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この世のすべてを冷笑し、攻撃する「露悪」という病

地球に良いことをしよう、社会に良いことをしよう、身体と心に良いことをしよう、そんな素朴な気持ちは少なくともこの日本という国では多くの場合笑われ、嘲られ、揶揄されてしまう。一体それはなぜなのだろうか。

冷笑とは何か

まず冷笑とは何か。デジタル大辞泉の説明を引くと

れい‐しょう〔‐セウ〕【冷笑】
[名](スル)さげすみ笑うこと。あざ笑うこと。「冷笑を浮かべる」「他人を冷笑する」

とされる。ここには相手を「下に見る」意識と「馬鹿にする」意識が明確に刻まれている。つまり相手を自分より下の馬鹿だと考えて行う行為であり、態度である。

そして冷笑をモットーとする冷笑主義はシニシズムと同義で、社会に対して斜に構え、個々の政治的な思想や社会的な活動などにおける理想や正義を矮小化し、相対化し、無意味なものと見なそうとする姿勢だ。

冷笑主義をどういったものと捉えるかには人によって差があり、例えば法政大学の津田正太郎教授は以下のように定義している。

シニシズム(冷笑主義)という言葉は、それを使う人によってかなり意味が異なる。そこで本稿ではとりあえず「他者の言動を利己的な利益追求という動機の語彙でつねに解釈しようとする態度」としておこう。

「あの人はなぜこんなことをしたのか(言ったのか)」を理解しようとするさい、社会的使命感とか正義感ではなく、金銭欲や性欲、名誉欲といった狭い意味での利益追求という観点からだけで解釈しようとする態度のことである。
ネットを支配する「シニシズム」「冷笑主義」という魔物の正体 より引用)

冷笑主義者は政治思想や社会正義を利己的なものと考えるに留まらず、矛盾に満ちたものとして揚げ足を取り、現実の見えてない幼稚な理想だととして子ども扱いもする。

冷笑の根源にあるもの

冷笑主義者の言説の根底に位置するのは、美しい政治思想や社会正義はキレイゴトの建前でしかなく、その後ろにある現実や本音の前に脆くも崩れ去る砂上の楼閣だという信念だ。

もちろんそこに一理はある。歴史を見れば理想や正義が現実の前に屈した事例は数限りなく、崇高な理想が大きな矛盾をはらんでいたことも、理想を掲げた者が実際には欲望の虜だったこともいくらでもある。

多くの哲学や宗教、国家や文化がその道を歩んできたことは事実だが、冷笑主義者の問題はそうした事実の指摘にあるのではなく、理想や正義それ自体を無意味なものとしてくさし、けなし、あざ笑うところにある。

冷笑主義者は「どんなに高い理想を掲げてみても人間など所詮この程度の汚いものだ」という諦念を積極的に取り入れるだけでなく、その諦念と自らを同一化して他者を攻撃する。

それが「露悪」である。

露悪とは何か、そして何をまき散らすのか

問題は、露悪とは内面的な考え方や姿勢であるだけでなく、外部に向けての態度であることだ。

露出狂が自らの裸体を他人に晒すように、露悪主義者は自らの冷笑主義を他人に晒す。そしてその行為は極めて分かりやすく攻撃の形を取る。

その理由は自分を含む人間の本性を理想や正義とは無縁の汚い存在と見なしているからであり、相手はそれに気づけない、自分より下の馬鹿だと考えているからである。

自らも汚い人間のひとりであるとすることで、理想や正義を冷笑することを正当化し、同じ汚い人間でしかないのに理想や正義を求める「分かっていない」相手を、その分だけ自分より下の存在だと考えることができる。

入り組んだ理路のようにも見えるが、単純化すれば「人間なんてみんな汚い馬鹿だけど、それを分かっていないお前は私よりも下の馬鹿だ」ということだ。

どこからどう見ても斜に構えすぎてこじらせた中二病である。

露悪主義はこの世を肥溜めに変えようとする、自らの存在証明として

そしてより大きな問題は、こうした人物が大量に存在し、実際に攻撃を行っているということにある。1匹では無力な害虫でも大量発生すれば大きな被害をもたらすのと一緒だ。

こうした露悪主義がはびこれば何が起こるのか。理想や正義がどこまでも無意味な、もしくは利己主義の隠れ蓑として冷笑の対象とされ、それを行う者たちが攻撃を受けることになる。

その結果として社会は理想や正義を限りなく主張しにくいものとなる。確固たる信念を持っている人はそれに抗うだろう。だが、弱々しい萌芽は片っ端から目ざとく見つけられ、刈り取られる。

Twitterの多少なりともバズった「いい話」のリプ欄を見れば、いくらでもそうした露悪のサンプルとしての「クソリプ」を見つけられる。多くはあまりにも醜悪で、下品で、そして執拗だ。

なぜか。理想や正義が実際に存在していては、露悪主義者の世界観が根底から崩れ去るからだ。

キレイゴトをほざいている連中も所詮は自分と同じ汚い人間でしかない」という前提が崩れれば、自らの行動は人間の普遍的な汚さに基づくものではなくなり、単に自分という人間の汚さにまで還元される。

露悪主義者にとってそれは認めがたい真実だ。だからこそ醜悪に、下品に、執拗に攻撃を繰り返す。おそらくは加害欲を満たしつつ、殴りつける快感に酔いしれつつ。

ではどうすればいいのか。残念ながら露悪主義者に付ける特効薬はない。その代わり、ガンジーが素晴らしい言葉を残してくれている。最後に引用しよう。

First they ignore you, then they laugh at you, then they fight you, then you win.
(はじめに彼らは無視し、次にあざ笑い、そして挑みかかるだろう。そうして我々は勝つのだ)


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