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物価高騰をあおる残念な人が増える予感

2022年5月6日に、消費者物価指数(東京都区部)の4月中旬速報値が総務省統計局で公表されました。(*1)
この統計によると、消費者物価指数(対前年比)は、
+2.5%:総合
+1.9%:生鮮食品を除く総合
+0.8%:生鮮食品及びエネルギーを除く総合
と、大きく伸びました。
東京都区部の消費者物価指数は、今月の5月20日に公表予定である全国の消費者物価指数と近い値をとるだけに、注目していました。

日本銀行が物価目標としているのは、生鮮食品を除く総合指数で、安定的に2%となることです。数字上は、+1.9%ですので、目標の+2.0%にかなり近い数値と言えます。この消費者物価指数の上昇を受けて、物価高騰をあおり、金融政策の引締めを行うよう圧力をかけるような残念な人たちが増える予感がしてなりません。
「悪い円安がー」と騒いでいた人たちや団体と重なる気がします。
残念な言説に踊らされないように、気を付けるべきポイントを、まとめてみました。

携帯料金値下による物価下押し要因の剥落

2022年3月の消費者物価指数の [総合指数の前年同月比に寄与した主な内訳] の下落の欄を確認すると、次のような記述があります。」
通信料(携帯電話)-52.7%(-1.42)
これは、消費者物価指数の下押しをしたうちの52.7%、約1.42%を携帯電話料金の下落が占める、ということを意味しています。
これは、菅義偉元総理大臣が推進した携帯電話料金引き下げという政策的な効果によるもので、この効果が統計上、2022年4月からは剥落します。
ですので、先ほどの東京都区部の消費者物価指数が大きく上昇したように見えますが、そのうちの約1.4%は、その統計上の数値の処理によるものです。
この1.4%を機械的に引いた値で、消費者物価指数をみると、以下の表の一番右の列の値となり、コアCPI(消費者物価指数 生鮮食品を除く総合)は、0.5%と、物価目標の2%には、まだまだ距離があることに留意する必要があります。

表1:データ出典:総務省

また、上述のデータをもとに、月次の消費者物価指数(東京都区部)のグラフを作成しました。表1の左側の数値を基にしたのが図1, 表1の右側の数値を基にしたものが図2です。だいぶ、印象が変わりませんか?

図1:データ出典:総務省
図2:データ出典:総務省

物価高騰ではなく資源価格高騰

先ほどの消費者物価指数には3種類あることは、お気づきだと思います。
2つめは、総合指数から、生鮮食品を除いています。
3つめは、総合指数から、生鮮食品及びエネルギーを除いています。

これらは、金融政策では制御が難しいため、米欧の先進国では、3番目の消費者物価指数をコア指数と呼んで、金融政策における物価目標のターゲットとしています。
天候不順で生鮮食品が高騰することがありますが、金融政策で天候を制御するのは、難しいと思われます。
また、口シアによる侵略が行われて以降、原油価格をはじめ、エネルギー価格が高騰しています。金融政策で、侵略を止めたり、原油を増産したりすることは、難しいと思われます。

東京都区部の3つ目の生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI)をみると、0.8%の上昇しかしていません。対して、総合は、2.5%ということは、生鮮食品とエネルギー価格が高騰しており、それが消費者物価指数を押し上げている、ということが分かると思います。

先日の黒田日銀総裁の講演でも、エネルギー価格高騰について触れられており、また、コアコアCPIを見ると、伸びが弱いことが指摘されています。
黒田総裁は、米国に比べて日本が、個人消費が弱いこと、労働需給がひっ迫していないこと、消費者物価の伸びが弱いことにも言及されています。
そして、このような状況では、金融緩和を継続する必要がある、と指摘されています。

資源価格高騰への対応は財政政策

金融政策が緩和を維持したままですと、資源価格高騰の影響をうけ、
1. 家計の実質所得減少
2. コスト増加による企業収益の悪化
3. 1,2 を通じた景気下押し、雇用環境悪化
が懸念されます。
財務省・岸田文雄政権に、打つ手はないのでしょうか?

元内閣官房参与の本田悦郎氏は、次のように述べられています。

御用学者が「悪い円安」だと騒いでいる。足元の円安は経済に悪影響を与えており、日銀は金利を引き上げるべきとのこと。しかし、この論者は経済の基本をわかっていない。変動相場制の下では、金融政策は国内経済の安定の為に割り当てられ、長期停滞脱出が最優先。輸入価格の高騰は税財政で対応すべし

https://twitter.com/etsuro0112/status/1512801957588914178

なるほど、日本国民が高い税金を払っている財務省・政府には、財政政策を行う、という選択肢もありますね。
消費税率を引き下げると、下げた税率分と同程度、家計の実質所得は増加します。
ガソリン税の暫定税率を廃止するなど、エネルギー価格を引き下げるような税制とすることで、企業のコスト増を圧縮できます。
また、原発再稼働による化石燃料への需要減を併用することで、化石燃料価格の抑制、企業のコスト増の圧縮にも効果があると思われます。

「悪い円安がー」
「物価高騰がー」
「米欧は金融引締めをしているから日本も乗り遅れるな」

これらのことを言いながら、財務省・岸田文雄政権に減税などの財政支出拡大を訴えないメディアや有識者っぽい方、経済に詳しそうな方がいらっしゃったら、それ、「残念な人」かもしれません。

日本の経済紙の中には、リフレ派の「渡辺よしみを出すな」「岩田規久男を出すな」というメディアがある、と海外の有名大学の名誉教授からお聞きしたことがあります。
その新聞は、消費増税賛成や復興増税など、国民負担増の論説は多く掲載している新聞だそうです。
日本には、マクロ経済政策において、世界標準的な経済学をベースにした論説を掲載してくれるメディアは存在しないのでしょうか?

日本経済新聞社のWebサイトで、円安と日銀の金融政策に肯定的な記事を見つけました!さすが、FTです!

[FT]円安、日銀には物価「2%目標」達成の好機(社説): 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB010AB0R00C22A5000000

英語の元記事は、こちら
Yen weakness is an opportunity, not a threat, for Japan https://www.ft.com/content/9acaf2e1-bfa3-4e44-9499-8a2bf0ce2cd5


悪い円安、物価高騰、この言葉を聞いたら、要注意です。
残念な人を見分けるリトマス試験紙、有ると思います。

"「マクロ経済学を学ぶ目的の1つは、ジャーナリストや評論家や政治家にだまされないようにするためである。」"
(ジョーン・ロビンソン)

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