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2010.11.23を私は知らない(相模原公式記録員見習い戦記・第30節vs山口)

レノファ山口FC戦。

2015年のJ3、そして今年の前半戦、これまでのリーグ戦での4回の対戦は全て相模原の完封負けです。勝点1どころか、得点1すらありません。

相性悪い相手ですねえ、と、長く相模原を見てきた方に話を振ったところ、

「いや、なんたってひたちなかでしょ!」


その一言で思い出しました。当時の私にはネットの中の出来事でしたけど、そういえば……。


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2010年11月23日。第34回全国地域サッカーリーグ決勝大会、1次ラウンド最終日。

JFL昇格をかけたこの大会に初めて挑んだ、当時神奈川県リーグ1部のSC相模原は、初日と2日目、格上相手に2連勝。

最終戦、90分を同点以上で終えれば1次ラウンド突破・決勝ラウンド進出というところまで来ました。

当時は90分で決着が付かなければPK戦を行うルールでしたが、このときの相模原は、PK戦に進めばその時点で勝敗によらず決勝ラウンド進出決定という状況でした。なお、決勝ラウンドに進むと、4チーム中2位までがJFL昇格、3位だとJFL下位チームとの入替戦、という状況でした。

その最終戦の相手は、2連敗で既にグループ最下位での敗退が決まっていたチーム。つまり、彼らにとって相模原との最終戦は、JFL昇格という観点では完全な消化試合でした。

その相手に対して、相模原は開始7分で2点のリードを奪い、後半の半分までこれをキープします。

残り、アディショナルタイムも含めて約25分。シュートの1本も許さず進めてきた状況で、最悪2点までならとられてもOK。


……ところが、後半23分の失点で一気に暗転。33分にリードを失い、それでもまだそのまま終われればよかったはずですが、選手交代での立て直しもきかず42分に逆転ゴールを浴びて敗戦。

他会場の結果も相模原に微笑まない形になり、飛び級でのJFL昇格の野望はこの1敗で断たれたのでした。


これが、2010年11月23日、茨城県・ひたちなか市総合運動公園陸上競技場での出来事。

当時のSC相模原にとっては、クラブ創設以来最大の衝撃であったことでしょう。私にはわかりませんが、ひょっとしたら、11年経った今でも、クラブ創設以来最大の衝撃という言葉は変わらないかもしれません。


そして、この大逆転を食らわせて大会を去ったチームこそ、中国リーグ王者、レノファ山口FCであったのです。

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その山口に、Jリーグでも全く勝てなかった山口に、相模原はついに勝つことができました。それも、今シーズンのベストゲームに挙げてもいいくらいの快勝でした。

高い位置でもどんどんプレッシャーをかけて奪いに行く。ひとたび奪えば、周りの選手がすっと前に出て、あるいはサイドに張り出して、速攻を始める。

守備でも、まず相手の攻撃を遅らせる。深い位置まで持っていかれても、その後の受け手を抑え込んで選択肢を狭める。もしシュートまで行かれても、しっかりシューターに寄せてコースをつぶして、有効なシュートにはさせない。

それを最後まで徹底できていたと思っています。

得点シーン、38成岡の正確にスペースを狙ったパス、DFを背負いながら先にそのスペースに頭を投げ出した23平松。縦パスにすっと抜け出して1対1をつくった39松橋、最後までGKを見ながら正確にPKを叩き込んだ4藤本。どれも見ていて頼もしいプレーでした。

もちろん彼らだけの奮闘で為しえた勝利ではありません。サイドでの速攻に貢献した2夛田、13石田。徹底して相手の攻撃を無力化し続けた30川﨑、18白井、31木村。確実にシュートストップした21竹重。後ろに前に動き続けてスペースを埋めつなぎ役になった15川上。プレー時間は短かったですが、交代で出てきた選手たちだって、最後までしっかり役割を果たしました。


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試合のシュート数は相模原6-14山口。2点を奪った前半こそ5-3でしたが、後半だけだと1-11でした。

これだけ見ると、反撃する山口の前に押されに押され、それでもどうにか耐えてしのいで勝点3を手に入れた、というようにも見えます。少なくとも、およそ快勝という言葉には似つかわしくない数字であります。

でも、観戦されていた皆さん、どうだったでしょうか。この数字の印象どおりの後半だったでしょうか。

私の記憶では、11本打たれたシュートのうち、本当にひやっとしたのは1回くらいで、あとは余裕を持って対応できるものばかりだったと記憶しています。


もちろん、相模原が1本にとどまった(具体的には、後半39分に17星の左クロスに9ユーリが合わせて外したやつです)というのは要反省なのかもしれません。ただ、2-0でリードしている状況ですから、無理して攻めずにがっちり相手を受け止める方針でいたかもしれないし、それならそれでアリ。

チームが、やりたかったことと照らし合わせて、意図どおりにできたこと、できなかったこと、それぞれに総括して今後に活かしてくれれば十分と思います。


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2-0で後半も半分を過ぎ、ひょっとしたら、2010年11月23日を思い出した方もいたかもしれません。実際、今回も、その時点から8本のシュートを浴びました。

ですが、とても安心して見ていられる試合でした。

最下位という言葉が似合わない、快勝でした。


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この勝利で、相模原は最下位を脱出。それどころか、一気に降格圏すら抜けるジャンプアップとなりました。

もちろん喜ばしくないわけがありません。だけど私は一方で、だから何?という気持ちの方が強くあります。

全ての試合を終わったときにどこにいるかが重要なわけで……それは去年のチームがずっと言い続け、そして体現してくれたことだし、今回の試合を終えた後の高木監督インタビューでもお話があったこと。

今の順位はあくまでもそのための一里塚。


前半戦、21チームとの対戦を終えて勝点13にとどまったチームが、後半戦わずか9試合で前半戦を上回る戦果を挙げました。

試合後、スタジアムの照明を少し落とした中でたくさんのスマートフォンやペンライトが輝く光景が、遠ざかっていた希望の光とダブって見えて、とても心地よく感じました。

ただ……、申すまでもなく、これでハッピーエンドが約束されたわけではありません。

ハッピーエンドなんて、たとえつかみかけたって逃げていくもの。それは、2010年11月23日、このクラブが痛感したであろうこと。

私はその日のことを知りません。ただ、そういうことがあったということを忘れず、これからも自分の務めを果たしたいと思っています。


残り12試合。慢心せず、過信せず、されど自信を持って。

ハッピーエンドに向かって、歩んでいきましょう。


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