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「ジェンダー平等」と表現の自由

「ジェンダー平等」への批判いろいろの補足です。「ジェンダー平等」のうち「男女平等」が、「表現の自由」とぶつかるところがある、という話です。

 「表現の自由」は辞典によれば、

音声や文字、あるいは画像などにより、個人が内心にもっている思想、意見、主張、感情などの精神作用を、自己の外部に向かって表明する自由。

日本大百科全書(ニッポニカ)

 となっています。表現の自由がいかに大事なものであるかは、日本国憲法にも

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

日本国憲法第二十一条

 とあることからもわかります。

 さて、女子差別撤廃条約という国際条約があり、日本も締結国となっています。その第5条(a)がこれです。

締約国は,次の目的のためのすべての適当な措置をとる。
(a) 両性いずれかの劣等性若しくは優越性の観念又は男女の定型化された役割に基づく偏見及び慣習その他あらゆる慣行の撤廃を実現するため,男女の社会的及び文化的な行動様式を修正すること。

女子差別撤廃条約

 要するに、「男女平等」のために、各国は「社会的文化的な行動様式」を修正しなければならない、と書かれてあります。
 どんな「社会的文化的な行動様式」を修正しなければならないのかは具体的には書かれていませんので、別の場で話し合うことになります。それが、女子差別撤廃条約の第17条にある女子差別撤廃委員会となっています。

この条約の実施に関する進捗状況を検討するために,女子に対する差別の撤廃に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。

女子差別撤廃条約

 各国は条約の実施状況を数年おきに国連事務総長に報告し、委員会はそれに対して見解や勧告を返します。日本の場合は第9回の報告が済んだところのようで、女子差別撤廃委員会からのリアクションは第7回及び第8回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解までが公開されています。

 委員会からの見解には、女性が結婚できる年齢を男性と同じ18歳にしろ(法改正されました)とか、夫婦別姓を選択できるようにしろ(法改正されてません)とかいろいろ含まれています。
 その項目20がこちらです。

固定観念と有害な慣行
20.委員会は、家父長制に基づく考え方や家庭・社会における男女の役割と責任 に関する根深い固定観念が残っていることを依然として懸念する。委員会は,特 に以下について懸念する。

  • (a) こうした固定観念の存続が、メディアや教科書に反映され続けているとと もに、教育に関する選択と男女間の家庭や家事の責任分担に影響を及ぼし ていること、

  • (b) メディアが、性的対象とみなすことを含め、女性や女児について固定観念 に沿った描写を頻繁に行っていること、

  • (c) 固定観念が引き続き女性に対する性暴力の根本的原因であり、ポルノ、ビ デオゲーム、漫画などのアニメが女性や女児に対する性暴力を助長してい ること、並びに

  • (d) 性差別的な発言が、アイヌの女性、同和地区の女性、在日韓国・朝鮮人の 女性などの民族的及びその他のマイノリティ女性や移民女性、並びに女性 全般に向けて続いていること。

  • 第7回及び第8回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解

     特に注目すべき点は(c)にゲーム、漫画、アニメがあげられているところかと思いますが、この日本語訳はなんだかわけわかりませんね。「ポルノ、ビ デオゲーム、漫画などのアニメ」ってなんなんでしょう。英語原文を見てみましょう。

    (c) Stereotypes continue to be the root causes of sexual violence against women and that pornography, video games and animation such as manga promote sexual violence against women and girls

    第7回及び第8回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(英語)

     「固定概念が女性への性暴力の根本原因になり続けている」まではいいでしょう。「ポルノ、ビデオゲーム、そしてアニメーション(マンガなど)が女性への性暴力を促進している」?
     やっぱりよくわかりません。animation such as mangaってなんだ。マンガはアニメじゃないぞ。

     実は次の項目21(b)にこうあります。

    Effectively implement existing legal measures and monitoring programmes in order to regulate the production and distribution of pornographic material, video games and animation that exacerbate discriminatory gender stereotypes and reinforce sexual violence against women and girls;

    第7回及び第8回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(英語)

     「ポルノ類、ビデオゲーム、アニメーション」。マンガはやっぱり「アニメーション」の一部とされているようです。個人的にはこんな低い認識で規制うんぬん言ってほしくないですがそれはさておき。 

     ともかく、ビデオゲームやアニメーションやマンガといった「表現」が「男女平等」の観点から規制の対象となっていることはわかっていただけたかと思います。
     「男女平等」と「表現の自由」がぶつかっている部分と言えるでしょう。

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