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47の居酒屋日記 第15夜 大分県「湖月」

大分県別府といえば日本随一の温泉観光地。道路の至る所の隙間から、「地獄」ともいわれる温泉の湯煙が立ち上っている光景が、今でも幻想的だったと思い出します。如何わしい風俗街も、日本各地の温泉地には付きもので、よく怪しい婆さんの客寄せを振り切って街を散策したものです。さて、そんな温泉地で、今回ご紹介したいのが、「湖月」という“居酒屋”です。特筆すべきが、そのメニュー。額装された色紙に、「舌代 鍋烚 六百圓也 ビール 六百圓也」と、書かれただけの潔さ。(『舌代(しただい)』とは、口で告げる代わりに文字で簡単に書き表したもので、申し上げますの意)いわゆる餃子の専門店なのですが、本当にこれだけでこの店はやっていけるのか?と、心配にもなったほど。店内は、カウンター6名席ほどしかなくて、すぐに満席になってしまいますが、そこは回転が早いので、行列ができていてもご安心を。さて、肝心の餃子は、パリパリとした薄皮が香ばしく、パクパクといけちゃうほどの小ぶりなもの。どうやら九州の餃子は、お茶缶の蓋を使って生地を型取っていた歴史があるらしく、このサイズが定番。2個同時に食べる人もいるほどで、一人前なんてあっという間に平らげてしまうので、一人でもここでは二人前を。焼いている間は、黙って瓶ビール。飾り気のないシンプルな店内では、あえてiPhoneも見ず、店内の雰囲気を肴に、ビールを二本目に突入させる。そう、これがこの店の楽しみ方。餃子の味は……もはや記憶にありませんが、一度行けば、一生、記憶に残る“居酒屋”です。

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