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メンタル班流目標設定技法【前編】目標の意義とその効果


大学時代、僕は「目標設定技法」について学びました。

筑波大学蹴球部には「パフォーマンス局」という組織があります。「フィットネス班」「データ班」「ニュートリション班」などがあり様々な視点から、サッカーにおけるパフォーマンスを向上するために部員が主体的に勉強会などを開き実践するような組織です。

その中で僕は、「メンタル班」という組織に所属をしていました。スポーツ心理学に関わるようなスキルやトレーニング、例えばチームビルディングだったり、イメージトレーニングだったり、リラクセーション/サイキングアップだったりを学んできました。

その中でも目標設定に関しては、大学1年のときから自分でも継続して取り組み、希望した部員に対しては個人的に目標設定のサポートをしたり、あるときはチームメイト全員に対してサポートを行ったりしてきました。

スポーツをしていた人もそうでない人も、今までの人生で一度は何かしらの目標を立てたことがあるのではないかと思います。

ただ、世間の目標設定に関する認識は間違っていることが非常に多いなと感じています。

一番強く感じるのが、目標を立てることはパフォーマンスアップの為の手段に過ぎないのに、「目標を立てることに意味がある」と思ってしまっている選手、指導者が多すぎるということです。

これはスポーツ界に限らずビジネス界もそうです。なんのためにビジョンやミッションやバリューを考えるのか、それを理解せずに「なんとなく必要でしょう、やったほうがいいでしょう」という感じで取り組んでいる方たちも多いのではないでしょうか。

僕は、筑波大学蹴球部の中で優れたプレーヤーではなかったし、前に部員ブログで書いた通り「ストイック風人間」でした。
しかし、こと目標設定に関しては、200人弱在籍した部員の中で一番真摯に向き合い、正しい知見を持っていると自負しています。

今回は、僕の考える正しい目標設定の意味とその技法について、まとめてみたいと思います。

「やらなければいけないことが沢山ありすぎて、決められない」
「目標を立てることはできるが、その後どうすればいいか分からない」
「目標を立てても意味を感じられない、効果が出ない」
そんな風に考えている方に読んでいただきたいです。何か、考え方のヒントを与えられるのではないかと思います。

この目標設定を学ぶ上で様々な文献を参考にしてきましたが完全に全てを覚えきっていません。また、僕の経験からくる考察も大いにごちゃ混ぜになっております。最後に何冊か紹介させていただくという形で参考文献の代わりとさせていただければと思います。


1. 目標設定の意義

目標を設定する意味は、僕はただ一つしかないと思っています。それは、「トレーニングの質を高める」ことです。つまり、目の前の行動の質を高めることです。この考え方は、僕はめちゃくちゃ重要だと思っています。

目の前の行動が変わらなければ、目標を立てる意味など何もありません。「トレーニングの質を高める」という意図をもって初めて目標は効果を発揮します。
当たり前のことですが、目標を立てるのは多くの場合、何かしらの結果を出すためです。そのためには技術面、身体面、精神面での成長が必要となります。目標を立てるだけで上手くなったり、強くなったりするわけがありません。人を成長させるのは、トレーニングです。目標を立てて、意識高くなった気がして満足して、成長した気でいるのは大きな勘違いです。

ここで、目標設定技法において一番重要なことを言います。
それは、「適切な目標設定のやり方は人によって違う」ということです。

なぜなら、先述した通り目標を立てるのは「トレーニングの質を高める」ためだからです。誰かが成功した方法だとしても、その本人の行動の質が高まらなければ、目標を設定する意味は全くありません。

例えば簡単な例として、長期目標を設定するタイプとして大きく2つに分かれるものがあります。それは、「不確実な大きい長期目標を掲げる」タイプと、「比較的確実で身近な長期目標を掲げる」タイプです。

「大きい長期目標タイプ」は、たとえ一度も全国大会に出場したことがないとしても、「全国優勝」を目標にしたいタイプのことです。できそうな目標を設定してしまうとモチベーションが上がり切らず、「無理だろ」というような夢に挑戦することに燃える性格ですね。

