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引きこもり日記#1


ひょんな事から引きこもりのマサルと友達になった。

ざっくりと経緯を言うと、親の知人に自宅に引きこもっている34歳の息子がいて、その息子と毎週一回、数十分程度でかまわないので会話をする機会を設けて欲しいと歎願されたのだ。

ちなみに僕は何某かのカウンセラーでもなく、福祉関係者でもなければ、NPO職員でもなんでもない。

どうして自分が相手として適任だと思われたのか、そもそもその息子が何故引きこもっているのか、根掘り葉掘り聞いてみようとするも一向に詳しい事情が分からず、とにかく引きこもっている本人も「社会と接点を持つこと」を望んでおり、ぜひとも力になって欲しいという。もちろん何らかの金銭的報酬などは一切発生しない。

僕も返答にだいぶ困り、何というか、それならそういう自立支援系の行政サービスを受けるなりなんなりした方がよくないですかねぇ、と先方にやんわり伝えて断ろうとするも、既に就労支援サービスなどを受けているもにっちもさっちもいかないのだという。

とにかく一度でいいので顔合わせをしてくれないか、としつこく言われ、結局断り切れずに駅前のドトールで一回会うことになった。

当日、先に店に入って待っていると、父親に連れられて、異様に体の大きい青年が店に入ってきた。身長は190センチを超えるらしい。

そして、立ち上がっている時はジャイアント馬場と対峙したような威圧感を感じたが、いざ座ってみるとかなりの猫背で小さな席にすっぽりと収まる。

マサル本人の不安や自信のなさも影響するのか、座っている彼は実際より一回りも二回りも小さく見えた。

それからしばらく同伴の父親と他愛のない話を始めるも、当の本人は僕とは目線を合わさずに、大きな体を折り曲げるようにして、ひたすら俯いてテーブルの表面を見つめている。

何となく、その姿を見ただけでも彼の抱えこんでいるやるせなさや悲しみの一旦のようなものがひしひしと伝わってきたような気がした。

表情が一切なく、何か質問を投げかけても返答が来るのに時間がかかり、「はい」とか「いいえ」程度の短いものになってしまう。

数十分話して、最後にマサルに、本当に人と関わる事を望んでいるのか?というある意味直球の質問を投げてみると、それには間髪入れずに「はい」という返答が来た。

まぁ、考えてみれば自分も独身で無趣味で休みの日なんてほとんどする事がなく暇である。

本人が人と関わる事を望んでいるというのは嘘ではないみたいだし、週に一回程度話をするくらいなら別にいいかな、とも考えて、諸々の件について了承の旨を本人と父親に伝えると、マサルは何を思ったのか急に席から立ちあがり、蚊の鳴くような細い声で「よろしくおねがいしますっ!」と僕に頭を下げた。



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