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日曜討論の片岡剛士元日銀審議委員

日曜討論を久しぶりにテレビで見ました。その中で、片岡剛士元日銀審議委員が、とても大切なご発言をされていたので、一部を書き起こし。

ポイント (ポイントは筆者の感想から)
1.円安は日米金融政策の差が主因
2.安定的な賃上・物価上昇目指せ
3.経営者・旧日銀出身者のマクロ経済政策議論は残念

“1ドル=150円” 歴史的円安で日本経済は
(初回放送日: 2022年10月30日)
歴史的円安で私たちの暮らしは?企業は?経営者と専門家が経済の先行きを徹底討論!
▼任期が迫る黒田総裁・異次元金融緩和の功罪と今後は?
▼日本経済を立て直すカギは?
(敬称略)
【出演】片岡剛士,河村小百合,河野龍太郎,首藤若菜,新浪剛史,【司会】曽我英弘,星麻琴

日曜討論の番組では充分に語り尽くせなかった部分もあると思われます。
片岡剛士さんの直近のレポートをご一読くださると、円安・物価・日本経済の先行きに関して知ることができると思いますので、お勧めです。

「インフレの時代」にどう対処すればよいのか?-日米欧の経済動向から考える-
Monthly Economist Report(2022年10月) (pwc.com)

以下、筆者による文字おこしのため、誤りがあった際は筆者の責です。

6分頃~円安水準・日本経済への影響について問われ

片岡剛士(以降、片):足下の日本経済自体は、緩やかな回復途上にあると思うんですけれども、ただ、先ほど河野さん仰ったようにですね、まだまだ2019年の平均の水準には届いていない。
という状況で、特に消費や設備投資といった所が弱い、という状況です。
ですから、こうした中で日銀もですね、物価が今、3%とはいえですね、2.1%分というのは基本的に食料とエネルギーの価格上昇という状況で、これが、ある意味、体感ベースの物価をあげて、特に、家計の方ですとか、地方出身の方ですとか、そういった所にですね、大きな影響を及ぼしている、と。
ですから、そういう中で、政府の経済対策というのはですね、先ほど出ていましたけれども、これがその、家計の援助とか、そういったものをメインにしている、というのは1つは正しい、というふうに思っています。
足下の為替の水準に関して言えばですね、これは、アメリカとそれと日本の政策スタンスの違いというものが、意識されていると思うんですけれども、日本の場合は、先ほど申し上げたようにですね、物価が2%に向けてしっかり安定するような状況になってませんので、金融緩和を続けている、と。で、アメリカは利上をしている訳ですから、ですから、そうしたスタンスの違いが、この結果になっている、ということなんだと思います。

13分頃~円安の背景・要因を問われて

片:先ほど円安の背景のことで、私自身は金融政策のスタンスの問題、それから、投機的な要素も一部あると思うんですけれども、それがメインだと思っています。ある意味、潜在成長率の低下とかですね、そういった話というのは、これは、短期的というよりは、むしろ、中長期的な形でジワジワと進んでいく訳で、足下、今年に入ってからとか、そういった形で、ドル円レートが非常な勢いで円安が進んでいるというのは、こうした生産性の低下が原因で起こった話ではない、というふうに思います。

それから、円の信認が低下するっていう話に関してもですね、先ほど、首藤さんの方から、物価上昇率は日本は、諸外国と比べれば低い、というお話がありましたけれども、円の信認が崩れているのであればですね、物価はもっと上がっても良いはずです。ただ、物価が先進国の中で最低の状況でして、こういった状況から見るとですね、円の信認が崩れていると、私は、とても考えられないな、と思います。

18分頃~円安の今後の見通しを問われて

片:ドル円ということでいきますと、これは、日本側の都合と、アメリカ側の都合と両方あると思うんですね。日本側の方は、これは、2%の物価安定、安定的に達成できるようになるまでですね、金融緩和を続ける、という話を黒田総裁仰っていますので、継続方向だと思うんですけれども、アメリカの方は、今、利上をずっと進めていますので、これが例えば、来年ですね、具体的に景気を悪化させるとか、そういった形で影響出てきますと、そうすると、金利を上げるペースを段々落としていこうと、そういう流れになりますので、ですから、アメリカの物価が緩やかに低下する。それから、日本の物価が緩やかに安定化していく、と。そういった中で、徐々に円安の方向というのは安定化していくんじゃないかな、というふうに思っています。
ですから、そういう形になればですね、当然、安定的な円安というのは日本経済にとっては、私は、全体としてはプラスだと思いますので、そのことが、企業の活動ですとか、ないしは雇用、それから、家計のみなさんの所得拡大、こうした所に影響を及ぼしていくのではないか、と。これは、ある意味、賃上げとか、物価安定とか、そうした所にも寄与していくんではないかな、というふうに見ています。

