うつ病の外見上の特徴とは?
うつ病は表情にも現れる
厚生労働省の調査によると、平成29年にはうつ病などの気分障害の患者数は124万人を超えており、その数は年々増加傾向にあります(注1)。ストレス社会の現代において、いつ、誰がうつ病になってもおかしくない時代がすでに到来していると言っても過言ではありません。
うつ病になった際にはすぐに医療的ケアを受けることが重要ですが、自身がうつ病になった際に「これってうつ病の症状かも」と気が付ける人は意外に少なく、「疲れているだけ」「このくらい大丈夫」となかなか病院へ行かない人が多い現状があります。
そのため周囲の人がちょっとした様子の変化に気付き、話を聞いたり、病院へ付き添ったりすることで、早期発見・早期治療につながり、寛解(日常生活を送れるまで症状が回復すること)までの時間がグッと短くなりますので、身近な人の心と命を守ることにつながります。
そこで今回はうつ病になってしまった人の外見的特徴とうつ病になった際にどのようなサポートができるのかについて解説していきます。
うつ病患者の外見上の特徴
アメリカ精神医学会の診断基準(注2)では、うつ病の診断には、
①抑うつ気分
②興味や喜びの喪失
③食欲の減退または増加
④睡眠障害
⑤精神運動障害(落ち着きがない、感情不安定性、攻撃性)
⑥疲れやすさ・気力の減退
⑦強い罪悪感
⑧思考力や集中力の低下
⑨死への思い
が挙げられており、このうち①もしくは②が存在した上で9つの症状のうち5つ以上がほぼ毎日、ほぼ1日中存在している状態であることが必要とされています。
この9つの症状のうちいくつかは表情や態度などといった「見た目」や「雰囲気」にまで影響を与えてしまいます。
例えば①抑うつ気分や②興味や喜びの喪失が続いていると気力がなくなり、表情も乏しくなるため、元気がないように見えたり、ぼんやり・無表情といった顔つきになったりします。
また、④睡眠障害のうち、寝付きが悪い(入眠困難)や夜中に目が覚める(中途覚醒)、朝方に起きてしまう(早朝覚醒)ことによって睡眠時間が十分に確保できないと、日中ボーっとしたり、目の下にクマができたりすることで、「暗い表情」「生気の薄い感じ」につながってしまいます。
このような表情で暮らしたり雰囲気をまとったりしていては、周囲の人も声をかけにくくなります。そうすると人間関係が希薄になり、孤立し、ますますうつ症状がひどくなるといった悪循環に陥ってしまうのです。
微笑みうつ病
しかしながら全てのうつ病が表情などの外見的特徴に影響を与えるとは限りません。うつ病であっても人前では何ごともないようにふるまえるうつ病も存在します。それが「微笑みうつ病」と呼ばれるうつ病です。
微笑みうつ病は正式な医学用語ではないため、「微笑みうつ病である」と診断されることはありません。しかし、うつ病とは異なり、社交的な場面では笑顔で会話をすることができたり、明るい雰囲気でコミュニケーションしたりすることができます。
そのため「うつ病」=「暗い雰囲気」と考えていると、微笑みうつ病のようなうつ病を見逃してしまうことにつながります。
外見上の特徴や雰囲気でもうつ病の可能性を感じることができますが、その感覚を過信せず、生活習慣の変化(「喫煙・アルコールの量が増えた」「イライラすることが多くなった」など)にも目を向け、少しでも違和感をもった時点で「大丈夫?」「できることはある?」と声をかけ、「あなたは1人ではないよ」というメッセージを伝えていくことが大切です。
身近な人に変化が生じたら
では、身近な人の外見や様子に異変を感じた際に私たちには何ができるのでしょうか?
まずはそっと寄り添い、話を聞いてあげてください。もちろん本人が話したがらない場合には無理に聞く必要はありません。「何かあったらいつでも話してね」と見守るスタンスで気にかけてください。
また、病院へ行くことも勧めてあげるとよいでしょう。前述した通り自分の異変に気づき自ら医療機関を受診できる方は多くありません。そのため周囲の人が以前との変化を伝え「心配だから一緒に病院に来てほしい」と伝えてあげてください。
家族であれば食事や睡眠などの生活リズムを整えてあげる、同僚や部下ならば仕事の量を減らす、スケジュールに余裕をもたせる、友人ならカフェなどゆっくりできる時間を一緒に過ごす、外出してリフレッシュする機会を作るなど、環境を整えてあげることも大切です。
まとめ
今回はうつ病の外見的特徴と、身近な人がうつ病になった際の対応方法について紹介しました。
うつ病はさまざまな症状が生じ、外見や雰囲気にも影響を及ぼします。周囲の人が異変に気づき、話を聞いたり受診を勧めたりすることで、早期発見・早期治療に繋がり、うつ病で苦しむ期間は短くなります。上記のような状態の方が身近にいる場合は遠慮せずに声をかけてあげてくださいね。
脚注
注1)厚生労働省(2022)「第13回『地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会』 (参考資料1)参考資料」(参照2024.6.10)
注2)アメリカ精神医学会(2014)『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(高橋三郎・大野裕監訳), 医学書院
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