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黒田日銀総裁会見での残念な質問

日本銀行の政策決定会合が2022年4月28日に行われました。
結果は、金融政策の方針・政策手段は現状維持、加えて、指値オペを毎営業日実施することを明確に示されました。同日、黒田日銀総裁の会見(*1)が行われましたが、その際の記者の方々のご質問が、余りにも残念でしたので、気になった点をコメントしたいと思います。
※黒田日銀総裁のコメントは、動画(*1)や後日公開されると思われる日銀HPの情報をご参照ください。
(引用部分は、動画(*1)から。丸数字は筆者が追加)
(*1) 日銀・黒田総裁、金融政策決定会合後に定例会見(2022年4月28日)

https://youtu.be/Zu_PpVSbl3I


記者の質問(敬称略)

幹事社 共同通信 モリナガ

①本日の決定会合の決定事項、展望レポートの内容についてご説明をお願いいたします。

②資源高や円安の影響で、4月以降その生鮮食品を除くCPIは2%程度の伸びが当面続くと見込まれていますけれども、こうしたその物価上昇というのはコストプッシュ型で賃金とか期待インフレ率の伸びを伴わないとの見方が多いと思いますけれども、仮にこうした形で2%を上回る物価上昇が続いても、金融緩和の修正であったり、いわゆる出口の議論を始めることにならないのか。また、物価上昇はその一時的とか、いままで、おっしゃっていましたが、そのご認識も含めてお伺いさせてください。

③本日為替が130円を一時超えましたけれども、最近の円安は日米の金融政策の違いが一因となっていて、市場の一部には日銀は円安を是正するために金融緩和の修正に動くのではないかという感覚がいまだに根強くあります。もちろん、金融政策というのは為替を目的にしていないというのは、重々承知しているのですけれども、さらに円安が進んでも金融政策を見直すお考えがないのか、というのが一点。
また、最近の急速な変動の影響を踏まえて、今後さらに円安が進んでも日本経済にとってプラスというお考えは変わりはないのか、教えてください。

(*1)

①の質問、流石、幹事社です。本日の質問の中で、一番良い質問です。日本経済、雇用環境に大きな影響を与える金融政策と、その政策を担う日本銀行が日本経済に対して、どのような展望を持っているのかを知ることは、国民にとって重要なことだと思われるからです。

②記者の方は、黒田日銀総裁の2022.04.22の講演を拝聴していないのでしょうか。金融緩和の修正や出口といった、金融政策の引き締めに関心があるような質問内容で、残念です。黒田日銀総裁は、需給ギャップがあり、引き続き日本経済を金融政策で支えていくことを、先日の講演でも明言されています。

③記者の方は、金融政策が為替を目的としていないことを承知しておられながら、円安を受けて、金融政策の修正の考えがないかを質問しています。誰かに聞くように厳命されているのでしょうか?

マーケットニュース 井上 (15:00頃)

④中央銀行というのはそれぞれ、自国の経済、物価に合わせて、金融政策を運営されているかと思うんですけど、日米欧で金融緩和が行われていた時は、そんなに問題がなかったと思うのですけれども、現状のように欧米で金利引き上げで、一方日銀は金融緩和を続けいている中で、方向性が違う中での、その日銀の政策運営の難しさ、というか、緩和効果のプラスマイナスが考えられと思いますけれども、その辺をどんな感じで見てらっしゃるかお伺いしたいんですけれど、よろしくお願いいたします。

(*1)

④の質問をなさった方、日米欧の経済状況の違い、それに応じた金融政策が取られていること、金融政策で日本経済を支えていくことは、黒田東彦日銀総裁の講演や、野口旭審議委員の講演からも明らかです。米欧が金融政策引締に動いているのは、財政政策の効果もあり、総需要が総供給を上回っており、物価高騰を抑える必要があるからです。日本の経済状況は財政政策の弱さもあり、物価や賃金上昇は緩やかなままです。

テレビ東京 大江 (18:00頃)

