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すれちがう

 頭が痛すぎ、吐き気がし、そうなると寒気もしだして、これはまずいとおもい熱めのお風呂に入る。寒気はややなくなったけれど頭は相変わらず痛くまるで孫悟空の頭に乗せている輪っかがきゅっと絞まったような痛さ。という妄想をしお風呂から上がったあとでお湯を沸かしカップのコーンスープを飲む。飲んでいたら直人が仕事から帰ってくる。台所にいたのでどうしたの? という顔をしたので、寒くて、スープ飲んでるのと声を出す。
「……なんで髪の毛がびちゃびちゃなの?」
 そこか! 突っ込むところはとおもいつつ、風呂に入ったんだよといい返し、なおちゃんも入ってきなよと進める。いつもなら、うん、入るとか、わかったと素直にうなずくのに今夜は、いいやと首を横に降った。めんどくさそうに。
 時計はもう21時半をすぎていて昨日よりもさらに遅かった。疲れている。顔がもうなんというか疲弊をしそのせいか5歳くらい老けて見えた。浦島太郎じゃないけれど箱を開けたら一気にじいさんになったような感じ。
「明日もゴルフ。先週もゴルフ。再来週もゴルフ……」
「へー」
 疲れているなら行かなきゃいいじゃん、とはいわない。どっこにも連れて行ってくれないね、ともいわない。もうどうでもいい。
「先週はさ、絶好調だったけどまあ寒かったし」
「うん。寒かったね。確かにね」
 直人は出張で茨城に行っていた。地震があったことは泥酔のため眠っていて知らなかったという。俺はきっと大地震があっても起きないから死んじゃうな、とひとりごとをいい、クスッと笑う。
「なおちゃんはきっと死ぬよ……。地震の前にね。酒で死ぬの。それかわたしがね、殺してあげてもいいよ」
 すっかりコーンスープが冷めている。わたしは冷めきっているスープの中にあるスプーンを手に取り投げたい衝動に駆られる。呼吸がうまく出来ない。今すぐにでも挿入して欲しい。
「ははは。なにいってんの?」
 全く取り合おうとしない目の前の男が直人じゃなく他の男に見える。
 頭が痛い。わたしは目頭を何度か揉み、もうあまり話したくはないのに口を開く。
「頭が痛いの。風邪じゃないよ。きっとね。だって熱はないよ。うん。あ、そうだ。花粉かもね。風が強いしさ、だから風邪薬と鼻炎の薬を一気に二種類も飲んじゃった。だからぼんやりするんだぁ」
 異様な饒舌さに直人はわたしの顔をじっと見ている。穴が開きそうなくらいにじっと。大丈夫? といおうとしてやめる直人の心の中が読めてしまうから
「もう寝るね。おやすみ」
 眠たくはないけれど寝ることにし布団を頭から引っ被った。

 うとうとしかけたとき、直人が部屋の電気を消してわたしの隣に滑り込んできた。同じシャンプーの匂い。お風呂に入ったのだろう。直人はわたしのパジャマがわりにしているマキシワンピースを捲り上げ、身勝手に中に入って来て腰を動かす。体調が悪いとわかっているはずなのに。けれどわたしは声を出してしまう。バカみたいに。声だけが元気に出てしまう。気持ちぃぃ、あっ、もっと、と声をだしてしまう。バカじゃねーのかと自分でも嫌になる。キスもないついでにもう愛もないただの体を使った自慰は20分程で終わり直人は寝息を立て始める。直人の横顔を眺め仰臥の体勢をとり天井をギィっと睨みつける。天井に木目がありその木目に向かいさらに睨む。なんだよという声がし、お前が悪いんだぞとお節介な声がし、お前なんか死んでしまえという意地悪な声もしてわたしはギュッと目を閉じる。死んでしまいたい。いつもそう考えてしまう。殺してあげる。と言葉にしたときの直人の顔を思い出す。ギョッとした顔。こいつ本当に殺すかもしれないという確信。わたしは最近おかしい。いや、最近ではなくもっと前からおかしいのかもしれない。

「なおちゃん、なおちゃん。あのね。なおちゃんってさ、わたしのことどう思ってる? 好きなの? 嫌い? 性処理道具? ネコ? ペット? まあなんでもいいけれど、もう6年も一緒にいるのにね。なんかさこうなんていうかわたしね。この先どうしていいかわからないんだけどね。なおちゃん、聞いてるの……」

 朝起きるともう直人の姿が消えておりわたしは吐き気で目が覚めた。10時半。お! わたしは気怠すぎる体を振り起こしコメダに行く準備をする。まだモーニングが間に合う。徒歩で5分のところにあるコメダ。行くしかない。わたしはそのままの格好でコートだけを羽織りメガネをかけ財布と携帯だけを持ってうちから飛び出る。 
 コメダにはたくさんの人がいてちょっとだけ待った。皆暇なんだね〜、とおもうわたしも暇の一員でありコメダでモーニングを食べコーヒーゼリーを食べた。うちに戻りまた布団に入る。眠かった。夕方のまだ早い時間に直人が帰ってくる。
「あれ?」
 お互いにあれ? といいあったので、どうぞとその権利をゆずる。
「今まで寝てたの?」
 そんなことか! とはいわない。決して。
「コメダに行ったよ。以上」
 コンビニで買ってきただろうラーメンが透けて見える。
「なに?」
 なに? ってなんだ? ああ、そうかとわたしは言葉を続ける。
「早かったんだね。もっと遅くなるとおもったの」
 ああ〜。それな。そんな顔をし
「近所のゴルフ場だったからね。早いよ。ほらいつものあそこ」
「あ〜、あそこね。あそこね」
 あそこってどこか知らない。本当は。どこだろう。何軒か近いところがある。まあどうでもいいしとどうでもいい感じでこたえる。
「で、どうだったの? スコアは?」
「ダメ〜だったし。今日は翔くんが断然よかったよ」
 翔くん。まだ二十歳そこそこの蒙古斑がありそうな若造だ。
「パパは? 天野パパ?」
「あ? パパは腰を痛めダメ」
 沈黙があり、冷蔵庫がグオンと盛大に音を立てた。直人がなぜかカッコよく見え目をこする。
「またちょっとだけ寝るね。さっき薬飲んだから」
「うん」
 眠かった。しばらくしてまた直人がわたしの隣に滑り込んでくる。スカートを捲り上げ挿入をしてくる。
 部屋はまだ薄暗く、日が、長くなったな、あっ、いやっ、ダメだって、ああっ、
 眠たかった。けれど、声が出る。気持ちぃぃ〜、あ、ああっ……。
 いっそこのまま首でも締めて殺してくれたらいいのに。けれど、声がもう止まらない。ああん、もっと、もっとしてぇ〜。
 わたしは気がふれたのだろうか。おかしくなっているのだろうか。こんなに何回も突かれキスもなく挿入だけをされ涎を流してこんなに感じて。
 バカじゃねーの?
 天井の木目が目で訴えてくる。お前さ、まじでバカじゃねーの? シネ。
 腰を浮かせながら喜悦に歪む顔をしわたしはわたしの奥がぷるっと震えた。

 

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