見出し画像

実例:コミュニティによる市場づくり

アウトプットの背景

コミュニティの育成・活性化を支援している立場から、過去に自分が手掛けた手法についてアウトプットしていくことにしました。コミュニティのご相談を受ける際に、議論の「土台」になれば幸いです。

スコープ(説明する範囲)

今回の #note で説明する内容の範囲(スコープ)は以下の通りです。

・IT業界のユーザーコミュニティ
・一般公開型(誰でも参加可能)
connpass / Slack 
Rancher / OSS
Docker / Kubernetes

コミュニティづくりのなかで「マーケット」との対話を通じ「仮説検証」を行いながら規模の拡大を図った実際の事例を紹介します。

初回Meetup実施

2016年8月、私はRancher Japan (「Rancher」開発提供元)の日本代表に就任しました。Rancherは(当時)Dockerを用いたアプリケーション実行環境をGUI/CLIで提供するOSSでした。初期立ち上げメンバー(=コアメンバー)づくりの手法については別のアウトプットで紹介するとして、今回は1回目のMeetupイベント実施から説明します。

第1回 Rancher ユーザー会は、株式会社リクルートテクノロジーズ様の会場をお借りして行いました。集客はconnpassを用いました。

コミュニティにおいてMeetup第1回目は期待値が高く、いわば「ご祝儀」的に参加登録者が伸びます。コミュニティイベントの「関門」と言われる第3回目も大盛況で「どうやらRancherが流行っているらしい」という評判が多く聞かれるようになりました。なぜならこのRancher Meetupは、キャンセル待ちが多く積み上がるイベントでした。当時はDockerに関する関心が高く、貪欲に情報を求めるエンスージアストに支えられていました。

マーケットのギャップ

順風満帆に見えたRancherのコミュニティづくりも、規模が大きくなるにつれてある課題が浮かび上がります。それは「Rancher、その前に」問題。つまり、そもそもRancherを使いこなすためのDockerの基礎知識が無いという参加者が多かったのです。孫正義氏が名付けた「タイムマシン経営」という言葉があります(海外、特に欧米で成功した事業モデル・サービスを日本に持ち込みいち早く展開する経営手法)が、当時の日本は本番環境におけるDocker基盤の利用事例が極端に少ない状態でした。そこに来て「エンタープライズ向けDocker基盤管理ツールOSS」という非常にニッチなポジショニング。このマーケットの「ギャップ」を埋めるための工夫が求められました。前述のとおり集客や認知面では一定の成果を収めていたものの、海外と日本市場における多くのギャップの「何重苦」に悩まされていたのです。

直面した日本市場のギャップ
・Dockerを使ったことがない
・Dockerを業務で使えない
・Dockerの本番環境事例が稀
・OSS=無料ソフトウェアの認識
・エンタープライズで"冒険"はできない

私は「日本代表」といえば聞こえは良いですが、実際は「一人目の営業パーソン」です。海外と同じスピードや規模感で市場の拡大を求めていた私のボスだった人から毎週のようにこう言われました。

「なぜ日本企業はそんなに決断が遅いんだ」
「中国では億単位の案件がいくつも来てるぞ」
「お前はカンマネだ!コミュマネじゃないだろ」

Meetupの参加者たちは自社でDocker、Rancherを使いたがっている。しかしそう簡単には導入できないと言われてしまう。そしてそのRancherを使いたい人たち=Docker初心者たちでもある。毎週のようにボスの罵詈雑言に追い込まれ絶体絶命に陥った私は、マーケットから直の「声」を聞きヒントを得てある仮説をたてました。市場がないなら、自ら創れば良いのでないか?

「市場を創る」

前章で説明した「Rancher、その前に」問題(Rancherを使う前にDockerの基礎知識が必要)を解決し、自らの存在が「IT業界の良き先導者」となるべく「Docker初心者コミュニティ」を立ち上げることにしました。

このDocker初心者コミュニティ「くじらや」は、最終的に1年1ヶ月の活動で北は北海道から南は沖縄まで、まさに全国津々浦々に広がりました。参加者からの評判もよく、全国に「仲間」ができました。これが後のコミュニティイベント全国行脚につながりました。

このような地道な活動が功を奏し、その後Rancherは本格的な導入が進みました。NTTコミュニケーションズグループのコンテナ基盤サービスLINE社のCaaS(Container as a Servie)基盤、インターネットイニシアティブ(IIJ)社などに採用され、Think ITにも取り上げられました。市場との「対話」が、市場の「創造」につながりました。

まとめ

コミュニティ運営で課題に直面したとき「対話」は非常に重要です。今回はRancherというツールが「日本市場において早かった」ことによるギャップとの「対話」ですが、以下のケースも考えられます。

・「熱量」が上がらない
・「広がり」が見られない
・「登壇者」が見つからない
・「事例化」に応じてくれない

このようなコミュニティの課題を、その参加者(顧客)との「対話」を通じて解決していくことが重要です。

なぜ、そのコミュニティは盛り上がらないのか?
なぜ、その人(企業)は動いてくれないのか?

これらについて、今後もコミュニティの支援を通じながらアウトプットしていきたいと思います。

#コミュニティデザイナー
コミュニティの立ち上げ・活性化などのご相談は @shindoy のDMにて受けつけております。お気軽にご連絡ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?