⑤今回はですね、連続指値オペの運用の明確化というのが盛り込まれています。これは日銀として金融緩和継続の姿勢を改めて明確にされた、ということなのかもしれませんけれども、先ほどは為替1ドル130円を超えました、実際にこういう文言を盛り込むことによって円安容認と受け止められて円安を加速させる可能性があるというのも認識なさったうでのことだと思うのですが、敢えて、この文言を盛り込んだ理由というのを教えてください。

⑥そして、もう一点ですが、今の総裁としても円安のメリット・デメリットのバランスをご覧になっているところだと思います。以前ですね、2015年の6月、総裁自らがさらに円安に振れていくことはありそうにない、と仰ったときが125円前後でしたから、そこから比べても5円ほど円安が進んでいる状況です。まだこの水準でも日本経済にとってはメリットの方が大きいとみていらっしゃいますか。メリット・デメリットのバランスが変わっていくのが、どのくらいの水準、もしくは、どういう状況とみていらっしゃるでしょうか。

(*1)

今までもなども、指値オペはされていました。黒田日銀総裁が指値オペを行ってきました。
日銀の金融政策決定会合における発表(*2)には、次の通り書かれています。

連続指値オペの運用の明確化
上記の金融市場調節方針を実現するため、10 年物国債金利について 0.25% の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業 日、実施することとした。

黒田日銀総裁の説明を言葉通りに受け取れば、余計な思惑が入らぬように明確化した、ということでしょう。
指値オペの運用明確化に関しては、僕は「バカ除け」だと思いました。日本経済に需給ギャップが残り、コアコアCPIが弱く、物価目標2%達成が遠い状況で、金融政策引締を言う人や、「悪い円安」や「為替介入」などを言うマクロ経済政策の素人へ向け、金融緩和継続のスタンスを明確化した、と受け止めました。

ロイター通信 木原 (22:30頃)

⑦二点お願いします。一点目は、資源高の影響が減衰したのちには、価格転嫁と賃上げによって基調的なインフレが加速するというのが展望レポートの基本的な見通しだと思うんですが、資源高の影響は交易条件を通して日本経済にとってはマイナスに作用しますし、ウクライナ情勢を受けてIMF等も世界経済に下振れリスクが出ているとして、見通しを下方修正しています。そうした中の日本経済に相当下振れリスクが今後高まるようにも思われるんですが、そうした中でも、23年度、24年度に需給ギャップの改善に支えられて、基調的に見たエネルギーを除く物価が高まっていくとされているとする根拠を教えていただきたい。

⑧二点目なんですが、そうした長期的には望ましい形での物価上昇で、中長期的な予想インフレも高まっていくというのが展望レポートの見通しだと思うんですけれども、24年度を仮に今想定しているように基調的に見て1.5%まで、物価が上昇する姿になる頃には、今のようなコストプッシュインフレではないので、今の緩和的な金融政策、YCCの修正を議論する余地が生まれるのでしょうか。

(*1)

一時期噂になった、木原氏でしょうか。
⑦については、黒田日銀総裁の説明をご確認ください。
⑧については、物価目標は安定的に2%としているオーバーシュート型コミットメントを掲げているのに、1.5%で、YCC修正の議論をする、というのは気が早いというか、金融政策引締の圧力をかけたい、ということでしょうか。

読売新聞 関根 (29:00頃)

⑨二点お伺いします。連続指値オペについて、強力な金利を抑える手法ということで仰ってきましたけれども、そのラストリゾートという言葉を使ったことがあったかと思うんですが、それをですね、常態化させる今回の方針としているのは、市場機能を阻害することにならないのか、もちろん金融政策は、その効果と副作用の効用で決まると思うのんですが、そのあたりをどのように考えているのか、ご解説ください。

⑩もう一点なんですけれども、過度な為替相場の変動というのは好ましくない、というご説明を繰り返されていますが、結果としてですね、今日の決定内容が市場にですね、急速な変化をもたらして、20年ぶりの130円台をつけているわけですが、この動き自体をどう評価されるかご見解を聞かせてください。

(*1)

