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飛騨の匠 曲げ木家具の話

岐阜県高山市 飛騨高山と呼ばれる地域。
「飛騨の匠」で有名な飛騨高山は不思議な魅力のある場所である。山あいにあり、農耕に適した平地もさほど多くない。しかしながら古来より栄え、人々の豊かな生活があった。「飛騨の匠」は、その昔、年貢の代わりに都へ大工を送っていた事で日本中にその名を知られる事となった。その歴史は驚くべきことに藤原京の建設に遡り、「万葉集」や「日本書紀」にもその名は登場する。
奈良には今でも飛騨村が存在し、飛騨の人々が奈良の社寺仏閣の建設に大きく関わった事は想像に難くない。飛騨高山には天正14年に国主となった金森長近の時代につくられた城下町の姿を今に伝える「古い街並み」が残り、観光客で賑わうが、大きな古民家ではその空間や太い柱梁に匠の技が見て取れる。

日下部邸 飛騨の大工は大きな柱と梁にこだわりぬいた。

家具産地 飛騨高山
飛騨高山は今では数々の家具メーカーが軒を連ね、良質な家具を生み出す家具産地となっている。
古来よりの匠の技術は家具製造の技術となって今も受け継がれている。
飛騨は椅子やテーブルなど、いわゆる「脚もの」と言われる無垢材を使った家具が主流で、その技術力はおそらく日本で一二を争うであろう。戦後、日本は国策として、ヨーロッパから木の曲げ加工の技術を取り入れ、その後、飛騨の人々に受け継がれ修練された技術が息づいている。

その家具メーカーの一つ「飛騨産業株式会社」は100年の歴史を持つ。数ある飛騨の家具メーカーの中でも、その技術力やデザインに対する姿勢では飛び抜けている印象を持つ。今回、飛騨産業の工場を改めて見学する機会があった。工場の撮影をお願いしていたため、長い時間にわたり工場内を拝見することができた。

木の曲げ加工
飛騨産業の曲げのラインは、不思議な痛快さがある。10センチほどもある木材をいとも簡単に曲げてしまう。木材を蒸してある釜から出すと、金型に入れプレスする。するとまるでゴムのようにくにゃりと曲がる。あとはそのまま乾燥させる。部材として曲げた木材は、椅子の背や、脚などに加工される。
継ぎ目のない木材でできるため、強度も増し、材料にも無駄が出ない。
これが、飛騨の曲げ木技術の他者が真似のできない真髄である。

金型に入れられた曲げ木

細部まで至るチェックと仕上
もう一つ特筆すべきは、仕上へのこだわりである。飛騨産業の家具は他社のそれと比べると表面の塗装面がとても滑らかである。これは最終工程において、普通はだれも見ないであろう家具の裏側に至るまで、人の手でざらつきや凹みなどをチェックし、不具合があれば補修をしていく。仕上げに対するこだわりが上質な家具を生みだしている。

初めて飛騨産業を訪れたのは、30年ほど前。工場はまだ違う場所にあり、その時に見た「治具」を使ったカービング(木を削ること)の技術は目を見張るものがあった。いまでも家具ごとの治具は健在で、「私たちの宝物です。」と開発担当者は話していた。
今では、5軸NCという機械を取り入れ、プログラムすることでとても難しい形状でも加工できるようになっているが、昔からの治具もまた併用しているそうだ。

周辺の旅館に泊まったが、昔の飛騨産業の家具がたくさん使われており、年季は入っているが現役で活躍している。しっかりとした作りゆえに、とても長寿命な家具なのである。

家具になるのを待つ木材。

飛騨産業ホームページ
https://hidasangyo.com/company/bent/


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