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『孟子』92 離婁上ー孟子の言葉(13)秩序の原理

孟子は言った。

「天下に道があれば、小さな徳は、大いなる徳に使役される。
そして、小さな賢さは、大いなる賢さに使役される。

だが、天下に道がなければ、小なるものが大なるものを使役し、弱いはずのものが強いものを使役するようになってしまう。

では、この二つの道の有無を決めるのは誰かといえば、天である。
天に従う者は、生き残るものであるし、天に逆らうものは滅びるのである。

斉の景公(けいこう)は、言っている。
〈呉に命令をくだすことができないのに、その呉からの要求を受け入れなければ、こちらから国交を絶つことになってしまう。〉

このとき、景公は、涙を流して娘を呉に嫁がせたのだ。

*呉は、春秋時代後期に台頭してきた長江下流域の勢力です。
斉の景公の時代、呉は、宿敵であった楚の首都を落とし、返す刀で淮河の北岸地域に進出しています。呉が北上するなか、斉の景公は、泣く泣く呉の要求に従い、自分の娘を呉に嫁がせたようです。
そして、景公が没した後、斉は、ついに呉と激突します。
艾陵(がいりょう)の戦いです。
この戦いで、斉は、呉・魯連合軍に敗れることとなります。

今や小国が、大国を率いようとして、むしろ大国の命令を受け入れることを恥としている。
これは、弟子が師匠から教えを受けることを恥じているのと同じことだ。

ただ、もし、どうしても大国の命令を受け入れることを恥じるのであれば、周の文王を師として仰ぐのだ。
文王を師として仰げば、大国ならば五年、小国であっても七年もすれば、必ず天下に政を行うことができようになるだろう。

『詩経』にはこのようにある。
〈殷の子孫、数は十万を下らず。
上帝それでも命をくだし、彼らを周に服させた。
天命常なし。
殷につかえた士は、偉大にして機敏。
それでも周の京(みやこ)に神酒をそそぐ。〉

孔子は言っている。
〈仁であれば、数で対抗することはできない。国君が仁を好めば、天下無敵である。〉

今、天下に無敵でありたいと願いながら、仁であろうとしないのは、まるで熱いものを掴もうとして、まず手を冷やそうともしないのと同じだ。
『詩経』にはこのようにある。
〈誰が熱いものをうまく掴もうとして、その場で手を冷やそうともしないのか。〉」

*以上、『孟子』92 離婁上ー孟子の言葉(12)秩序の原理

【原文】
孟子曰、「天下有道、小德役大德、小賢役大賢。天下無道、小役大、弱役強。斯二者天也。順天者存、逆天者亡。齊景公曰、〈既不能令、又不受命、是絕物也。〉涕出而女於吳。今也小國師大國而恥受命焉、是猶弟子而恥受命於先師也。如恥之、莫若師文王。師文王、大國五年、小國七年、必為政於天下矣。『詩』云、〈商之孫子、其麗不億。上帝既命、侯于周服。侯服于周、天命靡常。殷士膚敏、祼將于京。〉孔子曰、〈仁不可為衆也。夫國君好仁、天下無敵。〉今也欲無敵於天下而不以仁、是猶執熱而不以濯也。『詩』云、〈誰能執熱、逝不以濯。〉」

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