一方「身近な長期目標タイプ」は、まずは「全国大会出場」が目標で、「優勝」はその後でしょ、というタイプです。イメージすらできないような目標を立ててしまうと、実際にどんな行動をすればいいのか分からなくなってしまいます。身近でイメージしやすい目標にすれば、今自分がやるべき行動がはっきり見えてきます。

どちらのタイプが優れている、というわけではありません。目標の立て方や粒度はどうでもよくて、重要なのは「今どれだけ高い質でトレーニングに取り組めているか」ということです。

しかしながら、特にスポーツ界では、大きい目標を立てることが是=意識高い=優れている、と思われている傾向があると思います。「甲子園出場」を目指してないチームが甲子園に出れるわけないだろ、という感じですね。一旦こういう雰囲気になってしまうと、自分がもし「身近な目標タイプ」だとしても、「僕はもうちょっと近い目標を見たいんですけど、、」などとは口が裂けても言えません。そんなことを口にすれば、「お前は優勝したくないのか」「チームの士気を下げるな」という話になってしまうからです。
その結果「身近な長期目標タイプ」はイメージのできない目標を立てさせられ、トレーニングの質が向上することはありません。

なぜこのような傾向があるかというと、「大きい長期目標タイプ」の方が、声が大きく影響力のある人が多いからだと思っています。メディアの報道も影響していると思います。「お前には無理だよ」と笑われながら、果てしない目標を夢見て這い上がった、みたいなストーリーの方が面白いですからね。そういったものを見て、大きな夢を語る人に憧れる一方、自分とのギャップに苦しむ人が大勢いるかと思います。

ただ、逆も然りです。目標は達成するために立てるものですが、達成することを重視しすぎて達成できそうな目標ばかりを立ててしまうと、「大きな長期目標タイプ」は力を発揮できません。夢がない、ロマンがない目標だとつまらなく、行動が何も変わらないということがあります。

違うタイプの人間に画一的な目標設定の価値観を押し付けることはあってはいけません。ましてや、指導者や影響力のあるリーダーが自分の達成したい目標をチームに押し付ける、などは言語道断です。

チームの目標を一つに定めることは、それ自体はいいことだと思います。ですが、それに合わせて個人が見据える目標はその個人が決めるべきです。指導者やリーダーがするべきことは、その目標設定のサポートをすることです。

これから紹介していく目標設定の方法は、「理にかなっている」方法です。ですが人は必ずしも理にかなっているわけじゃありません。ですので、僕の紹介する方法は参考程度で、試してみた上で自分に合った方法を確立していくことが必要です。中には、「細かい目標なんてごちゃごちゃ考えないほうが力を発揮できる」という人もいると思いますし、それはそれでOKなんです。

そして、自分に合った方法は何かという判断材料は、「実際にトレーニングの質が向上したか」「目の前の行動の質が変わったか」ということにつきます。いつ何時も、これが全てだということを忘れてはいけません。


2. 目標設定がどのように行動を変えるか

それではなぜ、目標を正しく設定するとトレーニングの質が向上するのでしょうか。

僕の考える目標設定の効果とは、
①トレーニングの本質を効率的に理解できるようになる効果
②トレーニングに没頭できるようになる効果
③取り組みを継続的に実施できるようになる効果

の3つです。

自身の成長において、特にサッカーのようなスポーツにおいては顕著にそうなのですが、スキルの向上とは2段階のステップを踏むと考えています。1つ目が「そのスキルの本質を理解する」段階で、その次が「スキルを自動化する(無意識化する)」段階です。

サッカーを始めたての小さな子どもが、インサイドパスを練習している風景を思い浮かべてください。まずコーチが、「インサイドキックとは足の内側でボールを蹴ることだよ、さあやってごらん」と言います。そうすると、子どもたちは足の内側にボールを当てようとします。しかし、当然のことですが最初は全くまっすぐ蹴れず、パスにはなりません。しかし、何度も失敗するうちに、だんだんどうすればまっすぐボールが進むのかわかってきます。お分かりのとおり、足の内側面をボールが進む方向に対して90度にし、まっすぐボールに当てればまっすぐパスを出すことができます。

