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【漢方】 医学の精神

 人類の歴史は試行錯誤の連続の上に成り立っており、それは医学も同様です。しかし、その根底には一貫して流れている精神があると思います。今回は医学の精神について投稿します。

文字の特性

 多くの人々は記録に文字を用います。人類は文字を発明することで、情報の保存を可能にし、科学的な検証を成立させました。

1 つ目は、ある事柄について考えたり調べたりする時、その方法が同じならば、いつ・どこで・誰であったとしても、同じ答えや結果にたどり着くことです。これは再現性という性質です。(中略)
2 つ目は、原因と結果の関係がきちんとあるということです。これは因果関係という性質です。(後略)

“科学的”であるということ 京都大学理学研究科・理学部  コラムより

 「同じ答えや結果」、「原因と結果」。結果という情報が変わっては検証ができません。この膨大な「結果」の積み重ねが知を発展させました。そして、結果を次代に紡いでいく架け橋が文字になります。紀元前2000年以上前にシュメール人が刻んだ楔文字の粘土板は、人類最古の医学書だと目されています。人類は文字の発明によって、時間を超えた知(結果)の継承ができるようになりました。
 しかし、医学の根底はそれだけではありません。

慈しみの情熱

自分の民が苦しんで亡くなっているのに安閑とはしていられない、と神農は深く動かされ、医療の知識を広げるために全力を尽くそうと心に誓いました。

神話伝説シリーズ:神農より

それで、痛くて苦しみ泣き伏していたところ、最後にやって来られた大穴牟遅神が、その兎を見て言ったことには、「どうしてお前は泣き臥しているのか」といった。(中略)
そこで、大穴牟遅神がその兎に教えて仰ったことには、「今急いでこの河口に行き、真水でお前の身体を洗ってすぐに、その河口の蒲の花を取り、敷きつめて、その上に横たわり転がれば、お前の身体はきっともとの肌のように治るだろう」とおっしゃった。それで、教えられた通りにしたところ、兎の身体は元通りになった。これが、稲羽の素兎である。

國學院大學 古事記ビューワー 「稲羽の素兎」より

 神農様の知識は『神農本草経』として遺り、大国主命様(大穴牟遅神)の教えは『古事記』の逸話として遺りました。現実的には、神農様も大国主命様も実存の個人ではなく、知を紡いできた多くの人々でしょう。ですが、個別の知を一つの総体に繋げているのが慈しみの情熱であり、先人たちはその精神を神話として後世へ紡いでいったのだと思います。慈しみの情熱と冷静な知の積み重ね。これが医学の根底に流れている精神だと思います。
 次回からは、東洋人が試行錯誤の末に辿り着いた、漢方理論を投稿していきます。

 なお、大国主命様が用いた蒲の花とは、漢方生薬の蒲黄のことであり、現在も利用されています。

蒲黄(ほおう)
日本各地や世界各地の温帯に広く分布するガマ科の多年草。
効能:止血・活力化瘀

『漢方のくすりの事典』監修 米田該典  医歯薬出版株式会社より

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漢方健康相談所 くすりの神農

 神農とは、中国の医療神の御名前です。神農様はあらゆる薬草を口にし、それぞれの効能を自らの身で確認したと伝わっております。私たちもこの故事に倣い、当店で取り扱う商品は、自ら試して良さを実感できたものです。まずは己が実践してみる。これが「神農」を名乗る由縁です。
 健康相談、漢方相談は、無料で随時受け付けております。ご相談のみのご来店も大歓迎です。お気軽にお立ち寄りください。
 小田急 伊勢原駅から徒歩3分。駐車場有ります。
 TEL 0463-92-0001


店主略歴

 広告代理店とデザイン会社の勤務を通じて日本文化に関心を持つ。國學院大學へ入学、宗教学(古代神道、宗教考古学)を専攻。神社本庁の神職資格(明階)を取得し、卒業後に都内神社にて神職の実務経験を積む。現在は家業の薬店を経営。登録販売者資格保有。

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