22分頃~日銀の現状の金融政策維持の根拠を問われて

片:1つは、目標を未だ達成できていない、という所があると思うんですね。ですから、今の状況で、仮にですけれども、利上をするとかですね、そういったことをしてしまうと、たとえば、金利が上昇するということになりますので、ですから、そのことの痛みというのは、中小企業の方とか、経営者の方、ないしは、預金、ないしは、借入をしているような方々にとっては、非常に大きなダメージになると思うんですよね。例えば、コロナ禍の下で、色々な意味で苦しい思いをされておられる方々、こういった方々に対して、日銀・政府はですね、大規模な資金供与を行った訳ですけれども、そういったものの元本返済というのは、これが来年以降ですね、具体的な形で生じてきますので、こういった所の足かせになる、と。そして、金利を引き上げてもですね、ドル円レートの円安を是正する方向にはならないんだと思うんですね。今、為替が急速に円安になっている本質という意味においては、これは、ドルが強すぎるという所にあると思いますので、今、利上を進めるとか、そういったことというのは、なかなか日銀としては出来ない、ということだと思います。
ですから、足下の物価上昇を見ても、物価動向の中身を見てもですね、やはり日本の実体経済が拡大して賃上げを起こるような状況のもとでの物価上昇ではないので、こうした状況下では、日銀は金融緩和を続ける、という選択が一番正しいと、私は思っています。

25分頃~河村小百合氏への反論を問われて

片:金融政策というのは、継続性が重要だと思うんですね。ですから、今、仮にですけれども、金利を上げてですね、物価安定目標達成できないなかで、日銀が政策転換をする、と、そういうことになりますと、そういう中央銀行だというふうに見られてしまいますから、ですから、そういったことの悪影響というのが私は大きいと思います。従来、物価安定目標を達成できない状況が、ずうっと日銀に続いていましたので、ですから、ここで達成できない状況のままですね、金融政策を転換するというのは、私は最悪の選択肢だと思います。

28分頃~物価安定目標を達成できない理由を問われて

片:もともと、日本の物価というのはですね、10年以上デフレがずっと続いていまして、その中でですね、金融緩和を通じて、物価安定目標、つまり、インフレを達成すると、達成して安定化するというのは非常に、やっぱり、難しいハードルだったというのが、これが改めて分かったということだと思うんですね。
そもそも、アベノミクスという意味においては、金融緩和、それから、財政政策、そして、成長政策、この三本の矢を通じて、デフレから完全に脱却する、と。こういったことを目指していた訳ですけれども、金融政策はずっと緩和方向で維持されている訳ですが、財政政策に関して言えば、たとえば、2014年の4月に消費税率を引き上げたようにですね、緩和とそれから、増税というものを繰り返している、と。そういう状況です。
成長戦略については、さきほど、新浪さんが仰ったように、余り上手くいっていない、と。そういった所ですから、ですから、物価が安定目標なかなか達成できない、というのは、そうした理由にあると思いますね。

30分頃~日銀財務の危険性を力説する元日銀の河村小百合氏の発言へコメントを求められて

片:今、河村さん仰った話なんですけれども、日銀が保有している国債についてはですね、これは、時価ベースではなくて、簿価ベースでの評価をしていますので、ですから、例えば、今、利上をしてですね、そのことによって、国債の価格が変動したとしても、これによることの日銀財務への影響というのは、ありません。ですから、ある意味、金利を引き上げられないのは日銀のバランスシートが悪化する懸念があるから、だから上げられないんだ、そういう議論というのは、これは明確に間違いだ、というふうに言えると思います。それから、さきほど、河野さん仰っておられた、物価上昇、変化が起こっていると、ある意味、グリーンスパン的な定義ではですね、確かに物価安定ではないのかもしれないのですけれども、これまでの状況というのはある意味、デフレが続いていて物価上昇率が低い状態だった訳ですよね。その結果として賃金もなかなか上がらない、企業活動も国内においては、なかなか活発化しない、と。そういう状況だったと思います。ですから、そうした中からの変化が、今起こっている、というふうに考えると、これは、やむを得ないじゃないかと、そういう気がします。

