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情報と賢くつきあう~脳のバグを知る~

 一見もっともらしいレビュー情報に騙されて不要なものを買ってしまって後悔したり、権威のあるとされている学者や大学教授の発言を鵜吞みにして信じてしまったり、としたことは誰でもあるだろう。

本書「脳の闇」(著/中野信子)は、そんな人間の認知に関する脳の”バグ”により自覚的でありたいと願う人、情報に翻弄されたくない、しっかり自分の判断の軸を持ちたいと思う人にとってヒントとなる本だと思う。

 AIがどんどん情報(質問に対する答え)を提供してくれる時代になり、自らに入ってくる情報を咀嚼し、読み解く能力が益々重要になっている。そのインプットが、今の自分に本当に適したものなのか、その情報の前提/条件/バイアスは何かと問いかける事を忘れてはいけない。日頃から自分の頭で考える習慣をつけておかないと、大事な決断をいざするときに、シャープな判断をすることができなくなり、致命的な失敗を起こしてしまいかねない。

つきあうべき友人、選ぶべき仕事、結婚相手、自分のお金の投資対象まで、生きることは選択の連続であり、重要な選択を間違いたくはない。

①どんなことを知りたくて、本書を読んだのか

自分を客観的に見るには、どのような事に気をつけたらいいのか。
「よりよく生きる」ためには何が必要なのか。人の認知のしくみを知ることは、今の自分に必要なものは何かを考えたり、情報をもとに判断する際の助けになると思ったため。情報を賢く読み解くためには、人が脳の機能を通して、ものごとを認知するしくみ(とその癖のようなもの)を知ることは、損になることはないと思われる。

②脳の"バグ"とは?

脳には、どんなバグがあるのか?例えば、下記のような例が紹介されている。

ケンブリッジ大学の調査では、人は1日に約35000回の決断を行っている。人間の脳にとって「選択する」という行為は、負荷の高いものであり、脳は、リスクとベネフィットを評価し、その差分の大きい選択肢を取ることを日常的にしている。

怠けたがる臓器である脳は、権威性・エビデンス・大きくて自信のある声などに弱く、騙されやすいなどの特長がある。

脳の前頭前野にある、背外側前頭前皮質は、冷静にものを考えて、損得を判断する領域とされているが、体調や気分によってパフォーマンスが大きく異なる事が確認されている。

「脳の闇」(中野信子)より

 寝不足だったり、アルコールが入り気分が良くなると、機能が落ちる。脳の機能も有限なので、夕方や夜に大事な判断をしてはいけないという話を聞いたことがある人も多いだろう。

また、下記のようなエピソードも紹介されている。

もし私が詐欺師なら、「高学歴の人」「キャリアの派手な人」を狙うかもしれないなと思う。強い自信を持っており、専門以外のことについては特に知識があるわけでもないのに、意外にもその強い自信から、他者の冷静な意見を受け入れない傾向を持っている。驚くにはあたらない結果かもしれないが、名門校の大学教授の94%は自分が同僚よりも優れているとみなしているという研究がある。この認知の歪みは、悪意のある側からすれば、特定の考え方に誘導しやすく、しかも一度騙してしまえば社会的な影響力は大きいので二度オイシイ。また、裁量権を持っていることも多い。さらにコスパが良いといえる。

「脳の闇」(中野信子)より

 高学歴の人についてもう少し言及すると、その中には、受験という限定的な場面でプレゼンスを発揮しただけのことを、なぜか「他のことにも才能を発揮できる」と無意識に拡大解釈しており、自己評価の過剰な高さが目立つ人も少なくない。相手に対する配慮を配分率という形で評価できる独裁者ゲームをやらせると、高学歴の人は相手に対してより少なく配分する傾向がみられることがわかっている。人生のスキームが単一だと信じているからだろうか、権威や性別による前時代的な序列構造に、比較的従順であるという特徴も持っている。これは、こちらがその気になりさえすれば、きわめて操作しやすい特徴だろう。まあ、国家という共同体の人柱としてふさわしい人材を抽出するための試験という側面もあるので、仕方のないことではあったのだろうけれど。

「脳の闇」(中野信子)より

大した苦労もなく、平穏な家庭で育ち、受験勉強や半径5kmの小さな世界で同質な人間に囲まれて育った学歴エリートたちは、だますには格好の相手なのかもしれない。

今後も、もっともらしい発言をする人は減ることはないし、それに騙される人も増えていくのだろう。せめて自分は、日々情報への咀嚼度を上げて、「賢く」情報を活用する側にまわりたいものだ。


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