これが、「本質をつかむ」ということです。最初の子どもたちの目標は、コーチに言われた通り「足の内側にボールを当てる」ことです。しかし、失敗を繰り返すことで段々と「90度にすること、まっすぐ当てること」が本質だと気付いていきます。もちろん子どもなので、「足の内側面が・・・」などと言語化することはできません。しかし、潜在意識の中でそれに気づいていきます。

インサイドパスが練習で上手くできるようになったところで、次に試合を行います。しかし試合になると、練習ではまっすぐ蹴れていたインサイドパスが全くまっすぐ飛ばなくなります。それはなぜか。練習では、先ほど気づいた本質に意識を集中してパスをすることができましたが、試合ではそうはいきません。まず動いている状態でボールを扱わなければなりませんし、相手のプレッシャーもあります。パスの受け手も止まっているわけではありません。注意しなければならないことが山ほどあります。そうなると本質に集中できなくなるんですね。試合中に、「90度にして・・・」などと意識する暇はないわけです。その時に重要なのが自動化です。つまり、頭で考えずとも自動的にパスがまっすぐ出せるように体に染み込ませることが重要なのです。

人間の頭はせいぜい1つか2つのことしか意識できないので、いつまでも「90度」に集中していたら次のステップに進めません。スキルが自動化することで、次のスキル獲得に動き始めることができます。ここまでできて初めてスキルを獲得したことになります。

では目標設定が、このスキルの獲得・向上においてどのように影響を及ぼすかを説明します。

インサイドパスの練習の段階で、もしコーチが何のアドバイスも行わずただひたすらにインサイドキックをやらせていたら、子どもたちはいつまっすぐ蹴れるようになるのでしょうか。いつ本質に気づくでしょうか。恐らく、1時間蹴り続けてもまっすぐ蹴れるようにはならないでしょう。一日中蹴り続けて失敗し続けて、やっとまっすぐ蹴れるようになるくらいでしょうか。
インサイドパスを教えるコーチは、きっとそんなことはさせないと思います。10分ほどやらせた後で、「足の内側を90度にしてまっすぐ当てると、まっすぐ飛ぶよね」と教え、デモンストレーションすると思います。そうすると子どもたちは、それを意識して練習を再開します。しばらく続ければ、勘のいい子はすぐにまっすぐ蹴れるようになるでしょう。大体30分くらいやれば、みんな蹴れるようになるはずです。

これは、「本質を教える」という行為です。失敗を延々と繰り返していけば、いずれ本質を見つけることができます。ただ、それは非常に非効率です。コーチは、本質を頭で理解させることでより効率的にスキルを獲得する、本質を理解させようとするわけです。

目標を設定することは、自分が自分自身の指導者になることです。経験を重ねて得られるものに加えて、頭で本質を理解しようという試みによって、本質に気づくまでのスピードを効率化し、深い理解を得ようとする行為です。

目標をきちんと整理することで、「なぜこのトレーニングをするのか」「このトレーニングでは何を意識するか」「このトレーニングの本質は何か」を頭で理解することができます。すると、失敗の経験(練習の量)のみによるアプローチよりも圧倒的に早く本質にたどり着くことができるはずです。身体と頭の両方からアプローチするからです。

これが1つ目の、「トレーニングの本質を効率的に理解できる効果」です。

サッカーを始めたばかりの子どもは、サッカーの本質に自分で気づけるほどサッカーのことを知りません。なので指導者がサポートしていく必要があります。ただ、ある程度経験を積んだ中学生以上の年代であれば、自分で自分に必要なスキルを考えたり、トレーニングの設計をしたりすることができるはずです。

目標設定の2つ目の効果は、「トレーニングに没頭できるようになる効果」です。
目標をきちんと設定することができれば、目の前の結果や評価に一喜一憂せず、自分のやるべきことに目を向けることができます。

