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サーフィン

 修一さんに会う。昨日メールをくれていたけれど全く気がつかなく気がついたのが夜中だったけれど『明日ってゆうかもう今日だけれど良ければ連絡ください』あまり重くなくかといってくどくもなく今気がついたよ的なメールを打っておいた。
 案の定午後3時ごろにメールがあり『16時にそっちにつく』と来る。『わかった』と打ち返し、いつもの待ち合わせ場所に車で行く。
 
 いつもいつもおもうことなどだけれど、メールが来ても無視しこっちから捨ててやるとおもっているのに、メールがくるといまだにドキドキし浮きだってしまい嬉しくてつい返信をしてしまう。修一さんもわたしに会わないといけない習慣が身についているかのように。別に他の女でもいいじゃないかとかおもうけれど、もうそうゆうのめんどくさいんだよと前にいっていたことを思い出す。そうだね。うん。わかる。新規加入とかまためんどうなことになるしね。段階? 付き合うとかさ、段階があるでしょ? で、結婚してるしね。修一さんは。ほら、だから、まあなんだかね……。なんだろう。そのときのわたしはいやに饒舌にわたしがわたしを推していた。バカみたいに。てゆうか、そもそもの話さ、出会いなんてないじゃないか? 修一さんは笑いながらそういい締めくくった。

「あれ?」
 修一さんは30分ほど遅れてきた。わたしの顔を見るなり、真っ先に、あれ? と口を開いた。
「短くなったね」
 髪の毛が短くなったことだけいい、他にはなにもいわなかった。「いいじゃね?」とか「似合ってるよ」とか。まあさほど似合っていないかもしれない。とゆうか似合ってないのだろう。わたしはいつも長い髪の毛をしていた。まるで自分のブスさを髪の毛で隠すかのように。髪が長ければなんとか誤魔化すことが出来る。短くてはどうにもならない。ウイッグでもかぶらないと。あるいはエクステ。
 まあね……。刈り上げた後ろの髪の毛を撫であげうつむく。真っ直ぐに彼の顔が見れなかった。彼からはおもての、建築現場の匂いがし日向のような匂いがした。 
 修一さんとわたしの行き先。決まっているホテル。もうポイントで宿泊が出来てしまうホテル。彼はわたしを抱くだろう。無言で。無意味で。不毛な。

「日曜にさ、サーフィンに行ってね……」
 行為が終わり腕枕の中にいるわたしに声が降りかかる。結局、中で出してはダメだよとはいえなかった。中で、中で出してしまった。避妊をしなかったのだ。わたしが悪い。
「うん」
 行為の後はなぜかとても親近感が湧きいっそう彼を近く感じる。エアコンが壊れていて、部屋が冷えている。修一さんは唾を飲み込んで続ける。
「腰がやられたよ。寒くて。けれどさ、波がとてもよかったんだ。だからつい無理をしちゃってさ。ほんとうにさ、いい歳して限度を考えないとな」
 わたしに向けた言葉だろうけれど修一さんはまるで自分に向けて話しているようだった。ああそうなんだ、としかいうことがなくわたしはもっと修一さんの腕の中におさまる。温かい。体温が、無駄に伝わってくる。
「……あのね……」
 ややしてから急にわたしが話しかけると彼は、なに! とおどろいた声をあげ、まさか妊娠した? と真顔でいった。え? わたしはいや違うよと手を顔の前でひらつかせ、けどね、と続ける。
「今さらだけれどね、違うくて、あ、でもそうかもで、えっと、そのわたし、リングを取ったんだ。避妊リング」
 え? じゃあ。という吹き出しが修一さんの頭上に浮かぶのが見える。
「俺、タネないし。そういえば」
 まるで準備されていたような台詞を口にしわたしから離れソファーに移動した。以前高熱を出し抗生剤を飲み医者に『タネが無くなりますがいいですか』といわれたことがあり『いいです』とこたえたという。『もう2人子どもいますんで』とも。
「へえ」
 鵜呑みにしたけれど真実などは皆目わからない。
「けど、お前さ、そうゆうこと最初にいえよ。終わったあとじゃさ、遅いんだよ」
 もっともな意見にぐうの音もでない。部屋がまた冷えたような気がしてならない。
「黙っていちゃさ、わからないよ。いえよな」
 うん、とうなずいたけれど、その言葉はわたしに苦痛を与えた。
 奥さんと別れてわたしと一緒になってよ。それか殺してよ。わたしを。わたしだって苦しいの。好きだし、誰かをたくさん裏切って。でもこうやってあって……。とはいわない。
「好きだよ」
「いやいやそれはもういいよ」
 憂鬱だった。お腹が減っていたしまた泣きそうになり取り乱してしまいそうになる。
「好きじゃダメなの? ねぇ?」
 彼は黙っている。顔が逆光で見えない。
「ねぇ?」
 なぜかわたしは今日は執拗だった。重い……。体重ではなくて、気持ちが、重い。まだ体重が重たい方が修一さん的には楽かもしれない。わたしはまた泣き出す。彼はめんどくさそうにアイコスを手に取り口元にもってゆく。

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