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生き写しバトル【毎週ショートショートnote】

そのとき、父は微笑んでいるように見えた。

僕は少し乾いた寿司を口の中に入れてから、醤油をつけ忘れたことに気付いた。まあ、べつにいいか。そう思ってため息をついたとき叔父に声をかけられた。

「長男の顔は兄の若い頃にそっくりだよ」

「そうなんですね」隣に座っていた僕の弟が答えた。

「弟さんの声は兄にそっくりだ。生き写しだよ」

「僕もそう思います。父と電話すると自分と話しているようでした」

「兄と弟で、顔と声の生き写しバトル勃発だな」

「どっちが勝つんですかね」弟が言った。

誰が父にどう似ているかなんて、どうでもいい。

本当にどうでもいいのだが、父に一番似ているのは叔父だ。

あんたが一番父にそっくりなんだよと僕は言いたかった。

顔も声も皮肉を込めたジョークも、すべてがだ。

だが、僕は何も言わずにいた。

そのイラッとするような皮肉の効いた叔父のジョークを聞いて、僕は父のことを思い出していたからだ。

もう一度、父の顔に目をやると、父は微笑んでいた。


(410字)



たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました。

※オチはないです。


*この記事は、以下の企画に参加しております。


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