千秋楽
ひさしぶりに直人と一緒の布団に入り、ひさしぶりに泊まった。だいたい、今夜いくね。とメールを打ったくせにいくのが遅くなったのだ。(ほんとうにつまらない野暮用で。以前デリヘルで働いていたときのお客さんにあっていた。嫌だけれど。仕事なのでと割り切っている)23時を過ぎていてだから直人はソファーで舟を漕いでいた。スーピー、スーピーという寝息はいっそおもしろいくらい心地よさそうで、いちいち起こすのはやめて、静かに寝る支度をし、布団に入った。
テレビも電気もつけっぱなしだったので全ての電化製品を停止する。常夜灯だけがぼんやりと月みたいに浮かんでいる。仕事とはいえども他のおとことあってきたあとすぐに直人の布団の中にいることになんとなく違和感があった。
がさっと音がし、あっ、という声とともに直人がソファーから起き上がる。
「ねむい……」
わたしがいつ来たのか、いつからいるのか、いま何時なのかということはどうでもよくて、ただねむいとだけいい布団の中に入ってきた。
「今日仕事だったの?」
その横顔に声をかける。お酒の匂いはしなかった。
「うん。ちょっとだけ会社にいったよ。明日もいくけどね」
へー、そうなんだね。忙しいね。というと、サラリーマンは貧乏暇なしだよと笑う。
「明日さ、千秋楽だよ。どうなるかなぁ〜」
「だね〜。楽しみだね」
最近の相撲についてちょっとだけ話し合い、あーでもない、こーでもないなどどいいあって、キスをしてから眠った。直人はわたしをきつく抱きしめる。慣れ親しんだ胸。匂い。好きとかではなくて安堵と凡庸。おやすみ。おやすみ。わたしたちはだからひさしぶりに夜を共にした。
「朝飯さ、すき家いく?」
仕事はなにかの立ち合いで遅くいってもいいらしく、モーニングではなくてすき家に誘われる。超が20個くらいつくほど眠かった。(朝の7時)
「いく」
顔をささっと洗い、すっぴんパウダーをはたき、緑色のワンピースを着、茶色のカーディガンを羽織ると支度は終わり、作業着の直人と一緒にうちを出る。
車で5分のところにあるすき家はなんで? というくらい混んでいた。日曜日の朝。
「朝定食でいいの?」
いいよ。だって朝から牛丼はきついでしょーにというと直人はびっくりした顔をし、俺は牛丼にするけどねと挑戦的な態度でいう。
「へー。なおちゃん昨日の夜さ、ご飯食べたの?」
「食べてないから腹減ってる」
なるほどね。わたしは納得をし、じゃあ、納豆あげるねとつづける。
「うん」
破顔した顔。直人は喜んだ。納豆で喜ばれるなんて。わたしはクスクス笑う。なにがおもしろいの? そんな顔をし直人はわたしをみつめていた。
ご飯を半分残してしまい、食べるよと直人がいうのでどんぶりにご飯を乗せる。パクパクと食べる姿をみると嬉しくなる。こうやってどこかに食べにいく。こうゆうあたりまえなことが修一さんではできない。直人は直人だし、修一さんは修一さんだ。浮気とかではない。ただふたりとも好きなだけ。好きになったものはしようがないのだ。
食べ終えてまたうちに戻りわたしだけが降りる。
「相撲までには帰るよ」
そういって会社に出かけた。いってらっしゃーいと手を振る。
ひどく眠かったので着ていたものを脱いで裸で布団にダイブし、まだ冷房で冷えている部屋の布団の中で目をつぶる。腹一杯だしなぁということなどもはやどうでもよくて、いつの間にか眠っていた。
テレビの音がし、はっと目が覚めると、直人が帰ってきていてぎょっとなる。洗濯や洗い上げをしておこうとしたのになにもできなかった。台所にいくと洗いあげがしてあり、洗濯もしてあった。
「いつ帰ってきたの?」
細い背中に声をかける。
「小1時間前、かな。よく寝てたね。起こさなかったよ」
「へへへ」
笑って誤魔化す。裸だし。急いでキャミソールを着る。ペロンペロンのキャミソール。場末のスナックのママが寝巻きできてそうな代物みたいだねとそれは直人の感想。
「はじまるよ」
「うん」
相撲の千秋楽。わたしと直人は場所ごと一緒に千秋楽をみる。恒例になっている。だれがしが、もっと上手にいけばなぁ、とか、これは長い相撲になるよ、だとか。ここ最近日本人力士が弱いのが少しだけ不満要素だけれど、相撲に国境などはない。だから照ノ富士を応援していた。
直人の足とわたしの足がぐにゃぐにゃと絡まってる。並んでテレビを見ている間中だいたい足と足がぐにゃぐにゃしている。
「どっちが勝つかな」
相撲など好きではなかった。けれど、いつの間にか直人のせいもあり好きになっていた。わたしの方がのめり込んでいるとおもう。
照ノ富士と白鵬。
結果は白鵬が全勝優勝をした。45回目の優勝だ。照ノ富士は至極残念だったけれど、照ノ富士だって全勝だったのだ。相撲は特に結果が全てではない。相撲そのものを判断し昇進をしていく。
「あ、やっぱり、照ノ富士。横綱になるよ」
ニュースで知りすぐ直人に伝える。
「だろ? そうでなきゃおかしいよ。これからさらに楽しみだ」
「うん」
足がまだ絡まっている。おもてはまだ明るいけれど、時間はもう18時を回ったところだ。夜の支度が始まる前には足をほどかないと帰りたくなくなってしまう。
「梅雨ってもうあけたよね」
「うん。暑いのやだよ」
冷房が効き過ぎていておもての暑さなど忘れている。けれどこうして足を絡ませて相撲を見たことだって決して忘れないだろうなとおもった。
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