日曜討論で岩田規久男元日銀副総裁が無双な件
日曜討論を久しぶりにテレビで見ました。その中で、岩田規久男元日銀副総裁が、とても大切なご発言をされていたので、一部を書き起こし。
日曜討論「値上げ・円安・新型コロナ... 日本経済の先行きは」
初回放送日: 2022年7月31日
https://www.nhk.jp/p/touron/ts/GG149Z2M64/episode/te/M7ZGNMZK5R/
有識者が日本経済の先行きを徹底討論▼暮らしを直撃!物価高・記録的円安への対応は?▼「金利引き上げ全くない」日銀の出口戦略は?▼賃上げ実現のために打つべき手は
ご出演
井上鉄工所社長 井上裕子 さん
学習院大学名誉教授、元日銀副総裁 岩田規久男 さん
野村総研エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英 さん
法政大学教授 水野和夫 さん
東京大学大学院教授 柳川範之 さん
以下、岩田規久男元日銀副総裁のご発言を、僕が可能な限り拾って、記載しました。
■ポイント
1.個別価格と一般物価の区別
2.需要不足解消が賃金上昇の鍵
3.残念エコノミストは教育必要
円安を金利差だけで説明しようとするエコノミスト、金融政策を早く引き締めさせようとするエコノミストに関しては、岩田規久男元日銀副総裁のご発言で、勉強するリカレント教育を受けてほしいな、と感じました。
木内元日銀審議委員のコラムを批判的に検証した記事もご興味があれば、ご一読ください。
https://note.com/shinchanchi/n/nadc6b73804b3
4:27~ 現在の経済状況について
一番最近時の四半期はマイナス成長にちょっとなったんですけども、でも、コロナ感染問題前のGDP水準には戻っています。実際の水準は、ですね。最近で伸びたのは消費ですけれども、ただ、消費というのは、直近では、蔓延防止がとられて、そういう風になると非常に下がる、ということで、行動制限が外れると感染もなくなると消費が伸びる、ということを繰り返している。
一番弱いのは企業設備投資です。結局、どういうことになるかというと、日本経済は需要不足です。ここが大事です。内閣府の試算で言うと、20年は27兆円の需要不足、21年は21兆円、で、来年もおそらく需要不足になると思います。ですから、需要不足に対応する経済政策を考えないといけない、ということが第一点。
物価ですけれども、日本は6月で2.4%(総合消費者物価指数)で個別だと上がっているけれども、全体ですとその程度でして、イギリスが9.4%、アメリカが9.1%と高いわけなんですけれども、アメリカは特に一生懸命利上げしているのにこれだけ物価が高いですね。日本よりも。アメリカというのは実は、20年から21年にすごく財政金融を両方ともすごく緩和したんです。ですから、今言った、原油高とか穀物高だけでなくて、需要が多すぎて上がっているんで、その辺、日本と違うというところを気を付けて、物価対応をしないと政策を間違える、という状況だと思います。
18:00~ 政府の経済政策について
いま日本は物価上昇している、というのではなくて、ロシアのウクライナ侵攻によって、食品とかですね、エネルギーというものが上がっている、これは実は個別の価格が上がっている。一般的な物価が上がる場合には金融政策で対応するというのが常道なんですけれども、こういうふうに個別の価格の場合には、さきほど、木内さんが(明確に聞き取れず。。。)、意外に意見が一致するんですけれども、こういう場合にはですね、生活必需品ですからね、低所得者に一番痛手がくるわけで、こういう場合には、所得再分配政策で対応するというのが、常道です。物価対策という金融政策ではなくて。たとえば、日本ではマイナンバーが銀行で紐づけてないものですから、銀行口座と、低所得者がきちっと把握できないんですね。ですから、一つの考え方としては、国民民主党がやっているような一律に一人10万円とか配る、何万円かわかりませんけれども、そのくらい配って、ある一定の所得以上の人は、確定申告で給付金は所得に含めて確定申告する。そういうふうにして返す、と。高所得者までは。
そういうふうにして、生活に一番困っている方にピンポイントで、さきほど木内さんが仰ったようにやるというのは常道だと思います。
24:46~ 円安、日銀の政策について
22年からアメリカが次々に利上げしているんですけれども、アメリカに追随して利上した国の為替がどうなっているかというと、イギリスは政策金利を1.2%まで上げているわけですが、ロシアのウクライナ侵攻前よりもですね、ポンドもドルに対して11%も安くなっている。日本より若干低いですけれども、同じようにポンド安になっている。韓国は実はですね、アメリカより早く7月の13日にすでに2.25%まで政策金利を上げているんですけれども、やはりウォン安が9%と続いている、というふうにですね、基本的には、これは、金利差だけではなかなか説明できない。どこが利上げしてても、ほかの国、日本は利上げしてないですけれども、ほかは、利上げしているのに、ドルに対して安くなっている、ということはですね、見てみますと、一つは資源の無い国ですね。輸入している国です。ヨーロッパ、日本、韓国がそうですけれども。
