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【映画】普通の人々が起こした奇跡の救出劇~「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」

また一つ心に残る素晴らしい作品と出会うことが出来ました。今回紹介するのはアンソニー・ホプキンス主演の「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」です。第二次世界大戦下、ナチスから子どもたちを救うために奮闘した、ごく普通の英国人たちの物語です。最早クラシック作品として後生まで語り継がれるであろう、スティーブン・スピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」同様のストーリーではありますが、やはり「実話」の重みが伝わってくる重厚な作品でした。それでは感動をシェアできればと思います。


まずはあらずじの紹介から

第2次世界大戦直前の1938年。ナチスから逃れてきた多くのユダヤ人難民がプラハで悲惨な生活を強いられていることを知ったニコラス・ウィントンは、子どもたちをイギリスに避難させる活動を組織し、同志たちとともに里親探しや資金集めに奔走する。ナチスの侵攻が迫るなか、子どもたちを次々と列車に乗せていくが、ついに開戦の日が訪れてしまう。それから49年後、救出できなかった子どもたちのことが忘れられず自責の念にかられ続けていたニコラスのもとに、BBCの番組「ザッツ・ライフ!」の収録への参加依頼が届く。そこで彼を待っていたのは、胸を締め付けるような再会と、思いもよらない未来だった。

映画.comより抜粋

名優アンソニー・ホプキンスの演技が素晴らしすぎる!

かつてはハンニバル・レクター博士で世界中を恐怖に陥れ(?)彼の代名詞ともなってしまった感もありますが、とにかくアンソニー・ホプキンスは名優中の名優。もちろん「羊たちの沈黙」も素晴らしかったですが、一転して「ハワーズエンド」や「日の名残り」では英国の格調高き世界に自然と溶け込み、その後も数多の名作に出演。私は未見なのですが、近年も「ファーザー」で二度目のオスカーを受賞された映画界を代表する名優なわけですが、今回も抑制された役柄ながら、さすがの演技を披露しております。

冒頭は若干年齢と共に反応鈍く、少しボケてきたのか?という様子なのですが、そこからなぜ彼がそういう状態であるかが、若い頃とオーバーラップしていく中で明らかになっていきます。彼には大きな後悔の念があり、それをどうにも拭うことが出来ず、未だに藻掻き苦しんでいたわけです。そういったことが前半のようなどこか所在なさげで、反応の薄い、ぼんやりとした表現だったのです。それから一転、徐々に彼の心が家族のサポートもあり、ほんのりと明かりが灯るようになるにつれて、表情も朗らかになり、ラストの大団円へとつながっていくという一連の流れが本当に素晴らしい演技力で魅せてくれました。

「思い」だけでなく、実際に「行動」に移せる勇気に感動!

主人公のニコラスは一介の株式仲買人。特段、政府の人間でもないし、今で言うところのNGO団体等の人間でもありません。友人からチェコのプラハにいる難民の話を聞き「何とか手助けをしたい」という思いに駆られ、実際に行動に移したのです。ナチスドイツがチェコへ侵攻し、多くがチェコから脱出する中、ニコラスはそんな戦禍の中へ飛び込んでいく。しかも何が出来るわけでもなく、とにかく「助けたい」という一心で。そして子どもたちを英国へ避難させるプロジェクトを思いつくのです。

繰り返しますが、これらは英国政府とは全く関係なく、すべて民間の手で始まった点にも感銘を受けました。またニコラスがこうした人道支援をするに至った背景には、ニコラスのお母様の教育方針も多大に影響を与えたようです。事実、ニコラスもユダヤ系移民であり、お母様もニコラスたちの計画に協力していきます。このあたりも英国の名優ヘレナ・ボナム・カーターが見事な演技を披露。若干ドイツ訛りのあるご婦人を、時に豪快に、そして時に慈愛の心で息子を見守る役として強力サポート。話は逸れますが「ハワーズエンド」ではエマ・トンプソンの妹役で、アンソニー・ホプキンスとも共演していた彼女が、今では母親役(もちろん月日が経ってますから、当然なのですが)・・・時の流れを感じましたね(笑)。

ニコラスの後悔とは・・・?

