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『孟子』07―梁恵王上―孟子と斉の宣王の対話(1)牛を哀れむ〈4〉

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*前回の孟子の言葉はつづく

……さて、では本題に入りましょう。王は兵力を動員し、臣下の命を危険にさらし、諸侯から怨みを買っております。こうしたことを続けて心は晴れやかになるでしょうか。」

宣王は言った。

「いや、私がそんなことで晴れやかになるはずがないでしょう。
ですが、私には大きな目的があります。ですから、その達成のために行動しているだけなのです。」

孟子は言った。

「なるほど、では王の大いなる目的をお聞かせください。」

宣王は笑って答えなかった。

孟子は言った。

「王が戦争を起こす理由は、肥えた肉や旨いものを口にできないことにあるのでしょうか。
それとも、軽やかで暖かな服を身に纏うことができないことにあるのでしょうか。
あるいは、美しく化粧した美女の容姿を目にすることができないことにあるのでしょうか。
もしくは、心地よい歌や音楽を耳にできないことにあるのでしょうか。
はては、側近がうまく貴方の思う通りに動かないことにあるのでしょうか。
ですが、王の臣下たちは、これらの全てを用意しております。

では、王が戦争を起こす理由はどこにあるのでしょうか。」

宣王は言った。

「もちろん、私が戦を起こす理由は、そういったことにはない。」

孟子は言った。

「ならば王の大いなる目的はすでに明白です。
領土を広げ、西の秦や南の楚を朝見させ、中国に君臨して四方の夷狄を統治したいのです。
ですが、先ほどのような行いで、この目的を達成しようとされる。
これはまるで、木によじ登って魚を獲ろうとしているようなものです。」

宣王は言った。

「そこまで言われますか。」

孟子は言った。 

「いや、むしろもっと酷いです。
木によじ登って魚を求めたところで、魚は得られませんが、とくに災いがあるわけではありません。

ですが、王のようなやり方では、心も力も精魂尽き果ててしまうばかりか、後に必ず災いが生じるでしょう。」

*以上、『孟子』07―梁恵王上―孟子と斉の宣王の対話(1)牛を哀れむ〈4〉

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【原文】
……抑王興甲兵、危士臣、構怨於諸侯、然後快於心與。」王曰、「否。吾何快於是。將以求吾所大欲也。」曰、「王之所大欲可得聞與。」王笑而不言。
曰、「為肥甘不足於口與。輕煖不足於體與。抑為采色不足視於目與。聲音不足聽於耳與。便嬖不足使令於前與。王之諸臣皆足以供之、而王豈為是哉。」
曰、「否。吾不為是也。」曰、「然則王之所大欲可知已。欲辟土地、朝秦楚、莅中國而撫四夷也。以若所為求若所欲、猶緣木而求魚也。」王曰、「若是其甚與。」曰、「殆有甚焉。緣木求魚、雖不得魚、無後災。以若所為、求若所欲、盡心力而為之、後必有災。」

*ヘッダー画像:Wikipedia「孟子」

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