連続指値オペは、今までも行われてきたことです。
過度な為替相場の変動は好ましくはない、黒田日銀総裁は確かに説明しています。しかし、日本経済全体にとって、円安はプラスであり、急激な為替レートの変化は、企業の事業計画などミクロの面でマイナスがある、という説明をしています。
日本経済よりも、為替水準を見ている残念な方が多いように感じるのは僕だけでしょうか。

ブルームバーグ イトウ (33:40頃)

⑪二点お願いします。今回の展望レポートでは、インフレ期待についてでもですね、その短期を中心に上昇している、というふうに判断しているわけですが、その点がコストプッシュの物価上昇を受けてのもんだと思うんですが、コストプッシュの物価上昇であっても、インフレ期待の持続性はあるのかどうか、価格転嫁とかですね、賃金上昇、その辺を期待できるのかどうか、総裁のお考えをお願いします。

⑫あともう一点なんですが、さきほど、指値オペの明確化について、市場の憶測を払拭して変動を抑制するため、そのようにご説明されたんですが、むしろ、このYCCのですね、厳格な運営自体がですね、過度な円安とか、影響を招いてですね、先行きの不確実性を高めているということは考えられないのか、その辺について、総裁のお考えをお願いします。

(*1)

⑪の質問は、黒田日銀総裁の説明を聞いていれば、わかるはずです。また、黒田総裁は、財政政策が不十分であることを明言していませんが、日米の経済比較などを通じて、暗に財政政策が不足していることを示唆されています。

⑫YCC、そしてその中の手段の一つである指値オペは以前から実施しています。日銀の金融政策を理解できていない「市場関係者」や金融政策を引締めたいという「私情関係者」が、円安が進んだことで、金融政策の引き締めを期待してしまうことが散見され、それらの残念な人が目を覚ますように、指値オペ運用を明確化したとも受け取れます。

ニッキン タダ (41:50頃)

⑬中銀とマーケットとの対話について伺います。
あしもと、通常の金融政策の観点でしたら、国内外でスタンスの違いが出来上がっているという観点があると思うけれども、一方で、コロナ危機対応は日銀も含めて縮小ですとか終了方向に向かっていると思うんですけれども、今後、国内外の金利差ですとか、加えて、マネタリーベースの変化も目指す局面に入っていくと思いまして、マーケットの受け取られ方によっては、為替相場ですとか、上下に変動しうると思うんですが、特に日銀の金融政策が複雑性を増す中で、市場とのコミュニケーションの必要性ですとか、重要性について、日本の金融政策にあまり明るくない海外投資家の目線ですとか、含めた現状の認識を伺えればと思います。

(*1)

ご質問をされている方は「日本の金融政策にあまり明るくない海外投資家」とされていますが、世界標準のマクロ経済学をベースに金融政策を行っている日銀の金融政策を理解せずに、「悪い円安がー」「利上げがー」などと残念な発言をしているのは、日本の経済に詳しそうな新聞や、旧日銀の関係者などではないでしょうか。

東京新聞 ミナガワ (48:20頃)

⑭二点お願いします。まず一点目、連続指値オペについてなんですけれども、憶測が起こって市場が不安定になることを減じる効果があるとお話がありましたけれども、このディレクティブに基づいて今後日々運用していくことでですね、日銀のスタンスへの認識が市場に定着すれば、かえって、0.25%付近で売りをしかけてですね、日銀の反応を試すような動きが減っていくということを総裁、期待されているのか、で、あわせて、その結果として、防衛ラインの0.25%で国債を買う、と、マネタリーベースが増えるということが減る、結果的に減る、こういう効果も見通しているのか、これを伺います。

⑮もう一点、日銀法4条との関係で、今回の決定について伺いたいんですけれども、政府と連絡を密にして十分な意思疎通を図るというふうに定められています。岸田内閣は一昨日ですね、物価高に対応して緊急経済政策、対策というのを発表しておりまして、物価高および円安への対応に追われている状況です。一方で、今回ですね、日銀の金融政策で結果的に更なる円安進行をいとわないような決定がなされたことで、一般国民から見てですね、政府と日銀が一体になって政策を運営しているのか、方向性が分かりづらいっていう意見が有り得ると思うんですけれども、政府との連携について総裁はどうお考えでしょうか。