結果的に669人の子どもたちを英国に送り、里親へと受け渡すことができたわけで、これだけでものすごい快挙だと思うのですが、ニコラスの表情は全く冴えません。なぜか?それは、次の列車では200人以上の子どもたちをチェコから送り出すことになっていたのに、大戦が本格的に始まってしまい、列車が出発できなくなってしまったのです。当然、子どもたちは収容所へと送られ、帰らぬ人に。そう、ニコラスは「もっと英国に送り出すことが出来たのに」という後悔を抱えて今まで生活を送ってきたわけです。このあたりの悲壮感がアンソニー・ホプキンスの名演により、涙を誘うわけですよ、本当に上手すぎる!これこそが彼がどことなく所在なさげであった理由だったのです。

ニコラスに舞い込んだ「奇跡の再会」

そして様々な偶然(奇跡?)が重なって、BBCのテレビ番組でニコラス(たち)の取り組みが紹介されることに。当初はテレビ番組に関して差ほど関心を示してこなかったニコラスですが、出演を決意すると・・・というのがストーリーとなります。もうここまで来ると、残りの流れはなんとなく想像が付くのではないかと思いますが、それでもとにかく多くの方にご覧頂きたい素晴らしいシーンになっています。ここでもアンソニー・ホプキンスの演技が素晴らしすぎました。どこまで泣かせるんだ!という、静かな名演。ニコラスは人前に出たり、彼の行いを決して自慢したり、誇らしげには思っていないわけです。

なぜなら、やっぱり「もっと救えたのに、救いたかったのに」という思いがあるからです。しかし、こうしてテレビ番組で紹介され、さらには当時の子どもたちから実際に感謝の言葉をもらってようやく、「自分のやったこと」に対して肯定的な思いを持つことが出来たのだと思います。このあたり杉原千畝さんにも通じるような謙虚さ、人間の「良心」を改めて再確認出来たように思います。

虚構と現実が重なった、最高の奇跡

これはパンフレットに書かれていたのですが、BBC番組の再現シーンでは多くの当時の子どもたち(ニッキーズ・チルドレン)に集まってもらったそうです。製作チームも世界中にいるチルドレンたちに声を掛け、スタジオに集まってもらい、なんとアンソニー・ホプキンスは当日それを知ったそうです。ですから、彼の驚いた表情はほぼリアルなものだったのかもしれません。とにかくこうして映画の全編において、ニコラスや彼の仲間によって成し遂げた「奇跡」を丁寧に描いています。もちろん戦争下における忘れてはいけない悲劇を扱っていますから、トーンとしては当然暗いわけですが、むやみやたらに煽るわけではなく、それよりもニコラスたちの奮闘、そして現在に至るまでのニコラスの苦悩をゆっくりと時間を掛けて描いていました。

日本人にも近い?英国人気質に共感

これだけの素晴らしい行動に取り組み、669人もの子どもたちを救うことに成功したニコラスですが、全く彼は表に出ることを嫌い、この取り組みに関して鼻に掛ける様子がないのです。むしろ前述の通り、「もっと救えたはずだ」という後悔の念を強く持っているのです。こうした謙虚さってなんとなく日本人にも近いような気がして、ここもまたニコラスへの共感が増した一面でした。ことさら自分の行動を自慢するような軽い人間で、自分からテレビやマスコミに売り込むような「輩」だったら、ここまでの感動物語にはならなかったでしょう。そんな人間としての「高潔さ」が益々この物語に品格をもたらしていたような気がします。

きっと観る人の心にも明かりが灯るはず

というわけで、今回は「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」を紹介しました。「シンドラーのリスト」ほど暗く、重苦しくはないですので、きっと鑑賞しやすいと思います。また、現在と回想シーンが交互に描かれていくスタイルですので、飽きずに見続けることが出来ます。そしてラストではジーンと目頭が熱くなること間違えなし(多分)。きっと「いい映画を観たな」という気持ちで映画館を後にできると思います。ぜひぜひ多くの方に観てもらいたい作品です。





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