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結婚式は、卒業式でもあり、入学式でもあった

それ、勝手な決めつけかもよ?――

この本を読んで思い出したのは、自分の結婚式だ。
あぁ、あのとき人生が変わったと思えたのは、"勝手な決めつけ”から解放されたからだったんだなぁと。

私の身に重くのしかかっていた決めつけはこの2つ。

ひとつは、「中学・高校時代には一生の友達ができる」。そう思っていたのに、一人も挙げられないことがコンプレックスだった。周囲の人が、旧友と大人になっても会っているのを見聞きするたび、勝手に悔しさを感じていた。

もうひとつは、「親を困らせないように、いい子でいなければ」。
真面目できっちりとしている両親。その性格をいつの日か感じ取り、物心がついた頃から親元を離れてもずっとそう思っていて、特に母親の前では素の自分を出すことが苦手だった。

この決めつけから解放されたのが、ちょうど2年前の今日・2020年11月1日、結婚式を挙げた日。

ちょっと人とは違う結婚式をしたおかげだと思っているので、結婚式を振り返りつつ、勝手な決めつけからどう卒業できたのかを書いてみようと思う。

何らかの決めつけに囚われているかもしれない誰か、また結婚式に悩む誰かが前を向けるきっかけになりますように。

「なぜ結婚式を挙げるんですか?」と聞かれて

そもそも、結婚式というもの自体に対しては少し懐疑的だった。

広い会場では同時並行に多くの式が行われたり、「尺が持たないから」と言われて仕方なくケーキカットをしたという友人がいたり、新郎新婦と会話する時間がほぼなかったり。どこか形式的なところに違和感があった。

そんなわけで、自分がいざ結婚式を挙げるとなったときは、"何事にも意味のある結婚式"にしたいという気持ちが強かった。

初めての式場見学は、本命ではないものの気になっていた式場へ行った。

結論から言うと、これが運命の出会いだった。会場スタッフとのカウンセリングで、"何事にも意味のある結婚式"が叶えられると確信する。


どんな結婚式がしたい? 何人呼ぶ? 予算は? などと聞かれると思っていたら、なんと生い立ちから聞かれた。えっ、と思いながらも自分たちのことを深く知ってもらえるのが嬉しかった。

一通り話した後、投げかけられた質問に時が一瞬止まった。

「お二人はなぜ結婚式を挙げたいんですか?」

・・・なぜ?
なんとなく挙げるもんだと思っていただけで、「なぜ挙げるのか」など考えてもいなかった。

少し考えて、彼と私から出てきた答えは、この2つだった。

「親や友達、お世話になった人に感謝を伝えたい」
「人生の節目として、きちんとけじめをつけたい」

うんうん、とスタッフさんは前のめりに聞いてくれた。

そんな私たちにぴったりの挙式がある、と言われて紹介されたのは、祝言しゅうげんという、平安時代から続く日本で一番古いスタイルの結婚式だった。流れはこう。

・新婦は、父の先導、母の手に導かれバージンロードを歩く
・誓いの言葉を読み上げる"誓詞朗読“
・夫婦の契りを結ぶために、盃の酒を酌み交わす”三献さんこんの儀”
・新郎家、新婦家、参列者の皆さんへ感謝の言葉を伝える”三礼の儀”

けじめをつける、感謝を伝える。
よくある形式的なものではなく、厳かに、心を込めて挙げられそう。自分たちにぴったりだと思った。

その後も、式場が大事にしている「ゲストが主役の結婚式」や、人生における結婚式の意義について熱く語ってくれた。しかも、この式場に合わない人にはおすすめしない、と明言するもんだから、もはや式場というよりここの人に惚れてしまった。

最終的に、「ここ以上の式場はない」と二人の意見が一致。鎌倉・萬屋本店で式を挙げることにした。

結婚式で、誰に何を伝えたいか。

本番の4ヶ月前、プランナーと初めての打ち合わせで「なんで結婚式を挙げようと思ったんですか?」と改めて聞かれ、今度は戸惑うことなくスラスラと答えられた。

すると、「お世話になった人にどんなことを伝えたいですか?」という質問に進んだ。
この質問が、"勝手な決めつけ”から卒業する出発点になったと思う。


最初に答えたのは、自分が素でいられる友達や会社の仲間たちに、出会えた感謝を伝えたいということ。

うまく馴染めなかった中高時代が終わり、大学に入ってからは、何の取り柄のない私の話を聞いて笑ってくれる、家族のような仲間に出会えたこと。新卒で入った会社では、研修を経て仲良くなった同期や、互いの家を行き来するくらいの間柄になった同世代の先輩後輩に出会えたこと。

