見出し画像

「いい部屋ってなんだろう?」と妻に聞いてみた

思えば、家族と暮らす空間は、悩みがたえない。

妻とこども4人、僕も含めて6人が住む部屋はいつも賑やかである。

「こどもって、食べてるときと寝てるとき以外、 120%のパワーで生きてない?」

長い長い春休みが続き、一日中こどもたちと一緒にいる妻が言うので、とても説得力があるし、同じ感想を持つ子育て世代も多いと思う。

広い部屋に住めば静かに暮らせるかと言えば、それも違う気がする。
一度だけ、とてつもなく広いモデルハウスを見学したことがある。あの部屋に住めば毎日の掃除だって大変だ。生活導線がよくなかったり、移動距離が長かったりすると、ストレスも感じるだろう。


こどもが増えれば、服や物が無限に増え、成長とともに捨てられない作品が増えていく。衣類を整理していると、1日があっという間に終わる。模様替えにとりかかれば、1日では終わらず「まぁ、こんなもんでいっか」と、どこかで妥協と納得がうまれて中途半端な状態で数か月間そのまま暮らすこともあった。

画像1

不動産屋さんの張り紙、分譲マンションの折り込みチラシ、インターネット。ふとした時に、妻と部屋の間取り図を見ることがある。

少し変わった一軒家の間取り図、マンションのよくある3LDKの間取り図、デザイナーズ物件の間取り図。あれこれ引っ張り出して眺めては、

「この物件、ベランダが広いよ。駐車場がある!」
「子どもたちの部屋と、私の部屋と寝室と… 5LDKくらいは欲しいよね」
「ん?私の部屋??どういうこと?」
「お風呂が広くて素敵ね。カウンターキッチンもある」
「広い部屋は掃除が大変だよね。誰がするの」
「…もちろん、パパでしょ?」
「えっ」

思い返せば3年前、4人目の娘を授かった時にもこんな話をした。
中学生の長男に、小学生になる双子。勉強机はどこに置こう??

「うち、そろそろ狭くない?」

ポツリと僕がこぼすと、

「じゃあ引っ越そう!広い部屋がいいな!来月ね!」

妻は決まりきった顔でそんなことを言う。鬼の首でも取ったみたいな表情だ。新しい明日を想像すれば、夢は広がる。

「早く引っ越そうよ。大きくて、広い庭があって。あ、もしかして海も見えたりする…?」
「待って待って。あまり膨らませ過ぎると通帳から許可が降りない!」

どの道、家を買うとなったらローンを組むしかない。
そこから、いい部屋探しが始まった。

画像2

2020年は、年始から色んな変化があった。
僕としても、社会にとっても。

僕は2年前に、抱えきれない残業の続くシステムエンジニアを辞めた。そのあとは紆余曲折あり、フリーランスのような働きかたをしていたが、生活の安定を第一に考えて、とある企業の正社員になったところだ。

3月にはいって、社会の変化と様々な問題からリモートワークに切り替わった。電車に押し込められたり、終電まで働かされたりすることは減ったものの、在宅ワークとなると僕の場合はひと筋縄ではいかない。

いまの家のおおまかな間取りは、玄関、トイレ、お風呂、脱衣所、寝室、長男(高校生)の部屋、キッチンとリビング。リビングには双子の勉強スペースや、末娘が遊ぶスペースも含まれていて、そうなると僕の在宅ワークもずいぶんと賑やかだ。

子どもたちの笑い声や、妻の可愛い鼻歌、美味しそうなおやつの匂いといった、優しい誘惑が僕の集中力をにぶらせてくる。打ち合わせや業務の連携で言葉が飛び交うオフィスよりも、営業電話の呼び出し音よりも騒がしい。


「リモートワークに集中できる僕の部屋があってもいいよね」

こどもたちの声に埋もれながら、そう考える毎日だ。

画像3

僕は幼いころに、ドラえもんに憧れて和室の押入れに秘密基地を作ったことがあった。埃だらけの木箱を本棚にして、姉の部屋にあった電球スタンドを設置、自分だけの部屋を作る。

学校から帰ると、ずっと押し入れに引きこもった。秘密基地の中で、あーでもないこーでもないと何度も模様替えをしたが、不思議と「狭い」という感覚は無かった。

結婚して家族が増えると、だんだん部屋が手狭になり、ランドセルの数が増え、家具の配置が変わっていく。ひとつの家の中で、それぞれの「暮らし」の数が増えていく。

ドラえもんの押し入れよりはるかに広いが、生活を工夫するこの感覚が、実はいまでも少し愛おしかったりするのだ。

「いい部屋ってなんだと思う?」

妻に聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。


「いまが一番いい部屋だと思うよ。たとえ引っ越しても、いい部屋になる」

部屋の間取り図を眺めて、夫婦であれこれ妄想を膨らませるが、きっとどこに引っ越してもすぐに住みやすい環境がつくれればそれでよいと。こどもたちは大人になって巣立っていくし、必ずしも広さは必要ないと。

画像4

僕たちは何度も「家を建てようか」「マンションを購入しようか」と悩んだ。それでもお互いに無理を通さず、いまの賃貸に住み続けているのはそんな気持ちからかもしれない。

近い将来、僕たち夫婦の手もとを離れていくこどもたちの、賑やかな「いまの日常」を近くで見守っていたいという気持ちと、こどもたちが巣立った後も、夫婦で変わらず一緒にいたいという想い。

きっと、一緒に暮らす家族がその時の「いい部屋」を作っていくのだと、妻と話をして答えをみつけた。

いつか大きく成長したこどもたちが、笑顔で戻ってくる場所をこれから作っていけたらと思う。

執筆協力:K5
画像素材:ぱくたそ  JohnnyHouse 🏠
Special thanks:かえで

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?