になっている親の世代は子供には自分たちと同じように絵本で育って欲しいと思っている。自分たちが絵本で育った最後の世代になるかもしれないという危機感も少しある。

 子供ができて、絵本を作りたいと思うのようになる親はとても多いことだろう。自分も一過性のものとして、子供とともに成長しながらあっという間にそんなことの興味は薄れてしまうだろうと思っていた。しかし、イラストーターたちの展示をさせて貰ったのがきっかけで、これは思った時にやらないとずっとできなくなってしまうもののひとつだと、ある日、突然やる気が湧く啓示が降りてきた。みんなが思っているけどやらないことのひとつを自分はやってみようと思った。歳はいってるがまだ新米パパだし、このフレッシュな気持ちがなんとか残っているうちに。幸いなことに、作家たちからは快諾していただいた。その中の半分は子育ての経験はまだない人たちで、これから手探りで作っていくわけだが、だからこそ面白いと思う。そんなわけで五作家それぞれの絵本を秋から冬にかけて毎月一冊ずつ計5冊の出版に向けて始動し始めました。これから報告を随時していくので楽しみにしていてください。



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