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山王のお猿さん|歌詞と解説

山王のお猿さん

:: 東京の古いわらべうた(東京から広がり全国各地で遊ばれた)
:: 手まり唄



◇昔ながらの手毬(てまり)……

これはゴムまりではなく、昔ながらの手まりのうた。
ゴムまりよりも『昔の手まりはテンポが速い』という話は、以下の記事にて。小泉文夫先生の著作より引用しています。

「まりつきうた」にみるテンポの変化 子どもの遊びに〝まりつき〟というのがありますが、これを調べていて面白いことに気づきました。今の子どもの「まりつきうた」、たとえば「あんたがたどこさ」などに比べて、昔のうた、たとえば「山王のお猿さん」などは、テンポが速いということです。 世の中は急激に変わり、昔に比べて今はなんでも忙しく、テンポも速くなったのではないかと考えられますが、子どもの〝まりつき〟に関してだけは事情が逆なのです。”

小泉文夫『子どもの遊びとうた』


◇栃尾てまりが有名です

https://tochiokankou.jp/album/temari.html

「飾り玉」と「遊び玉」があります。前者は観賞用で、現在流通しているイメージはほとんどこちらかもしれません。
「遊び玉」は、〝弾むよう綿をぎっしり詰めた玉に糸をしっかりと巻き上げて地玉を作り、表面を色糸で模様を刺す。均等に弾ませるために、模様は凸凹のないものに限られる。〟とあります。こちらは実用で、遊び道具として作られています。

🔗歌ってみました

「山王のお猿さん」を、ゆっくりめに歌っています。よろしければお聴きください。

こんなにゆっくりでは本来の手まりの遊びは出来ないのですが……。
今回は、言葉を聞きとってもらうために、丁寧に歌ってみました。
聴いて「ふ~んこんな歌かぁ」と思ってもらうだけで大丈夫です。


◼︎歌詞・解説

・これは大人のための説明です、子どもと遊ぶときにわざわざ教えないように。
・でも、もしも子どもから質問されることがあったら、教えても構わないでしょう。

歌詞

山王のお猿さんは 赤いおべべが大お好き
テテシャン テテシャン
夕べ恵比寿講に よばれて行ったら
鯛の吸い物 小鯛の浜焼き
一ぱいおすすら すゥゥすら
二はいおすすら すゥゥすら
三ばい目には名主の権兵衛さんが
肴がないとて お腹立ち ハテナハテナ
まずまず一貫おん貸し申した
せんそんせん まんそんせん

(文京区本郷)採譜:尾原昭夫

解説

■山王権現(さんのうごんげん) 千代田区の日枝神社に伝えられる神猿。安産のお守りであったり、祭りの山車として登場したり、江戸で〝お猿さん〟として親しまれた。

・京都・大阪では「天王寺のお猿さん」と歌っているらしい……?

■恵比寿講(えびすこう) 商家で商売繁盛を祝福して行われる祭り。
・「講」は会合を意味する。家に招待されて、ごちそうを食べる日か…? 

・恵比寿は、右手に釣り竿、左手に大きな鯛を抱えた姿の、商売繁盛の神。
・商家で盛んだった恵比寿講は廃れたが、祭り行事としては、東京『べったら市』(10/19~20)、京都『二十日えびす』(10/20)、大阪『今宮十日戎』(1/9~11)などの有名なものが残っている。

■名主(なぬし) 町名主とは、奉行の支配下で、町方の民政を行っていたひと。
・権兵衛は、田舎っぽい人をそう呼んで笑ったとも、名前の分からない人をそう呼んだ(よくある名前だった)ともあり、風習による。

(脱線※)
「名主の権兵衛」が先か「名無しの権兵衛」が先か?だが、
この唄が流行ったことで「名主」→「名無し」の言い間違えから「名無しの権兵衛」が生まれたという説もある。真相は分からないし、たぶん子どもにとってはどちらでもいい。

■肴(さかな) 酒のさかな、おかずのこと。肴は炙ったイカでいい……。

(脱線※)
「肴がない」は、子守唄・わらべうたによく出てくるフレーズ。
宴会、ごちそう、「〇〇さんのがない」、誰か怒りだす。そういう連想ゲームがなぜかよく起こるらしい。子どもなりに大人の世界をユーモラスな目で見ている、揶揄しているのかもしれない?

私が習った「山王のお猿さん」の技をご紹介します。実際にはいろんな遊び方があったと思いますので、これらは一例です。

『テテシャン』
左手で右手の手首~手のひらのあたりを叩いて音を鳴らす。
もちろんその間も、右手でまりをつく。難しい。

『すゥゥすら』
両手を交互に口にもってきながら、口をすぼめて、ちゅっちゅと吸う仕草。
もちろんその仕草中も、両手で交互にまりをつく。とても難しい。

『ハテナ、ハテナ』
考える人のポーズ(※手を顔にあてて首をかしげる)を、両腕で交互にする。
これも常にまりをつきながらやる。難しいけど楽しい。

『せんそんせん まんそんせん』
お手玉でやるような、そった手の甲に玉をのせる、という技をする。まりをつく合間に、リズムにあわせて行う。
ついて、のせる、ついて、のせる、ついて、のせる……という感じ。
最後の見せ場として、しっかりと体を起こしてやると、超カッコイイ。


(脱線※)
「ハテナ」で終わってしまうバージョンの唄もある。まずまず一貫…以降の部分は、「せんそんせん」の技を思いついた人間が、後から付け足したのではないかと思う。まずまず一貫…自体はよくある決まり文句でおそらく意味はない。

子どもに〝教える〟必要はありません
大人も、最初は理屈なしに、遊んで歌ってみてください。

子どもが自分で〝気づく〟瞬間を待つ、気づきの嬉しさを本人のために取っておくような気持ちで、大人はわらべうたを手渡すだけに留めましょう。



参考資料

・うたの資料 ※五線の楽譜は、こちらでぜひご確認ください。

著:尾原昭夫 『日本わらべ歌全集』柳原書店 第7巻 東京のわらべうた



・解説資料

編:町田嘉章 / 浅野健二 『わらべうた 日本の伝承童謡』岩波文庫

著:岡田 芳朗 / 松井 吉昭 『年中行事読本』創元社


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