滅亡人類

 はるか昔、人類が大陸の各地に分布するよりも、もっと前のお話。人類がまだ狩猟を行い、野生の一部として常に命をかけて日々を送っていた頃…。


 彼ら人類は、他の動物よりも幾分か脳が大きく、ロジカルな思考を持っていた。二足歩行で手を器用に使うという能力も持ち合わせており、コミュニケーションを交わすための言葉を使い、集団で行動していた。


 だが、人類は繁栄しなかった。何故か他生物の方がはるかに生存率が高く、人類は常に存続の危機に侵され続けていたのだった。


 そんな危機に立たされる原因の一つに同種族間の争いがあった。彼らは日々、同じ人間同士で争い合い、お互いを滅ぼそうとしていたのだった。


 そんな地上世界の、はるか上空にある天上世界で神々が集まり、地上の情勢を見ながら話し合っていた。

 「また、喧嘩しよる。どうしてあやつら人間どもはいつも同種族間で争うのか。全く理解ができんの」

 「全くだ。もう少しくらいお互いを尊重し争い合わない方法はないものか。これじゃ、箱舟に乗せて救った意味もないぞよ」

 神々は地上に憂いを抱いていた。滅ぶのは勝手だが、世界を七日間で急いで作ってしまい、欠陥だらけにしてしまった手前、少しばかり地上の生物に対して、責任を感じていたのだった。

 「アダムとイブはもう少し上手くやっとったがなぁ。まぁ、少しは責任を感じるところはあるから、何とかしてあげたいが…。って、あーあぁ、まーた始めおった…」

 

 「貴様、その獲物は俺が狙っていた獲物だぞ」

 「知るか。先に獲った方が勝ちなんだよ。さっさと帰りやがれ」

 「くそ、お前を殺してでもその肉を奪ってやる」

 「ふん、そのヒョロっこい体で俺に勝てると思うなよ、このくそ野郎め」

 

 「あら、あなた汚い服ね。女なら、もっと美しい貝殻とか飾れないのかしら。私みたいに」

 「あら、あなたみたいに何かで飾らないといけないほど不細工な顔をしていないからよ。お猿さん」

 「キー、何よあんたなんてこうしてやる!」

 「あら、力ずくなんて本当野蛮だわ。この人間に化けた化け猿!」


 「お前は料理だけはうまいな。あとは面さえよければな」

 「あら、私があなたといてあげているのは、あなたが獲物を取る腕が一流だからよ。ただそれだけ。それがなければあんたみたいな人なんて」

 「なんだと?もう一回言ってみろ」

 「えぇ、何度だって言ってやるわよ」


 「はぁ。もうそこかしこで争いの火種できているじゃないか」

 「何か人間に力を与えようか。もう少し種を存続できるような何かを」

 「そうじゃな、だが何がいいか…。何かいい案があるもんはおらんかの」

 その時、一人の神が立ち上がり言った。

 「こんな力はどうだろうか…。これなら世界の均衡に大きな影響を与えることなく、争いも少しは無くなるんじゃないかな」

 「あぁ、そりゃいい。では早速今から人類にその力を与えよう…」


 そして時は流れ、現代。

 「あら、奥様。いつも綺麗ね。本当、センスが光っていますわ」

 「あら、あなたこそ。あそこの奥様はいつ会っても若々しくて綺麗ねって、いつも旦那と話していますのよ」

 「あら嬉しいわ。ではごめん遊ばせ」

 「ええ、では…」

 …。

 「君の料理は本当に美味しいよ。顔だけじゃなくて料理の腕もいいなんて、僕は、最高の女性と出会ってしまったみたいだね」

 「あら、あなたこそ逞しくて、いつも頼りになるわ。いつも友人に自慢しているのよ」

 …。

 「部長、今日もスーツがバチッと決まって格好いいです。本当憧れの上司です」

 「おいおい、そんな褒めんでくれ。君の仕事ぶりはいつもしっかりと見ているよ。期待しているからね」

 「ありがとうございます!」

 …。

 「私はこの国を本当に変えたいと思っています。そのためにはまず私に皆様の清き一票を…」

 …。

 「あれから随分経つが、あの力のおかげで人類はかなりの繁栄を極めたようじゃの」

 「そうだな。あれからというもの全ての人類が等しく毎日この力を多用しているようだ」

 「うむ。にしても少し増えすぎたのか、世界の均衡が崩れつつある。全く、繁栄を極めれば次は同種族間だけでなく自然や他の種まで無意味に破壊するとは、人類は救えん生物だ」

 「そうじゃの。ではそろそろ、人間から嘘の力を取り上げるかの…」

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