それとですね、地政学リスクがあるところ。日本は核大国三か国に囲まれていますね。ヨーロッパも近いところですね。そういうところが、金利差以外で非常に為替安になっている、ということです。ですから、アメリカは非常に地政学的に遠いところにいるわけですね、そして、資源国です。穀物は輸出国ですから。そこが強い、ドルが強い、地政学リスク、というほかの面がですね、実は、影響している、ということで、金融政策だけで、そうなっている訳ではない。だから、他国のように利上げしても、円安は止まらない。それが解決しない限りは、止まらない、ということです。ただ、これから少し落ち着いてくると思います。
30:00~ 今後の日銀金融政策は続けるべきか
私は、そりゃそういうふうに思っています。長期金利の問題もですね、実はアメリカの長期金利かなり下がってきています。短期金利の方が高いんですね、アメリカは今。どういうことかというと、かなり利上げをしてきて、ここできて、消費がかなり弱ってきています。そういうこともあって、おそらく、アメリカのパウエル氏は、この間の記者会見で、まだまだ上げる、少し上げると言っていたんですが、実はそれは難しくなっている、と思います。むしろ、景気後退を心配した方が良いという局面で、そいうこともあって、実は、この間のアメリカの利上げに対して、円は円高に4.2円ですけれども、円高にふれてるんですね。もう既に。円安は局面が変わってきている状況です。長期的にどうなるかということは、ウクライナ情勢がどのくらい続くか、ということも言えるんですが、あまりアメリカが利上げを急いできていると、景気後退の心配があって、そういう状況ですから、これからはアメリカは、どんどん金利はまだ上げていくということは、もうない、と私はにらんでいます。ですから、この辺でですね、そんなに円安がどんどん進むということはあまり心配しなくて、私はむしろ良いんではないか、というふうに思って、日銀の政策は間違っていない、という立場ですね。ただ、急に円高になるというのに対しては、日銀よりも、むしろ財務省の方なんですけれども対応は。ということで、あまり、金融政策はこのままで良いと思っています。
32:10~ 黒田日銀総裁の任期、大規模緩和はいつまで続けるのか出口戦略
今、需要不足ですと先ほど申し上げましたように、日本は需要不足です。アメリカは需要超過なんですね。
全然違うんです、経済の状況というのが。ですから、まだデフレマインドが強いんで。ですから、出口を語るのはまだまだ早い話で、2%という物価の安定というのは、意味がちゃんとあってやっていることなので、これを安定して持続するまでは、きちっと今の政策をやる、ということが大事で、黒田総裁のいる間は安心しているんですが、その次がどうなるか、非常に心配だ、というのが、むしろ、私の考えです。
で、硬直的というけれども、これはやっぱりコミットして、きちっと、やらないとですね、すぐ出口など語りはじめると、日本はまだデフレマインドが非常に強い国で、長いデフレやりましたからね、すぐにデフレに戻っちゃいます。前にゼロ金利解除で失敗して、量的緩和の解除も早すぎて失敗して、出口が早すぎて失敗ばっかりしているんですよね。で、失敗すると、またやんなきゃならないんで、ここは我慢のしどころだと思います。
36:20~ 物価目標がなぜ達成されていないのか
一つは二回消費増税をしているということで、一年目、増税前までは、シナリオどおり、ちゃんと物価も上がるし、雇用も良くなっている、というシナリオ通りなんですけれども、消費増税のところから、おかしくなってきて、そして、それ以後もですね、プライマリーバランスの黒字化というのを日付ベースで決めちゃう訳ですね。経済がどんな状況でもそれをやる、と。そういうことをやると、それは、需要を下押ししますから、さきほど言ったように、需要不足の経済ですから、日本は。ですから、金融政策は需要を上げようとしているときに、財政の方で需要を下げようとしていたら、それは、物価は上がりません。2%には。だから、これが基本的に間違い、ということですね。両方、財政金融政策は、両方ともやらなければならない、ということ。
その中でも、そういう逆風が金融政策に財政から働いても、結構、景気が効果が出ているのに、効果が無いというのにビックリしました。だいたい、量的緩和やる前は、有効求人倍率が0.5ぐらいしかない。それが、1.23倍にまでなる、とかですね、失業率もですね、4%台だったのが、2%前半ぐらいまで落ちるとか、特に就職氷河期と言われていたようなのが無くなって、若者の就職が良くなっている。ということで、はっきりとですね、雇用が良くなっていて、だからこそ、特に若い人の雇用も良くなっているから、若い人の支持率が、実は自民党、高いんですよ。そういう風にして、実際あるんです。
それから、もう一つですね、実質賃金ですが、これは、量的緩和前は労働時間が、ずーと減っているのは、これは失業が多かったりとか、パートしかなかったりとか、雇用が悪かったからですね。ところが、安倍政権になって、ずっとこの量的緩和をやってからはですね、労働時間が更に減少しているのは、これは、雇用が良くなったんで、高齢者とか女性がどんどん働くようになって、この人は、短時間労働でいたいんですね。そのために、労働時間は減っている。労働時間の減少を考えると、時給で見るべきなんですよ。実質時給は、量的緩和の間で、きちんと上がっています。その前は下がっていますけど。みなさん、実質賃金は下がっている、下がっていると言うけど、きちっと見ていただければ、実質賃金は上がっています。間違いです。水野さん、間違いです。
47:13~ 労働者・企業が生産性をどうやって上げるのか?
