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赤いプジョーの日記 【2】ミストラル

2日目の朝。6時に目を明けた。もちろん外は真っ暗。部屋から駅や列車が見える。

 テレビをいれる。6時のニュースでトップにいきなり地下鉄神谷町駅がうつり、画面にかじりついてしまう。

 事件は12時間ほどまえに発生したばかりだ。このときは、「ガーズ・トキシーク」という表現がもっぱらで、サランとかセクト・アウムという言葉が登場するのは数日後からだった。あとで「地下鉄サリン事件」と名づけられる出来事でした。

 さて、ミストラルは、アルプスからローヌ渓谷をふきおろす寒風だということは一応ご存じですよね。でも、文献にはいつ吹くのか、あるいはどれだけ続くのか、なんて書いてないのです。

 着いて2日めの朝、前夜はいい気持でアビニョンの町を歩いたのに、外がいやに寒い。始発の列車の暖房も効きが悪い。アルルに着いても風が強い。
 美術館の受け付けのおばさんに、「寒い風ですね」といったら、
C'est Mistral. 
の答えが。ああ、これがかの有名なミストラルか。おばさんは「あしたには止むよ」と言った。

とにかく、関東地方でいうなら、赤城下しのような乾燥した北風が1日中つづく。吹きさらしに出ると体が流されそうだし、コートを着ないとがまんできない。
で、すぐに cafe にとびこんで、金がかかる。

 ローヌ川を遡る船など、流れとミストラルの両方に逆らうわけだから、遅々としてすすめない。結局、おばさんの言葉ははずれて、3日間吹き荒れた。

 たしかに、ミストラルが吹くと空は非常に青くなる。天気予報でも、ミストラルの予報がある。ミストラルは、1日で終ることもあれば、1週間つづくこともある、という。決してロマンチックな風ではありません。


ゴッホの描いたあたり


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