35分頃~金融緩和の出口を問われて

片:足下の物価動向、黒田総裁は来年、再来年、2%ではなくて、1%台と、そういう物価動向を予想しておりますので、ですから、この状況の中ではですね、なかなか、出口政策に踏み込むというのは難しいかな、と思います。出口政策に踏み込む、という話になるとすれば、これはある意味、2%の物価安定目標は持続的に達成できて、そのもとで、おそらく、名目賃金が平均的に3%以上とか、そうしたような形でですね、新浪さんのような会社さんもそうですけれども、売値も含めてですね、転嫁もできて、賃上もできて、そういう環境になって、いよいよもって金利を上げないと困る、と。そういう状況になったら、利上ができる、ということなんだと思います。

39分頃~物価目標既に達成している、という河村氏の発言へのコメントを求められて

片:達成されていない、と思いますので、日銀の今の政策スタンスというのは正しいと思います。で、色んな改革は日本経済、必要だと思うんですけれども、ただ、それが何故できていなかったのかといえば、結果的にデフレの状態でですね、企業も動けないとか、そういった環境があった訳ですよね。ですから、それを直すべく、安倍政権下でですね、財政・金融政策、成長政策のパッケージを作って、それによって改革ができるような環境作りをやっていこう、と。そういう話になっていますので、ですから、そこは一丁目一番地なのかな、と思ってます。

42分頃~円安を活かした取り組みについて問われ

片:私は今の円安を活かすという政策は正しいと思います。さっき仰った、訪日外国人の話もそうだと思うんですけれども、やはり円安というのは、海外から見ますと日本の製品が割安だと、そういう話なんですよね。ですから、日本の良いものというのがですね、割安で買えるということで、こうした流れがどんどん進んでいけばですね、これは、国内の価格の転嫁をするですね、1つのきっかけにもなると思いますし、賃上げみたいな話にもつながっていくと思いますので、ですから、結果的に今起こっている円安という事象というのは、世界的な物価上昇と比べると日本の物価上昇というのは非常にマイルドで、そこの価格差というのを、ある意味、円安を通じてですね、海外の物価動向に近づけていこう、と。そういう試みなんだと思います。その過程では、ある意味、賃上、所得上昇、そういったものが伴わなければ、物価は上がってきませんので、ですから、そうした意味での改善を後押しするというのは、私は正しいと思います。

52分頃~成長分野の可能性を問われて

片:先ほどらいからですね、構造改革の必要性というのが言われている訳ですけれども、やはり、構造改革ができる環境を作るというのは非常に大事で、例えば、今、労働市場改革という話が現実味を帯びてきているのは、ある意味、失業率が大幅に下がってですね人手不足の世の中になっていくと、ですから、そのことの中で、結果的に民間の中で労働移動が進むと、そういう現状があるから改革ができる、ということなんだと思うんですね。90年代以降、日本はずっと長期停滞と言われていた訳ですけれども、そこの中で、1つ供給面の側面として深刻だったのは、ある意味、人への投資とか、ないしは、賃金上昇というのは非常に弱かった、ということですよね。ですから、こうした部分というのが回りまわって、労働生産性の停滞、更に、実質賃金の低下、また、それによって、購買力が低下するのでデフレになってしまうという形で悪循環を持続させている訳ですから、こうしたものを変えていくには、需要面の景気拡大のための政策と、それから成長政策という話を両方やっていく必要があるということなんだと思います。

57分頃~締めのコメントを求められて

片:今の円安というのはですね、色んなむきでとらえる議論がありますけれども、私自身、とはいっても、この円安を直ぐに変えるということは難しい訳で、ですから、そういった意味では、この円安を好機ととらえてですね、それを利用していくという考え方が大事だと思います。ですから、特に輸出系の企業さんとか、ないしは、インバウンドとかですね、それから、ドル建て資産で持っている方が円転すれば、資産効果が出てくるとか、そういったメリットがありますので、このメリットを活かしていくような政策をやっていく、と。なおかつですね、円安というのは、海外の物価上昇に比べて日本の物価上昇が低いことが起因しているので、ですから、そうした状況に近づけていく作用として円安を考える必要があると思います。これはある意味、日本国内が海外の方々と比べても同じ能力であっても賃金の伸びが低いとかですね、そういった状況を変えていく、これが円安というものがもたらしていることだと思いますので、変える方向をちゃんと活かしていくことが大事だと、そういうふうに理解しています。

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