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パラレルワールド

 平行線もいつかは交わるらしい
 平行とは辞書曰く「2直線がどこまで延長しても交わらない」とのことらしい。平行であれば交わることは許されないというのに何たる矛盾。数学の先生に言ったら怒られること間違いない。これを見た学生さんは是非「平行四辺形も延長すれば台形のように交わるので、平行ではないですね」なんてことを先生に言ってもらいたい。…多分怒られるだろうが。
 …話を戻そうか。
 本来交わるはずのない世界。その認識には少しズレがあるみたいだ。並行世界いわゆるパラレルワールドを知っているだろうか。パラレルワールドとは「ある世界(時空)から分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す」とのこと。例えば今日何の予定もない。けれど別世界の自分は今日誰かとデートしているなんて羨ましい世界線もあり、中には今日が人生最後の日なんて世界線も存在しているということ。今自分が選択した道によってそれらの世界が誕生する。そして、それらは交わらないと思っていたが、交わることがあるらしい。

 俺は関口良人(よしひと)32歳IT会社に勤めているサラリーマンだ。いつもならスーツに着替えて朝食を食べるが、今日は私服でコーヒーを…あれ?いつも使っているインスタントコーヒーがない!コーヒーだけじゃなくて部屋が全体的に変だ。寝惚けているのかと思ったがそうではなかったらしい。家具の配置も違えば見たことない家具もある。家を間違えた?昨日お酒飲んで違う家に転がり込んだ?他の部屋も見てみたが、家の中には俺しかいない。ドアにはロックもかかっている。ということはここは俺の家…か?
 とりあえず、一旦落ち着くために自室へ戻った。自室を見渡すといつもの部屋に似ているようで若干違っている。ベッド·クローゼット·机それぞれ色や形が違っているし、机に並んでいる本がまるで違う。俺の机には自己啓発本が並んでいるが、小説や参考書、手紙などがある。
 …俺の家とは信じ難い。なにかの夢か?俺は部屋の中になまえが書いてあるものがないか探した。まず偶然にも同じだったカバンの中を見てみた。中には財布·パソコン·バッテリーなどはいっていたので、まず財布の中を見た。…あった。身分証明書だ。撮った覚えのない写真が付いているが、名前は俺のものだ。ここの家が自分の家だということが分かったので…さっき目に入った手紙に手を伸ばした。市販のレターセットの様な見た目で宛名は無い。ドキドキしながら中身を見た。…見なければよかった。内容はこうだ。

 別世界の僕へ
 この手紙を読んでいるということはパラレルワールドトリップ(通称:PWT)に成功したということだ。心から祝福する。おめでとう!
 僕より頭がよくないのは分かっているが、どうか混乱しないで欲しい。僕はPWTはこれで5回目だから慣れている。PWTとは僕とパラレルワールドの僕を入れ替えて僕がそちらの世界を楽しむというものだ。パラレルワールドくらいは知っている?知らないよね。簡単に言えば君が選ばなかった世界の君だ。僕の世界が羨ましくて色々したくなるのは分かるけどPWTにはルールがある。

①タイムトラベルとは違って時間は戻ったり、いつもより早く進むことはない
 そちらの世界と同じで時間の進みは同じだと思う。

②こちらの世界の常識を君は知らないため外へ出ないこと
 何を言っているのか分からないだろうが、大切なことだ。こちらの世界の信号は紫とオレンジだ。どちらが進めか分からないだろう?そういうことだ。外へ行かないこと。

③元の世界に戻りたければ帰れる
 クローゼットの中にある装置で本来の世界に帰れる。ただ条件がある。それは12時間に1度しか転移できない。12時と0時に装置が起動する。それまでに装置の中に入って扉を閉めておけば大丈夫だ。

以上、健闘を祈る
           こちらの僕より

 状況は理解できた。全てこいつの仕業だったのか。そして呆れからため息が出た。これがこちらの俺なのか。友達になりたくないタイプの奴だ。でもここに書かれていることが正しいのであれば俺は戻れるのだ。安心したら眠くなってきたので、ベッドに寝転んだ。スマホの時間を見ると8時52分。スマホの電波は圏外。世界が違うからそりゃそうか。とにかく3時間は寝れる。アラームをセットし、ぼーっとする。起きてから1時間しか経ってないのにこんなにも疲れているだなんて、家って大切なんだとひしひしと思い知らされた。部屋を見渡して同じように見える部屋なのに主が違う家具たち。違う世界では主が違うと上手に扱えないなんてことが起こるのかもしれない。

 なんてことを考えていたら寝ていたらしく、アラームに起こされた。11時59分。クローゼットを開けると人1人入れるくらいの大きさをした銀色のカプセル型装置があった。既に電源は入っていたので、指示通り中に入って扉を閉めた。十数秒待っていると装置の内側が眩しいくらいに光り、目を開けていられなかった。光が弱まって来た頃に目を開けると布団の上にいた。帰ってこれたんだ。体を起こして部屋を見渡すと見慣れた襖·い草の香りのするいつもの和室。なんて言った?襖?和室!?ここ違う。俺の家じゃない!ベッドじゃないし!枕元には先程と同じ手紙があった。手紙に飛びつき中を確認した。…僕を一発殴ってきます。

《手紙の内容》
 僕としたことが設定を間違えていたみたいだ。君を元の世界に送り返すには僕と一緒でないと無理だ。この世界には装置がないから。僕は星を見にプラネタリウムなんてものに行ってくる。夜には戻るだろうけれど待てないのであればここまで来てくれ。ルールなんて言ったけれど僕の不手際だから外出くらいは許そう。早く帰りたいなら即行動がいいだろう。いつか僕を見つけてください笑

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