誤解があるので、そこだけ、やっておきますけれども、金融政策というのはですね、需要不足の、そこのところを埋めて、潜在的な成長率まで、近づける。その過程で、少し賃金が、さきほど言ったように上がっていく、と。時給で見るのがおかしい、というんですけれども、実は、みなさんがですね、それだけの時間で長く働きたくないから、なんで、自分で選んでいるわけですから、それだから、時給で見る、と言っている訳です。それですと、さきほど仰ったように、ちゃんと上がっている、ということです。これが、まず、一点。で、それ以上、これから、上げる、ということですね。労働生産性を上げる、というんで、第三の矢である、本当は、規制改革をきちっとやる、ということは大事です。で、人への投資に関してはですね、岸田さんがどういう風に人への投資するのか、良くわからないですが、大学の無償化するのか、良く分かりませんけどね、私は、もう一つ大事なのは、いわゆる、「失われた世代」っていうのが、いるんですね。で、これは長い間のデフレでもって、いるわけで、柳川さんは企業はどんどん投資すべきと言ったけれど、それは、デフレの中ではしないんですよ、投資というのは。だから、金融政策というのは、そういう、設備投資や人的投資をするという条件を作る、というのが金融政策なんです。で、その条件はもうできてますから、これからは、やるわけなんですけれども、そうすると、「失われた世代」が一番問題で、特に、就職氷河期時代ですね。こういう人のリカレントというか、新しい職業訓練、就業支援訓練、そういうことが重要で、実はですね、14年から19年にかけて、実は安倍政権でそれをやってるんです。これは、北欧が特に盛んで、これを積極的労働政策というんですが、要するに、常に失業したら失業して雇用保険だけ払うんではなくて、きちっと、職業訓練する。職につけるようにスキルアップする、と。それに非常に力を入れないとですね、失われた世代というのは本当に惨めなもので終わって、で、ここへの人への投資というのが非常に大事で、これは既に安倍政権でやってますので、これを、どんどん進める、ということで、岸田政権も、そういうきちっとしたものを掲げていただきたい、というふうに思っています。
56:50~ 今、何が最も重要だと思いますか?
やっぱり、きちっと、デフレ脱却するということですね。まず、財政金融政策で緩和的にして、こういう環境にすればですね、2019年あたり、かなり、人手不足に実はなって、そこへ、コロナが来て挫折するんですけど、さきほど、井上さんが仰ったようにね、若い人が来たっていうのは、人手不足になったからなんですよ。基本は。人手不足にするということです。まず。人手不足にするためには需要が大事なんです。需要を引き上げてあげる。需要不足では出来ません。需要不足の世界では、成長期待も出ないから、柳川さんの言うような設備投資は、起こってこないんですよ。ですから、それをやると設備投資がおこってくる。人的投資をしたって、人手不足だから人的投資をする。人的投資は、資本主義に仕えるためでなくてですね、自分の生産性が上がれば、自分の賃金も上がるんです、それで。そして、それによってですね、結婚して子供も産めるようになるんですよ。だから、少子化だって止まる。日本の少子化始まったのと、デフレが始まったのはピタっと一致してるんですよ。ですから、そういう人への投資というのは、なにも資本主義に仕えるんじゃなくて、自分の生活を豊かにし、賃金を高くし、家庭を持ち、家族を持つ、そういう生活が出来る、ということです。
感想
しっかりとしたマクロ経済学と実証データを基に、金融政策のみならず、財政政策、規制緩和などにも言及されていて、とても勉強になりました。
日銀内にいたときは、様々な制約があり、財政政策に関してコメントしづらい面があったかもしれません。
本日のような議論を全国ネットで展開してくださり、感謝です。
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