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行方不明の幼馴染の話 第四話

「さて、本日は『レッドストーン』を死ぬほど集めましょう」
 夜八時。ヴォイスコードを繋いで、それぞれスタンバイできたところで、将生がいつものように『本日すること』を発表する。
「じゃあ採掘に行くために食料調達するね」
「俺は武器と工具そろえるわ」
 僕と比呂は答えて、ゲーム内をバラバラに動き始めた。アワクラフトとは、ブロック状のモノを組み合わせたり生成したりするモノ作り系ゲームだ。そのため、その日何をやるか決めてから動いた方が効率はいい。レッドストーンは、四角い石のブロックに赤い斑点が見える鉱石で、大量に集めて錬成することで、動力源になる。レッドストーンをトーチ状にすれば、様々な装置の自動化が可能だ。そのための前準備をする。

「……そういえば、自由研究の題材決めたよ」
 僕はゲーム内で作業しながら二人に報告した。
「おお。結構あっさり決まったな」
 と将生。八月になっても決まらなかったら、なんて話をしていたから、拍子抜けした風だ。
「うん。ちょっと思いついた。玉泉寺の鈴木さんと話して、この辺りの伝説や不思議な話を集めることにしたよ」
「鈴木さんって、あの若いお坊さんか? 何度かお祭りで会ったけど、翔斗謎に仲いいよな」
 将生にも言われて、ちょっと心臓が変な風に動いた。
 やはり、お寺のお坊さんと仲がいいのは変なのかな。おばあちゃんといると、地域の集まりや法事でお寺に行くことがあるから、あまり気にしていなかったけれど。

「不思議な話かー。このへんにそんな話あったっけ?」
 比呂のキャラクターが、鉄のインゴットから鉄のツルハシと剣を何個も作っている。そういえば比呂は小学五年生で愛知県から転校してきたんだった。
「おばあちゃんから、玉泉寺の白狐の伝説は聞いたことがあるから、鈴木さんにも聞いてみようと思って。伝説みたいな話だから比呂は知らないかも。あとは青梅街道沿いの『姿見ずの橋』とか。今のよど橋だったかな。一応図書館にも行って探してみようと思ってる」
 僕も話しながら畑で小麦とジャガイモを収穫する。収穫といっても、マイクラのキャラクターにクワを持たせて、左クリックを押すだけだ。サクサクというゲーム音と共に、小麦とジャガイモがストックされていく。
「翔斗んちは、おばあちゃんが強いよな、何でも知ってて。うちはじいちゃんばあちゃんと離れてるからさあ」
「そうだね。年の功ってのもあると思うけど、おばあちゃんが居ないとうちは回らないし。ご近所情報も強いし」

 僕と比呂が近くで動いている間に、将生が少し離れたところに作ったハウス内で、何やら作業しながら会話に入ってきた。
「……ご近所といえばさ、最近この辺りで都市伝説が流行ってるの知ってるか?」
「都市伝説?」
「そう。塾のクラスで話してたの思い出した。都市伝説っつーか、怪談っぽいけど。不思議な話ならそういうのもアリか?」
「この辺りで? そんなのあった?」
「なになに? 怪談?」
 比呂も楽しげに食いついてきた。
「塾帰りに、『白い少女』を見るんだって。『白い少女』って俺たちが言っているあだ名だけど。ちょっと遅くなった時とか、親が迎えに来れない時に、子供がうろつくような時間帯でもないのに、一人でフラフラしているらしい」
「なんだそのあやふやな感じ。何かされるとか、呪文唱えて撃退とかじゃないのかよ」
「いや、それがさ。着ている服がボロボロの着物みたいで、ちょっと不気味らしいよ。実際に、見た奴がいてさ」

 それは、こんな話だ。
 その少年は、夜の九時半ごろに塾が終わって帰宅していた。途中で友達と別れ、大通りを住宅街の奥の方に曲がる。塾から歩いても十五分くらいで家に着くため、途中から一人でも気にしたことはなかった。
 住宅街を歩いていると、ふと、二十メートルほど先を子供が歩いていることに気がついた。
 白っぽい服を着ていて、髪は肩より少し長いから女の子のように見えた。同じ方向に向かって歩いていたが、近くに大人がいる気配はない。
 その時点で、(あれ?)と思った。まだ寒い春先に、子供が薄着で出歩く時間帯でもない。
 周囲にはなぜか人の気配はなく、よく知る道の住宅街なのにまるで廃墟に迷い込んだような気分になった。
 無意識に、歩く速度が遅くなる。
 すると、その子供は唐突に立ち止まった。少年も思わず足を止める。
 心臓が嫌な感じにドキドキする。静かな道は、立ち止まった足音が聞こえる距離だった。
 しばらく子供の後姿を見ていた、らしい。
――その子はいきなり、ふいっと左手の脇道に入っていった。
 呪縛が解けたかのように、少年は思わず子供の後を追った。子供が入った脇道に追いついたのは数秒後だが、その子供はどこにも見当たらず、忽然と消えてしまったようだった。
 少年は足元から震えが走り、悲鳴を上げて走って帰宅した。


「……こんな感じで、いきなり現れて、いきなり消えるんだって」
 将生は淡々とした口調で話し終える。変な抑揚がない話し方はあえてなのかわからないけれど、僕と比呂は、ちょっと無言になった。
 僕たちはそれぞれ、ゲーム画面を見ながら作業して話している。だからそれほど怖さは感じないけれど、実際に遭ったらかなり不気味な話だ。
「……なんか、だいぶ本物っぽいね。幽霊? なのかなあ」
「それ、他にも遭遇した奴いるの? その『白い少女』に」
 比呂はかなり気になっているらしい。
「いる。俺が知っている奴が三人で、他のクラスでも何人かいて、今うちの塾ではちょっと話題になってる」
「そっか。俺の通うスポーツ教室では話題になったことないなあ。俺が知らないだけかもだけど」
 比呂は訝しげに付け加えた。
「それに、それだけだと、ワンチャン近くに住んでいるちょっとかわいそうな子供って線も捨てきれなくない?」
「まあなあ。それについては俺も少し思ってる」
 将生も同意する。僕もそれは思うけれど、そういう部分も含めて都市伝説っぽいとも感じる。幽霊の正体みたり、とか。

「……ちょっと珍しいと思うのが、だいたい都市伝説とか怪談系って『友達の友達に聞いた』とか、『先輩の友達が』とか直接知っている人に辿り着きづらい伝聞が多いのに、この話は将生の知っている子が体験者なんだね」
「……そう言われるとそうだな。さっきの話の奴、昼間はまだマシらしいけど、夜はしばらく一人で歩けなくなったって。他の奴も似たり寄ったりで、絶対に親が迎えに来るようになったよ」
「それは……そうだろうね」
 ふと、僕も何年も前の『説明のつかない出来事』に遭遇した時のことが頭をよぎった。
 どこにも答えが見当たらないまま時間だけが過ぎたけれど、未だに囚われている自分も、もしかしたら似たようなものかもしれない。
 それに、この近所の『怪談話』にちょっと興味が湧いてきた。
「――この話が自由研究で使えるかどうかは置いといて、その『白い少女』を見たって子に、話を聞いてみたいな。将生、紹介してもらえない?」

<第五話へ続く>

#創作大賞2024 #ホラー小説部門


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