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消費者物価の基調は2%割れ

植田和男日銀が「金融政策の枠組みの見直し」を3月19日に行ってから、最初に公表される「消費者物価の基調的な変動」ということもあり、注目していました。

1.消費者物価の基調的な変動

結果は、いずれも2%割れです。

図1:消費者物価の基調的な変動 日銀データを基に筆者作成

2.利上好きな方々

ESPフォーキャスト調査(2024年5月14日)によると、2024年の日銀の利上を1回~3回と予想するエコノミストがおられるようです。2024年1-3月期のGDP一次速報の公表(5月16日)前の調査ですが、年内1回の利上がメインシナリオ、ととらえているように見受けらえれます。

図2: ESPフォーキャスト調査より

GDP一次速報の公表後でも、24年内に2回の利上について言及なさるタカ派もいらっしゃいます。
(実質民間需要が4四半期連続マイナスという経済状況であるのに、流石の僕も驚きました。。。)

日銀、政策金利を年内に0.5%まで引き上げる余地-政井元審議委員
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-05-27/SE4CIVT1UM0W00

3.金融政策の失政を反省できない残念な方々

植田和男日銀講演

(*1) 日本銀行金融研究所主催2024年国際コンファランスにおける開会挨拶の邦訳 (2024.05.27, 植田和男日銀総裁 日本銀行)
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240527a1.pdf

植田総裁は、"多岐にわたる非伝統的な金融政策を実施したにもかかわらず、日本がゼロ・インフレまたは低インフレから長きにわたり脱却できなかったのはなぜか" (*1) に対する答えとして、次のように述べます。

"この事象の主たる理由は、「ゼロ金利制約(Zero Lower Bound: ZLB)」にもとづくものだと思います。 [中略] オーバーナイト・コールレートは、1995 年後半までには 0.5%を下回る水準まで低下していました。つまり、ゼロ・インフレの罠が始まるまでには、日本銀行は、すでに経済を刺激するための短期金利に対する影響力を使い切ってしまっていた、ということです。" (*1) 

申し訳ないですが、これでは、デフレ維持の実績を残した白川方明元日銀総裁と変わらない残念なレベルです。
ゼロ金利制約下においても、黒田東彦日銀で、消費者物価コア指数が -0.5%から、+1.5%まで上昇したことを説明できません。

更に植田総裁は続けます。
"低インフレが持続するという予想が定着したことが重要な意味を持ったと考えています。それは、経済主体の行動変化、とりわけ、企業の戦略的な価格設定行動の変化につながり、ゼロ・インフレの罠に陥っている期間を長引かせることになりました。" (*1)

物価安定目標へのコミットメントと、それを裏付ける量的質的金融緩和で、予想インフレ率と実際に消費者物価を押し上げた黒田東彦日銀総裁とは、月とスッポン(スッポンさん、ごめんなさい)です。

内田副総裁

内田副総裁も講演なさっていますが、黒田東彦日銀より前の、日銀の失政を反省することのない、残念な内容でした。

(*2) わが国における過去25年間の物価変動 (2024.05.27, 内田眞一副総裁, 日本銀行)
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240527b1.pdf

4.バーナンキ&ブランシャール論文

ノーベル経済学賞を受賞したバーナンキ氏と、ブランシャール氏が共同論文(*3) を公表しました。主要国( (*4)日本含む)もこの論文に書かれたモデルをベースに自国の分析をしています。

(*3) Working Paper 24-11: An analysis of pandemic-era inflation in 11 economies (piie.com) (2024.05, Ben Bernanke and Olivier Blanchard )

(*4) What Caused the Pandemic-Era Inflation?: Application of the Bernanke-Blanchard Model to Japan (boj.or.jp) (2024.02, 日本銀行)

図3: 日米消費者物価指数の要因分解 出典 (*4)

日銀の論文(*4)では、日本の消費者物価指数の上昇の主因はエネルギーと食料価格の上昇である、と述べられています。上述の図3を見ても明らかですね。
また、同論文では、日米のインフレ率のレベルの違いを次の2つの理由としています。(日米のインフレを同列に論じ、日本に米国型の高インフレが起きるかのように勘違いしそうになる方向けに親切に書かれています)
【理由1】
基本的なインフレ傾向の初期条件の違い。
日本のインフレ率と予想インフレ水準は、Covid-19のパンデミック前の20年以上にわたって、アメリカよりも著しく低かった。
【理由2】
労働市場の需給の引き締まり具合の違い。

5.雑感

前回の note 記事で、日銀の金融政策枠組み見直しを批判的に論じました。
素人の僕の懸念が現実になりそうで、恐ろしいです。

日銀の政策転換と物価の展望|おおしま 真 (note.com)

実質賃金がプラスに転じることに大きな期待を寄せる政治家の方々などが多く見受けられます。しかし、国民負担率の上昇や、連合の春闘の賃上げ率を下回る名目賃金上昇率などのデータを基に、エコノミストの永濱氏は、以下の記事で警鐘を鳴らしておられます。

賃金と物価の好循環の幻想 ~実質賃金プラスのみで個人消費の活性化は困難~ | 永濱 利廣 | 第一生命経済研究所
https://www.dlri.co.jp/report/macro/336653.html

6月には所得減税、住民税減税も控えていますが、その一方で、電気・ガスの補助金は打ち切りとなり、再エネ賦課金は増額となり、コストプッシュ面が増してくることが予想されます。

投資家の一部には、今夏、物価が4%に上昇し、日銀が年内2回の利上げをする、と予想される方もおられます。それほど、日本経済が強くなるのか、僕は凡人なので、そんな未来を見通す力がありません。
毎月の経済指標などを見ながら、働き、コツコツと投資をしていこうと思います。

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