特にスポーツの現場では、「結果」や「評価」が常について回ります。スタメンから外れた、なかなか点が取れない、決定的なミスをして失点した、そんなことが毎日溢れている世界です。もちろん、結果を意識することでモチベーションが上がることもあるので、時と場合によってそちらに注目することは重要です。しかし、多くの人が「いい結果を出したい」と意識しすぎた結果、消極的なプレーばかりになったり、逆に独りよがりのプレーになったり、良い結果が出なかったときに必要以上に落ち込んだり、自分らしいプレーがわからなくなったり、といった経験があるのではないでしょうか。

結果は、「出る」ものです。評価は、「受ける」ものです。この言葉通り、結果も評価も自分のコントロール下にはありません。実力があれば、良い結果が出る可能性が高くなることは事実です。しかしそれは良い結果を完璧に保証するものではありません。

良い結果が出るようにするために自分ができることは何かというと、実力をできるだけ高めていい結果が出る確率をできるだけ高くすることです。そしてその実力をつけるために、トレーニングを行うことです。僕たちのコントロール下にあることは、実は「行動を起こすこと、行動の質を高めること」しかないのです。

自分のコントロール下にあるものとないものをしっかりと区別し、コントロール下にあるものに集中すること、そしてトレーニングの結果として得られたものを自分自身で評価すること。アドラー心理学で言われる「課題の分離」と同じような考え方です。

正しく目標設定をすることで、この分離がきちんとできるようになります。
また、本質を頭で考えた上でトレーニングを設計することで、「なんでこの練習が必要なんだろう、意味あるのかな?」などといった迷いも軽減されます。

結果や評価などコントロール下にないものに惑わされる、トレーニングの意味が分からず迷いが生じる、などといった「目の前のトレーニングに関係のない要素」を排除することで、トレーニングに没頭できるようになる、というのが目標設定の効果です。つまりは、余計な考えを減らして安心した状態をつくることで、フロー状態(ゾーン状態)に入りやすくする、ということです。

3つ目は、「取り組みを継続的に実施できるようになる効果」です。
「正しく目標を設定する」ことで上記の2つの効果が得られますが、それに加えて「正しく目標を評価する、管理する」ことで継続性を高めることができます。

継続がなぜ重要かというと、先述した通りスキルの獲得には「自動化」が欠かせないからです。つまりは体にスキルを染みわたらせる作業です。
目標を立ててトレーニングを計画し、実施する。その1サイクルだけでは、本質を理解するところまではいくかもしれませんが自動化することは絶対にありえません。やはり自動化には、頭で考えずにできるようになるまで継続することが必須です。

継続の効果は他にもあります。目標を評価し再設計するような管理体制を構築することで、継続へのモチベーションを高め、「あれ、俺ってどんな目標立ててたんだっけ」「この数か月って俺どこが成長したんだっけ」というような虚しい現象を避けることができます。実際に目に見えるような結果がもし出なかったとしても、自分がやってきたトレーニングの成果、獲得してきたスキルについて適切な評価をすることができます。これは、自分に対する自信にもつながります。そして次の新しいスキル獲得への一歩を踏み出すことにもつながります。

3.後編に向けて

この前編では、目標を立てることの本当の意味や効果について語らせてもらいました。

目標を立っぱなしにしてしまう人の多くが、「目標を立てること」自体に大きな意味があると勘違いしています。もう一度言いますが、「目標を立てること」にははっきり言ってなんの意味もなくて、これも「トレーニングの質が高まること」があって初めて意味を成すものになるのです。

「目標設定」というものに対する捉え方が、少し変わってくれていたら嬉しいです。今まで述べてきたことは、これから実際に目標を立てていくうえで絶対に知っておかなくてはならない前提条件です。

後編では、「実際にどうやって目標を立てていくか」というところをまとめていきたいと思います。内容としては、
1. 目的と目標の違い
2. 目標の種類
3. 目的を設定する
4. 成果目標を設定する
5. パフォーマンス目標を設定する
6. 行動目標を設定する
7. 目標を評価する
というようなことを書いていきます。

この前編を読んで目標設定に興味を持った方は、ぜひ後編も読んでいただきたいです。できるだけ早く書きます。
また、質問やご意見もお待ちしています!完全に答えがある分野ではないですし、議論していきたいです。











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