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【感想】穢れた聖地巡礼について

ここ最近、無性に本が読みたくてたまらない。
なんでもいいから知らない作品を貪りたい。
そんな欲求に駆られ、手にしたのが本書である。
小説家・背筋氏によるホラー小説『穢れた聖地巡礼について』
小説紹介を主とする某youtuberのショート動画を見たことが本作を知ったきっかけだ。
それはさておき、今回はこの作品の感想を記していこうと思う。

ストーリー

フリー編集者「小林」は、登録者20万の心霊スポット突撃系youtuberチャンイケこと「池田」が運営する『オカルトヤンキーch』のファンブック制作の企画を出版社に持ち込む。
しかし、池田のチャンネル登録者数では企画を通すには心許ない。そこで企画内容で攻めることを決めた小林は、池田がこれまで動画にしてきた心霊スポットの追加取材を行うことを提案する。だが、全ての心霊スポットに必ずしも忌まわしい真実が隠されているとは限らない。そこで2人はネットの情報を基に、読者が喜びそうな考察をでっちあげていく

……という話。
なんとも罰当たりな連中である。

主な登場人物は3人。
性悪フリー編集者「小林」。
『オカルトヤンキーch』を運営するyoutuber「池田」。
霊感持ち関西出身の女性怪談ライター「宝条」。

かなり癖の強いメンツだが、この3人がファンブック制作のために様々な心霊スポットを調査していく物語だ。
3人が調査を進める中、彼らの過去や心情を読者を垣間見ることができる。
(後に記載するが、私は池田がかなり好きなキャラだった)

本作の中で印象的だったのはこの3人が幽霊や呪いに対して、独自のスタンスを持っているということだ。
著者である背筋氏のX(旧Twitter)での投稿を引用すると、

・幽霊を信じない人 ⇒ 池田
・幽霊が見える人  ⇒ 宝条
・そんなことはどうでもいい人 ⇒ 小林

というスタンスである。
この3人には「とある共通点」があり、その共通点が彼らの現在のスタンスに繋がっているのだ。


「呪い」により狂っていく者たち

本作は零から八までの全九章で構成されており、章ごとにその心霊スポットにまつわるエピソードや登場人物の過去や心情が著されている。

小林と池田は『オカルトヤンキーch』で取り上げた心霊スポットを人気に調べていくことにする。
「変態小屋」、「天国病院」、「輪廻ラブホ」といった色々と突っ込みたくなる呼び名の心霊スポットが続々登場するが、その噂は育児放棄、自殺、夜逃げなどの血生臭いものばかりだ。

心霊スポットにまつわるエピソードはそれぞれ、気に食わない女の夫と不倫をする女性の話や両親に対して嫌味な態度を取る祖母の死を望む娘の話、元彼に異常な執着を持たれている女性の話など一見関係も無いように思える。
しかし、読み進めていくとそれぞれのエピソードの中に曖昧ながらも確かにそこにいる「何か」の存在に気づいていく。
個人的にこの部分のゾワゾワする感覚が印象的だった。


愚かな三人

幽霊を信じない池田、幽霊に干渉することを良しとしない宝条、いてもいなくてもいい小林。何故3人はそのようなスタンスに至ったのか。
それは前述の3人の共通した過去に由来している。
それは「全員が誰かを殺している」という点だ。
殺している、といっても直接的に人を殺めたわけではない。

小林には自分の首がかかった記事を成功させるために偏向的な内容を書いたことが原因となり、取り上げたアイドルの親族を自殺に追い込んだ過去がある。

特異な血筋故に生まれつき幽霊が視える体質であった宝条には、「関わってはいけないもの」を嗾け、結果的に自分を機に掛けてくれた教育実習生を死に追いやった過去がある。

そんな壮絶な過去を持つ彼らだが、中でも私的にかなり印象深く、かなり共感した過去を持つのが「池田」である。

幽霊を信じない池田。彼のスタンスは「とある絶望」から始まった。
彼はひょんなことから同じ大学に通う変わり者の女子大生・鈴木優子と仲を深め、次第に淡い思いを抱き始める。ところが、何者かになるために美大を通う池田と他人とは異なる感性を持つ優子の間には決して越えることのできない厚い壁があった。
ある日、優子が造った彫刻作品を見せられる池田。その作品は彼女の友人をモデルにしたという。それを見て、「俺のも作ってよ」と提案する池田を優子は一蹴する。理由を問う池田に対して彼女は…

空っぽだから
「私ね、人間の中身を表現したいの」。
そう答えた。

「他人とは異なる感性を持つマイノリティ」と「マイノリティに憧れるマジョリティ」。池田は後者であった。
ある日、彼は友人の誘いで「カナエさん」と呼ばれるこっくりさんに酷似した降霊術を行うことになる。
そこで彼は「俺に才能がないと思ってる人間を殺してくれますか?」という質問をしてしまう。
後日、優子が大学を辞めたことを知った池田は何気なく「鈴木優子」の名前を検索する。そこで彼はとある記事を目にする。

「帰宅途中だった○○市の女子大生・鈴木優子さん(21)が倒れているとのが見つかり、病院に搬送されましたが、死亡が確認されました。」

優子が死んだ。彼女が亡くなったのは、六日の午後八時半。池田が友人たちと共にカナエさんをしていたときだった。

優子は自分がかけた呪いで死んだ。その事実を認めたくなかった池田は、幽霊を信じなくなった。心霊スポットに訪れるようになったのも、そこで何も起きなければ幽霊がいないことの証明になるからであった。
本作の序盤で、この池田というキャラクターは「他人とは異なる感性を持つマイノリティ」のような振る舞いをしているのだが、それは本当の自分を守るために武装した姿だったのだ。

池田のバックボーンが明かされる流れはその共感性の高い過去の描写もあり、意図せず自分が加害者になってしまった恐怖がよく表現されていたと思う。読んでいるこちらも池田と同じ感情にさせられ、恐怖がより一層伝わってきた。


総合的な感想

正直なところ、本書『穢れた聖地巡礼について』はホラー描写はそこまで怖くない。どちらかと言えば、登場人物の心理描写に力を入れていた印象だ。しかし、読み終わった時に感じる「結局あれってなんだったんだ?」というどこか腑に落ちない感覚。じわじわと恐怖が効いてくる感覚が本書にはあった。
自分はホラー小説にハマって間もない新参者だが、本書はホラー描写が控えめであるため、ホラーが苦手な人やホラー小説初心者にオススメできる作品と言える。ストーリーも個人的にかなり楽しめたので、まだ読んでいない人は是非読んでみてほしい。
最後に忠告しれおくと、本書の裏表紙を夜中に開くのはオススメしない。


〈了〉

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