過去があったからこそ、自分の素を出せて、心から笑える人の存在がものすごくありがたい。その気持ちを結婚式で伝えたいです、という話をした。

そして、母に対する想いもプランナーに伝えることにした。

素になりきれずに、感情や思っていることを表に出さず、母を困らせてしまっていたこと。母もそんな私に気付いていたし、大人になるにつれて少しは素直になれるようになったが、完全に殻を破るきっかけはなかった。

このことを誰かに打ち明けるのは初めてだった。緊張したが、プランナーはこう答えてくれた。

「こうしてお伝えくださってありがとうございます。面と向かって伝えようと思うと伝えられない気がしたり、今までもそういった機会はなかったと思います。結婚式の日にお気持ちを伝えられることで、お母様やご友人の皆様も、そしてしなこさんにとってもひとつの区切りになるのではないかなと思います。お気持ちが伝わるように、精一杯お手伝いさせてください。」

こちらこそありがとうという気持ちと、まさにその通りだと思った。

友達に何の脈絡もなく「私にとってみんなはこんな存在でね、、」と語り始めるわけにはいかないし、親には今更「これまでこう思っていて」と伝える勇気などさらさらない。

でも、伝えるなら絶好のチャンスだと思った。
結婚式を通じて、これまでのありがとうと、これからもよろしくね、を伝えたい。私たちのテーマは「ここから、心から。」に決まった。

ゲストが主役の結婚式に

結婚式当日。朝6時すぎ、澄んだ秋空が広がっていた。

萬屋本店のコンセプトである「美しいもてなしが許された場所」。
時間とお金をかけて、自分たちのためにわざわざ足を運んでくれるゲストにとっても良い日になるように。そんな想いを込めて、おもてなしの一日が幕を開けた。

会場の入口には、ウェルカムフラワーとしてススキを飾った。花言葉は「心が通じる」。ゲストと過ごす一日が心通じ、実り多き素晴らしい一日になりますようにという願いを込めて。

披露宴会場には、花言葉が「飾らない心」のシンビジウムという蘭や、「幸せが飛んでくる」の花言葉を持つ胡蝶蘭をメインに仕上げてもらった。
自分を飾らずにいられるゲストへ、感謝と恩返しの気持ちと幸せを届けられるような一日になるように、という願いを込めて。

挙式は、ウェディングドレスを着ると当然のように思っていたが、祝言に合わせて和装を。白無垢の純白さに、身と心が人生イチ引き締まった。

撮影やリハーサルを終えると、萬屋本店では、両親と自分だけの空間で感謝を伝える「あいさつの儀」という時間がある。

「ありがとう」を伝えるためのわずか5分間。なのに、心臓が飛び出そうで、涙もろい私は親が部屋に来る前に泣き出したが、なんとか振り絞って想いを伝える。父も母も、笑顔だった。意外と泣かないなぁ、なんて。

いよいよ挙式本番。和やかだったリハーサルとは打って変わって、ぴりっとした空気が漂う。入籍から1年ほど経っていたが、本番が始まるのを待ちながら、「結婚するんだな」という実感と、覚悟が生まれた。

先に挙式場に入った新郎に続き、入場。
ぱっと扉が開き、ゲストが目に入った瞬間の画と厳かな空気は、今でも忘れられない。

新郎と新婦の父が握手を交わし、私の手が、母の手から新郎へ渡される。
後日談だが、父の手にはすごく気持ちが込もっていた、と。結婚式を待ちわびていた父にとっても、覚悟をした瞬間だったのかもしれない。

お酒の酌み交わし、誓詞朗読を終え、両家とゲストに手紙を贈る「三礼の儀」。ここで私は両親への想いを打ち明ける。

司会により、新郎家の手紙から読まれる。夫もまた、私も聞いたことのない家族への感謝の気持ちを、一字一句に、心いっぱいに込めていた。

そして、新婦家の手紙。

幼い頃から、実はこんなふうに思って本音を話せなかった、困らせてしまってごめんなさい。それでも私が好きであろうことをたくさん経験させてくれて、支えてくれたことへの感謝。
本当は自分の口から言うべきだったかもしれないが、司会の包み込まれるような温かく優しい言葉に助けられ、想いを伝えることができた。

手紙が読まれている間、両親がいる方向に向いていたものの、涙が溢れそうで顔を見ることはできなかった。20年以上知らなかったことを伝えられ、どんな感情になったのかも知らない。

ただ、あとで映像を見ると、母は少し、震えていた。


披露宴で感じた、ゲストへの想い

披露宴。ゲストへのおもてなしを詰め込んだ時間だ。

ゲストファースト、つまり「主役はゲスト」だと考えていたので、入場の瞬間はそんなにカメラをこっちに向けなくても、なんて不思議な感情さえ芽生えたが、厳かな挙式から一変、明るいゲストの笑顔に迎えられ自然と笑みがこぼれた。

