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無辜のイラク国民に空爆、米国民(エリートは除く)も「テロの脅威」で攻撃したブッシュ政権 マイケル・ムーア映画「華氏911」後編

『イラクは関係ない』と反対したが無駄だった


推理小説ファンなら大陰謀の黒幕登場を疑わないでしょう。謎解きにならないくらいべたべたと足跡を残しています。
 
911調査に「協力を惜しまない」と言った子ブッシュは、言葉とは裏腹に議会の調査に必要な資料を出さず、独立調査委員会の設置を妨害しました。500人超の遺族がサウジ王族らを提訴した際に、サウジ国防相が雇った弁護士はブッシュ家の懐刀ことジェームズ・ベーカーでした。
サウジの米投資は8600億ドル、ウォール街全体でも6、7%を占め、銀行預金は1兆ドル。サウジ大使館には6人の特別警護官が付き、マイケル・ムーアを誰何してきました。駐米大使バンダルは子ブッシュとは家族付き合いしています。911の2日後、子ブッシュはバンダル大使を官邸に招き夕食を楽しみました。テロ対策担当のリチャード・クラーク元特別補佐官は「911翌日に大統領が何と言ったか?」という質問にこう答えました。
「威圧的に『911にイラクがかかわっているという証拠を持って来い』と言われた。ラムズフェルドとアフガン爆撃について話し合ったときは『あそこにはいい標的がない。イラクに爆撃しよう』と言い、『イラクは関係ない』と反対したが無駄だった」
 

「スロー、スモール」なアフガン空爆の理由


一方、オサマ・ビンラディンが潜伏するアフガンへの爆撃は911から4週間後。威勢はいいが、「スロー、スモール」でした。
その答えは、ヒューストン(テキサス州)にありました。
1997年子ブッシュのテキサス州知事時代、アフガンを実効支配するタリバン代表団が訪米し、カスピ海地域からアフガニスタンやパキスタンを通過してインド洋に出る石油パイプライン建設を目指す石油会社ユノカル社幹部と会談。この計画で、採掘を請負うのはチェイニー副大統領のハリバートン社、パイプラインの恩恵はブッシュ最大の献金者ケネス・レイCEOとエネルギー・IT企業のエンロン社というブッシュ人脈でした。クリントン政権が米艦とアフリカの米大使館をテロ攻撃した容疑でアルカイダ首領のオサマ・ビンラディン引き渡しをタリバン政権に求めていた2001年911の5か月半前、子ブッシュ知事はタリバン政府高官を特使として歓迎しました。
 

テロの脅威で犬のしつけのように国民を操る


精神科医でもあるジム・マクダーモット下院議員はこう言います。
「恐怖で人はどうにでもなる」「果てしなく続く恐怖のオーラをつくり出せばいい」
映像は、子ブッシュが「家族と飛行機で旅行に行きなさい」と言い、チェイニーは「テロの脅威は常にある」と言います。
マクダーモット下院議員はさらに「犬のしつけと同じ。『伏せ』と『お座り』を同時に言えば犬は混乱するように実に巧妙であくどい手口だ。たまに国民を刺激して怖がらせるが、安全の緑には絶対に下げない」
2001年夏ピッカードFBI長官代理は「テロの脅威についてアシュクロフト司法長官には少なくとも二度伝えた。司法長官は『テロの話はもう結構だ』と言った」。FBIは、アルカイダが侵入しオサマ・ビンラディンが工作員を航空学校に送り込んでいたことを知っていました。
司法長官には窮地ですが、911から6週間後政府が私権を制限する愛国者法に大統領が署名して窮地を脱しました。テロリストの定義は曖昧になり、牧歌的な市民団体に潜入捜査が入り、昼寝中の市民がジムでの政治的な発言を密告されてFBIに踏み込まれます。
※アシュクロフトのウィキペディアは英語版と日本語版で分量がまったく違います。英語版では本映像で取り上げられた、ミズーリ州選出上院選で選挙の3週間前に飛行機事故で死亡した対立候補に敗れたのち、司法長官に任命されたエピソードが書かれています。
 

笑いをかみ殺しイラク空爆を国民に告げる


前編で紹介した子ブッシュ政権閣僚たちの薄気味悪いテレビ前のお色直しが再現されます。
それは子ブッシュが2003年3月19日午後10時11分国民にイラク空爆を告げるテレビでの声明。薄ら笑いをこらえながら、冒頭はなお笑いをかみ殺しているように見える醜悪な戦争犯罪人の姿でした。
首都バグダッドの笑顔にあふれた日常が一変し、「軍事施設の空爆を開始した」という言葉とは裏腹に大勢の子供たちの無惨な映像が流れます。
<ブッシュと米軍は主権国家イラクを侵略
米国を攻撃したことのない国
攻撃すると脅してもない国
米国民を1人として殺したことのない国>
 

米国民も攻撃、但しエリートは除く


お気に入りのCDをかけながらゲームのようにイラク国民を殺める米兵士は狂ったコメントをしていますが、子ブッシュがパーティーで「皆さんはもてる者とさらにもてる者、通称エリートで私の基盤だ」と本音を漏らした映像のあと、戦死者の情報を隠し、退役軍人を見捨てる政策が示されて、政権の本音を視聴者は知ることになります。
エリート以外の米国民も攻撃しているのだと。
その証拠にイラク派兵の募集官は貧しい地域でリクルートします。イラクで息子が戦死した母親はホワイトハウス前で「人がこんなに無知だなんて。知ってるつもりで何も知らない。私もそうだったわ」と泣き崩れました。
一方、連邦議員535人のうち子供がイラクへ送られたのはたったひとり。マイケル・ムーアは議会に向かう議員に募集パンフレットを手渡し、「自分の子供をイラクに送り、議員がまず手本を示した方がいい」と勧め、逃げる議員たち。
1984の作者ジョージ・オーウェルはこう書いたと言います。
<戦争の現実味など問題ではない
 戦争の目的は勝利ではなく継続だからだ
 階級社会は貧困と無知を土台にのみ可能となる…
 戦争は支配者が被支配者に対して行うもの…>
 
色あせることのない映像。なぜなら、20年前と何ら変わらず、支配者が被支配者に戦争を仕掛けているのが現実だから。テロの脅威を感染症の脅威に置き換えてみてください。ロックダウンはおうち時間と読み換えられて富豪は大富豪になりました。何もかも同じです。

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