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やっぱり地方でトンボ帰りしなくてよかった


寄り道っていいものですね、という話。

今日は、東京駅から新幹線で1時間の、群馬県みなかみ町に行きました。向かったのは林業の仕事で関わって4年目の町役場。用事は打ち合わせだけなので、トンボ帰りの予定でした。

「会議のためだけに往復するのもなぁ」

年度末からボーッとする余裕も取れずにバタバタ過ごしてて、ようやく一息ついてそんな気持ちになっていたところでした。

親しくなった人の顔を思い浮かべ、「駅近くに日帰り湯とかありましたっけ」と尋ねました。すると、「●●温泉は手軽ですが、上垣さんならこちらとセットのほうがいいのでは?」と、まるでファーストフード店でフライドポテトをすすめるかのように、彼はすぐに情報をくれました。

こじんまりとした湯質のいい温泉でした。受付の女性に話しかけると、どこから来たのとか、あそこは良いパン屋だよとか、そうそうあの子はパン屋の子を預かってるんだよとか、たわいもない会話をしてくれる素敵な空間でした。(温泉のすぐ外に無料の足湯とこんなマンガがある)

そして、温泉から歩いて…


しばらくすると、友人が「セット」で紹介してくれた店がありました。

クラフトビール「オクトワンブルーイング」。群馬県みなかみ町の小さなビール醸造所です。(写真はオクトワンFBより)

「お久しぶりです」

店主の竹内さんが声をかけてくれました。

彼と会うのは2度目でした。初めて会ったのは、ボクが携わる、林業の研修でのことでした。ビール工房の彼はその時の研修の受講生でした。

「ビールは良いですよ。なんといっても、自由なんです」と竹内さん。30代後半からビールの魅力に取り憑かれ、趣味でビールの研究をしていたと言います。

自由。と彼が言うのは、完成までの工程がそれなりに決まっている酒類と比べて、ビールは原料の組み合わせや仕込みのタイミングなど、多様な組み合わせで生み出されるものだからだそう。

この日、店に出していた7種のクラフトビールも、エールやIPAといった王道タイプのもののほか、糖分が少なくて生食用からはねられたリンゴを独自のタイミングで仕込んだり、手作りを楽しんでいるようでした。(ちなみにボクがオーダーした3種の右がリンゴ系の「はんぶん林檎」。奥に見えるタップに各種クラフトビールのタンクがつながっている)

決まった味を安定して出す「地ビール」とも区別して言葉を選んでいる彼に、いろんな方面から突いてみると、面白い話が出てきました。

「クラフトビールの世界は、ノウハウを惜しまず共有するマインドがあるんです」。
竹内さんが名前をあげたのは、クラフトビールの礎とされているチャーリーパパジアンという人物でした。『自分でビールを造る本』として翻訳発表されている書物の著者です。世界のクラフトビールの醸造家らは、自らが使うポップや麦などの原料、製法などを惜しげもなくシェアしてくれるそうで、彼も世界の国々のブリュワリーでノウハウや素材を分けてもらってるそうです。

クラフトビールの原点は、各家庭で仕込むホームブリュワリーにあるようです。「飲み手も、作り手も、多様な種類から選べる楽しさがあります。種類を絞って量産して儲けを出す経営手段もありますが、そうしたら“何のためにここで始めたのか”初心を見失いますから、僕は減らしませんよ」と笑います。

日本でもドブロクという、コメを原料にした飲み物があります。ドブロクを振る舞い逮捕され、国と裁判で戦った前田俊彦という(偉大な)農民の話を紹介すると、竹内さんは笑いました。

そんな会話をしていたら、カウンターの後ろのドアを開ける音が聞こえてきました。どこかで見たと思ったら、「あ、ご無沙汰してます」と。その方も林業研修卒業生で、ガラス工芸をしている畠山さんでした。

偶然にも、ボクも含めて3人ともに林業の研修で出会った人たち。

「いいビールをつくるためにはいい森をつくらないといけない」と熱心に語る竹内さん。畠山さんは研修で習った技術をさっそく実践しているようで、その木の切り方がしっくりきていて喜びを共有してくれました。林業からクラフトビール、ガラス細工の話に花が咲きました。

非合理的な寄り道。(研修のような)明確な目的にはない場所に、人の魅力が感じられるものかもしれませんね。


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