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かたずけをさえぎるもの

 僕の現在の事務所は最近でいう、シェアオフィスという感じで、建築家の谷尻誠さんの会社にデスクを借りている。それまでは、マンションの一室を事務所にしていた。現在の場所に引っ越しするために多くの荷物をトランクルームや、実家の方に分散して置いているが、その中の主なものに写真のネガやプリントがある。大学の頃からの分を考えると、32年分、ここ10年くらいはカメラのデジタル化でフィルムの量はだいぶ減ったが、これまでの分だけでも相当ある。15年前くらいに一度整理をしたことがある。すべての仕事に番号をつけて、エクセルで管理表をつくる作業に十日ぐらいかかった記憶がある。しかし物自体は段ボール数十箱にもなったので、一度倉庫に入れてしまうとそう簡単には取り出せない。その後何度か引っ越しを重ね、箱の中身も出したり入れたりしている間にエクセルとの整合性もあやしくなってきた。今また現在のアシスタントが新たな方法で仕切り直しに取り組んでいるが、かなり時間を要する作業だ。デジタル写真の分でさえ、始めた頃のハードディスクはもうPCと繋ぐケープルの種類が変わってしまった。今後のことを考えると本当に取り出せるのかどうか考えただけでも恐ろしい。

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 フィルム整理の中で一番難しいのが、フィルムテストやカメラテスト用で撮影したものだ。とびとびの日にちとランダムな内容が一本のフイルムの中に収まっている。これらは「プライべート」としてレーベル(今でいうタグ付け)されているが、実は一番掘り起こして使うことが多いのもこれらのものだ。なぜなら、これらと違って仕事で撮られた写真は、クライアントがあってのことだし、さまざまなスタッフたちとの共同作業だから、自分ひとりのものとはいえない。新たに使ったりするには許可取りやそれに関する大義名分が必要になってくる。だから、仕事で撮られた写真の箱はほとんど倉庫の奥、または遠距離の場所に行ってしまっている。

 ところが「プライベート」の写真やネガはつねに身の回りをうろうろしている、というか、いつかまた見直したいものだと思いながらも日々の時間で積み上げられたものに埋もれていく。つまり身近にあるのにタイミングが合わないで幽霊のように存在している写真たち。今回たまたま1ロール分だけ手元にあったものを見直してみた。フィルムはKodachrome 200というポジフィルム、ハーフサイズだからおそらくカメラはリコーオートハーフだと思う。現像所の袋には2003年と書いてあった。整理の時に袋を捨ててしまうとそういう細かな情報も捨ててしまうことになるので、なるべくとっておきたいのだが、ボロボロの袋を捨てることで整理をした気分になってしまうという罠によくはまってしまう。

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写真家の若木信吾です。 写真に関するあれこれです。写真家たちのインタビューや、ちょっとした技術的なこと、僕の周辺で起こっていること、それら…

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