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Fast & Slow (ダニエル・カーネマン著)

 イスラエルの行動経済学者:ダニエル・カーネマン(Daniel Kauneman)さん。2002年ノーベル経済学賞を受賞。行動経済学、心理学、ヒューリスティクスの概念、人間の認知のバグを広く世間に認知させた、ベストセラーの一般書が本書日本語版を紹介します。英語原書版のアマゾンレビュー数が15155件(2021年2月1日現在)という、世界中で広く読まれている本です。

 本書を読んで、行動経済学(及びその成り立ち)に少しでも興味が沸いた方には、映画マネーボールの原作者であるマイケル・ルイスさんの「かくて行動経済学は生まれり」がお勧めです。もちろんダニエル・カーネマンも多く登場しています。もし自分が18才に戻れるならば、行動経済学は学びたい分野のひとつですね。心理学と並んで、身近で興味深い学問です。

 本書は、人間の認知の特性やバグについて、非常にわかりやすく具体例を持って紹介されている名著です。どの章からも学びがありますが、研究者の本だけあって一般読者の方には冗長に感じられる部分もあるでしょう。システム1とシステム2の定義を読んだならば、自分が興味を持てそうな章から読み始めるのがいいのではないでしょうか。

以下、私が勉強になった学びの記録です。

◉感情ヒューリスティックス
 熟考や論理的思考をほとんど行わずに、好きか嫌いかだけに基づいて判断や決断を下すこと

◉直感的ヒューリスティックス
 困難な問題に直面した時、私たちはしばしばより簡単な問題に答えてします。しかもたいていは、問題を置き換えた事に気づいていない。

 経験から学んだことよりも、直感的なシステム内の方が影響力が強い。つまり多くの選択や判断の背後にあるのはシステム1ということ。

◉人間の思考の奇妙な弱点について

 自分が信じている、自分が知ってることについて過剰な自信を持っている。

 自分の無知や自分が住む世界の不確実性の度合いを理解することに関しては、私たちは明らかに無能である。私たちは自分の理解の度合いを過大評価する一方で、多くの事情で偶然が果たす役割を過小評価する傾向にある。

 自信過剰になるのは、後知恵で過去の「確実性」を錯覚するからである。

◉バイアス
ある特定の状況で決まった起きる系統的エラーのこと。

私たちは、何をするかは自分で決められるが、それを使える努力の量が決まっている。

 タスクを頻繁に切り替えたり、知的作業スピードアップしたりするのは本質的に不快なことであり、人間は可能であればそれを避けるのではないかと思う。最小努力の法則が成り立つのはこのためだ。時間的な制約がない時でさえ、思考の流れを維持するには自制心を必要とする。私が執筆中に、1時間あたり何回メールをチェックしたり、冷蔵庫の中は触ったりするかを数えた人がいたら、私がなんとか(自分で)絞り出させるセルフコントロールではとても足りないと結論づけたことだろう。

 疲れて空腹になった判定員は、申請を却下すると言う安易な"初期設定"に回帰しがちだ。疲労とか空腹が重なれば、消耗の原因となり、システム1が稼働し始める。

◉ 認知容易性(cognitive ease)
 数値の評価は、システム1が自動的に行う。システム2の応援が必要かどうか決めるのもシステム1の役割である。針が「容易」のほうに寄っていれば物事はうまくいってると考えていよい。何の危険な兆候もなく重大なニュースもなく、新たに注意を向けたり努力を投入する必要は無い。一方、「負担」のほうによっていれば問題が発生しており、システム2の応援が必要になる。認知負担は、その時点での努力の度合いや満たされていない欲求の度合いに影響される。

「見覚え」「聞き覚え」といった感覚は、単純だが強力な「過去性」という特性を持っており、そのために以前の経験が鏡に直接写し出されているように感じる(ラリー・ジャコビー)

◉真実性の錯覚

 誰かに嘘を信じさせたいときの確実な方法は、何度も繰り返すことである。聞きなれた事は真実と混同されやすいからだ。独裁者も、広告主もこのことをずっと昔から知っていた。だが、真実らしく見せかけるのに全部繰り返す必要がないことを発見したのは心理学者である。

 認知負担をできるだけ減らす、直ちに視認性を認めることができるものを、人は真実だと誤認しやすい。(太字で書かれた”アドルフヒトラーは1892年に生まれた”という文章は、平字のそれよりも真実だと誤認される)

◉ハロー効果
ある人の全てを、自分の目で確かめていないことなども含めて好ましく思う(もしくは全部嫌いになるも同様)傾向。Halo Effectとして知られる。以下の例がわかりやすい。

アラン: 頭が良い、勤勉、直情的、批判的、頑固、嫉妬深い
ケビン: 嫉妬深い、頑固、批判的、直情、勤勉、頭が良い

人は、アランの方が好ましい人物だと思ってしまう。順番はとても重要だ。

◉判断の独立性を保つには

 会議にあたって議題を討論する前に出席者全員に前もって自分の意見を簡単にまとめ提出してもらうことだ。通常の自由討論では、最初に発言する人や強く主張する人の意見に重荷がかかりすぎ、後から発言する人は追従することになりやすい。

 限られた手元情報に基づいて結論に飛びつく傾向は、直感思考を理解する上で重要。自分が見たものがすべてたと決めてかかり、見えないものは存在しないとばかり、探そうともしないことに由来する。システム1 は、印象や直感の元になっている情報の質も量にもひどく無頓着。What you see is all there is. (WYSIATIと呼ばれる)

◉"置換とヒューリスティックス"の応用例

・最初に答えようとした問題を覚えてる?もしかすると私たちはただ簡単な質問に置き換えているのかもしれないね。

・今考えるべきなのはこの応募者が仕事で能力を発揮できるかどうか。しかし、我々は。彼女が面接で好印象を与えたかと言う質問に答えようとしている。勝手に置き換えたらだめだよね。

・彼はこのプロジェクトが気にいっているそれでコストの割にメリットが大きいとしてるよ。典型的な感情ヒューリスティックだね。

・我々は昨年の実績に基づいて今後数年間の業績を予測しようとしてる。このヒューリスティックは妥当と言えるかな?他にも必要な情報ないだろうか。

◉平均への「回帰」
「非常に頭の良い女性は、自分より頭の悪い男性と結婚する。」
「夫と妻のチーム子の間には、完全な相関関係が認められない。」

数学的には、これらは同じ事を意味する文章だが、私たちは、前者の文章に面白みを感じる。私たちの頭は因果関係をつけたがる強いバイアスがかかっており、ただの統計はうまく扱えないのだ。

 注意が惹きつけられた場合、"連想記憶"は早速、原因を探し始める。記憶の活性化が自動的に広がり、既に保存されている原因を手当たり次第に刺激する。「回帰」が検出されると直ちに理由づけが始まる。

 単なる相関関係を因果関係と取り違えないよう気をつけよう。

 私たちは予測を保ち、情報にマッチさせることを直感的によくやってのけるだけでなく、それが合理的なやり方だとさえ考えている。多分私たちは経験から"回帰"を理解することができないだろう。そして"回帰"に気づいた時でさえ、飛行訓練の教官のようにそこに因果関係を見出そうとする。だがそれはほぼ確実に間違いである。

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