前半の時間は、萬屋本店で恒例の「ゲスト紹介」を行った。

ゲスト紹介とは、新郎新婦からゲストとの関係や思い出を話したり、感謝を伝えるための時間。この3人は大学の同級生で、こんな思い出があって、自分にとってはこんな存在で〜といった形で紹介する。

知らないゲスト同士が身近に感じられ、親にとってはこんな仲間がいたのね、と知る機会にもなる。ゲストは恐らく経験したことがないであろう時間に最初は様子を伺いつつも、徐々にノッてきて笑いに包まれ、大いに盛り上がった。

なんてみんな楽しそうにしてくれているのだろう。一人ひとりの笑顔が眩しくて、嬉しくて、「私はこの笑顔に支えられてここまで生きて来られたんだ」と気付き、ゲストへの感謝の気持ちがより一層、大きくなった。

それ以外の時間は、ずっとゲストとの会話を楽しめた。高砂にはテーブルを置かなかったため隔たりがなく、代わる代わるにゲストたちが集まってくれた。挙式の感想を伝えてくれたり、衣装や料理の話をしたりと、短いながらも濃い時間を過ごせた。

瞬く間に中座の時間になり、お色直しではゲストを待たせないように最短時間でお願いした。ゲストへの想いを汲み、猛スピードでヘア・メイク・衣装チェンジをしてくれたプロたちには頭が上がらない。

1分でも長く、ゲストと話せるように

披露宴の後半は、ほとんどを歓談の時間に当てた。

我ながらいい決断をしたなと思っているのは、新郎と新婦の別行動。それぞれ自分が招待したゲストのテーブルに行くことにした。2人で周ると互いに気を遣うかもしれないし、全部のテーブルに行けないと思ったからだ。

少なくとも私はそんなことをしている新郎新婦は見たことがない。でも、これが大正解。親戚、友人、仕事仲間と、それぞれが好きなように、式の話だけでなく近況まで話すことができた。
演出がないと尺が持たないなんてことはまったくなかった。

夫や私がテーブルにいない間も、ゲストたちが美味しそうに食事をし、笑顔で会話を楽しんでいたのがとても印象的だった。「ゲストが主役になれる結婚式」が叶えられた気がした。


「結婚式は一瞬だよ」と事前に聞いていたが、3時間が30分くらいに感じるほどの速さで時間が過ぎ、結びの時間になった。

挙式で一番伝えたいことは伝えられたので、最後にはゲストへの感謝の気持ちと、父・母のそれぞれ尊敬しているところを話すことにした。

泣きにくい話題にしたのは内緒だが、手紙は両親ともすごく喜んでくれた。

読み終わって花束を渡すとき、母からは「よかったね」と、すべてが詰まった一言とともに頭をなでてくれ、父は涙を流していた。
父が泣く姿を見るのは、これが初めてだった。

結婚式を挙げて本当に良かった。心からそう思った。

勝手な決めつけからの卒業

自分の門出にお祝いしてくれる人がいる。笑顔で同じ時を過ごしてくれる人がいる。結婚式で得られたこの実感は、「古くからの友達はいなくても、私にはこんなに大切にしたい人がいる」という自信に変わった。

今では友人と会うたびに「会ってくれてありがとう」という気持ちが芽生え、その時を存分に楽しめている。

そして「手紙、ありがとう。十分に想いは伝わりました。」と式後に連絡をくれた母とは、ありのままで会話を楽しめるようになった。それまでの自分は本当に自分だったのかと疑いたくなるほど、あれもこれも話したいという気持ちになる。もっと早く結婚式を挙げればよかったとすら思う。

***

「なぜ結婚式を挙げるんですか?」の質問から始まった結婚式。単なるイベントではなく、人生に向き合い前に歩んでいく機会と捉えたことで、新たな出発点に立つことができた。

そういえば、挙式前に父が「今日は入学式だね」、と言っていた。珍しい表現をするなと思ったが、間違っていなかったようだ。

それに、決めつけがないだけで随分と生きやすくなった。

著者の阿部さんも、「解釈次第で人の一生は大きく変わる。」と述べているが、決めつけから卒業して今までの2年間が、人生で一番楽しいと胸を張って言える。

今思えば、大したことのないことだった気がしている。とはいえ、その決めつけが生き方に大きく影響することがよくわかったし、今感じている別の不安や悩みもまた、勝手な決めつけから生じている気もする。

ときどきこの本を読み返しながら、結婚式を振り返りながら、自分が生きやすいように生きていこう。

あとがき。この本は『読書の秋2021』の課題図書と知っていたのに去年はうまくnoteが書けなくて、一年経ってやっと筆を執った。なのに全然、読書感想文じゃなくてごめんなさい。

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