(*1)

⑭ちょっと何を言っているか分かりません。
⑮政府と意思疎通をするにしても、日銀には手段の独立性があります。財務大臣がおかしなことを言ったとしても、それに合わせて金融政策を行う義務はありません。「一般国民から見て」と一般国民の声で圧力をかけようとなさっているのかもしれませんが、標準的なマクロ経済学からすれば、当たり前の対応をしている日銀と、エネルギー・資源価格高騰に財政政策での対応が不十分な財務省・岸田文雄政権という組み合わせです。文句を言うのであれば、日銀ではなく、財務省・政府へ。でしょう。

日経新聞 清水 (53:45頃)

⑯日銀が再三にわたって金融緩和政策を維持する意思を強調しているにもかかわらず、市場には総裁も仰る通り政策修正を巡る憶測・観測が消えない背景として、長期金利操作に関する政策の変更という、なかなか事前にですね市場に織り込ませる手法が使いにくい点があるというふうに指摘されます。短期金利操作や量的緩和と違って長期金利を操作対象にする政策の場合、事前に政策修正に関する情報発信をすぐに、その操作対象である長期金利が変動してしまう、上がってしまうという需要があるということなんですが、イールド・カーブ・コントロールっていうのが、前もって円滑に市場と対話をしつつ政策修正に向けて準備していくという手法が、果たして使える政策なのかどうか、その点についての総裁の考えをお聞かせください。

(*1)

経済に詳しそうな新聞の方です。YCCが使えているから、米国が金融引締に転じた際に、円安が進んでいるのではないでしょうか?
ちょっと、何を言っているか、今の時点で、日銀総裁に聞くべきことなのか、僕には分かりません。
日経新聞が、血眼になって「悪い円安」などと事実誤認ともいえる記事を書いておられましたが、日銀の金融政策決定会合では、それらに屈しない、というメッセージを示したものだと、僕は受け取れました。
残念でしたね、「悪い日経」💦

毎日新聞 オカ (60:00頃)

⑰さきほどの政府との関係の質問で、関連でお伺いしたいんですけれども、経済対策全体では補完的であるというのは分かったんですけども、為替に関して言うと、財務大臣はたびたび会見などでですね、時には「悪い円安」という言葉も使いながら、円安の加速をけん制しているんですけれども、今回の決定というのは、少なくとも円高の方にふれるような内容ではないと思うんですけれども、これはもう、どちらかというと円安を促すように結果的になっていると思うんですけれども、これはもうある程度独立した組織が別の対象を目的に目標を定めてやっている以上、しようがないという認識なんでしょうか。

(*1)

金融緩和に否定的な毎日新聞の記者らしい質問ですね。為替については、財務省が主管です。ただ、金融政策の差異が為替レートに大きな影響を与えます。変動相場制で、通貨当局の為替介入を「伝家の宝刀」かのように報じるメディアが多いのですが、それはミスリードでしょう。

金融緩和に否定的な政党には、公安監視対象団体も含まれます。
岸田文雄政権になってから提示された日銀審議委員の国会同意人事案では、高田創氏(消費増税に賛成)が含まれ、マクロ経済政策・金融政策に確かな見識があるとは思われないものでした。この人事案に賛成したのは、政府与党、立憲民主党、国民民主党、れいわ、など、と聞いています。
反対したのは、日本維新の会のみだそうです。

今回の日銀総裁会見で質問された記者のご見識を見ても、日本の金融政策に関するメディア報道、ネット記事の情報の質が心配になります。

いかがでしたでしょうか。
今回の数ある質問の中で、最良のものが、幹事社の1番目の質問である、というのは、僕だけの感想でしょうか。
残念な質問に付き合わされる、黒田東彦日銀総裁、お疲れさまでした。

"「マクロ経済学を学ぶ目的の1つは、ジャーナリストや評論家や政治家にだまされないようにするためである。」"
(ジョーン・ロビンソン)

残念な情報を得たら、しっかりと勉強して、解毒することが必要ですね。

元日本経済新聞社の後藤達也さんの情報発信(*4)に注目して、勉強しています。

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