思えば高校時代の友人が最高だった~THE☆アウトロー・Tさん篇~
「ウチ、父親が5人いるんだよね」
彼女は、キャッチボール感覚で手榴弾を投げられる人だったのだろう。
およそまともな家庭に育っていない私さえも、父親5人のインパクトには白旗を上げざるを得なかった。
ところで、この手の話題での『正しい反応』とは、どのようなものを指すのだろうか? 後学のために教えを請いたい。
ちなみに「え、マジで? すごいじゃん」と返した私は、言うまでもなく友だちが少ないのだが。
母親の離婚・再婚ループにより、当時の父親は5人目だったのだとか。
あれから10年近く経っているから、もしかすると今は……。
それはさておき、トモダチコレクション第二弾を懐かしんでいこうと思う。
第一弾はコチラ↓
② 密かに憧れていたアウトロー・Tさん
斜め前に座っていたTさんは、語彙力を極限まで削ぎ落した言葉でいうと「カッコイイ人」だった。
身長は160センチ半ば。
足が長く、すらっとしたスタイル。
やや重めのヘルメットヘアと、退廃した柴咲コウ的な鋭い眼光。
顔立ちは小作りで、くーるびゅーてぃー系といえばよいのだろうか。
校則で禁止されていた「なんちゃって制服」の着こなしも、様になっていた。
この時点で羨ましい。
なにせ幼いころからカッコイイを目指し続け、小学生の頃はランドセルをワンショルダー掛けしていた私だ。
のちに隣のクラスの女から「カッコつけマン」という不名誉なあだ名をもらい、「ハデスに送るぞブス!!」と激昂することになるのだが、それはさておき私は涙ぐましい努力を積み上げていた。
カッコ良さの追求は、身長が150センチ前半で止まったことで泣く泣くやめることになる。
現実は常に非情。
足を組む癖があったTさんは、その堂々とした立ち振る舞い――もとい座り振る舞いで、坂口安吾なんかを読んでいた。
カッコ良すぎないか?
私なんて涼宮ハルヒだぞ?
その独特の雰囲気に魅了されたが、コミュニケーション能力に深刻なバグが発生している私は、話しかけるという選択肢を持ち合わせていない。
斜め後ろの絶妙なポジションから、彼女を見つめるだけで1ヶ月が過ぎた。
まるで恋する乙女のような高校1年の4月よ。
余談だがこの頃の私はTさんともう一人別の子も見つめていたので、事実上の二股である。
そんなTさんと話す機会は、案外早く訪れた。
GWも過ぎたある日の体育で、アレが行われたのだ。
――そう、体力測定である。
「2人組を作ってー」
放たれるアバダケダブラ級のセリフ。
教師と書いてデーモンと読むからな、あいつら。
授業以外でまったく口を開かない修行に励んでいた私は、他人には見えない相方と組んでにっこりしていた。
漫画でよくある「余った人は先生と」システムもないため、床に座ってひたすら忍法・気配隠しの術。
マジぴえん。
……便利な言葉ができたものだ。
そんなわけで奥義・寝たふりサボタージュを決め込んでいた私に、突如その声は舞い降りた。
「一緒にやる?」
え? 誰? 前世の伴侶?
振り返ればなんと、颯爽とTさんが立っているではないか。
god‼
いや、実は私ではなく周囲の人に話しかけてました、というパターンもある。疑り深い私はあたりを見回す。……誰もいない。
You're a god‼
「え、え、え? い、い、い、いいんですか?」と壊れかけのRadio状態で彼女の声に応え、そして何だか知らないが、Tさんと体力測定をすることになった。
「めっちゃ身体柔らかいな」
と私を見て笑っていたTさんは、御年87歳のババアか? ってほど身体が硬かったことだけ覚えている。
この出来事がきっかけではないけれど、Tさんとは時々話したり、昼食を食べたりする仲になった。
そして席替えがなかった2,3年時は、隣人として過ごした。
(何人か退学して気づけば席が隣りになっていた)
ちなみに、プロフィールページで触れられている「エロゲーマー」と私を呼んだその人が彼女である。
私のデコを叩いていたかと思えば『肉』と書き出したり(油性ペンで!)、いきなり胸倉をつかんできたり、頭を撫でてくれたり、顔だち同様猫のような気まぐれさに翻弄された。
たまに膝の上に載せてくれたけど、勘違い童貞だったら危なかったね。
彼女の威風堂々っぷりは、教師に対しても変わらなかった。
私のクラスには、遅刻三銃士と呼んでもよいだろう馬鹿みたいに遅刻を繰り返す連中が、男女それぞれ計6人いた。
女子三銃士の一角を担っていたのがTさんだ。
ある朝、小テストの途中に入って来たTさんは、無言のまま担任の真ん前に腰を下ろした(私たちの席は教卓の前だった)。
両耳のイヤホンから漏れ出づる音が、隣の私にも届く。
おそらく東京事変とかそこらへんだったのだろう。
怒る担任。スルーのTさん。
「おい、何か言うことは!」と荒げた問いに一言、
「……あ?」
Tさんの澄んだ声が響いた。
教室は静まり返り、私は噴き出す。
本人いわく反抗的な態度を取ったつもりはなく、音量が大きすぎて聞き取れなかったため訊き返しただけらしい。
まずはイヤホンを外せ。
「おまえは~~~~!!」
私もよくそうやって怒られたけれど、思えば担任はのび太の先生に似ていた。
Tさんは校則で禁止されていたバイトを平気な顔で行い、時々学校から消え、大学生の彼氏がおり、バンドとかそんな感じのことをやっていたような気がする。
何なら酒でもやってたんじゃねえのか? という雰囲気のある子ではあったものの、何者も恐れぬ堂々とした姿が、見ていて清々しかった。
中学時代はバスケ部で、「バスケなんてもう出来ねー」と言いながら参加した球技大会で優勝するところも、ただただ「カッコイイ」の一言に尽きた。
1度だけTさんと一緒に授業をサボったことがある。
美術だったか、そういう、どうでも良さそうな教科だった。
図書館に行き一緒に漫画を読んでいたら、司書にバレて強制送還された。
授業開始からわずか15分。馬鹿みたいな話である。
振り返ればもっと色々あったようで、大した思い出などなかった気もする。
そんな風に思うのは、特別深い仲にあったわけではないからだろう。
国語と英語に長けていたTさんは、それ以外のマリアナ海溝に沈んだ科目を無視してそれなりの東京私大へ進学したと聞く。
卒業後は疎遠になり、連絡は途絶えた。
連絡先を知ろうと思えば共通の友人を辿ってわかるのだろうけれど、そこまでする理由も、そして話す内容も今となっては思い付きもしない。
だから彼女のことはずっとこのまま、思い出にしておこうと決めている。
ある時Tさんに「ドンマイ!」と声をかけたら、
「ドンマイって言葉嫌いなんだよ、殺すぞ」
と過激な発言が返ってきて、こんなにもオブラートが消滅している人も珍しいな、と感心した。
もうすぐ28歳になるTさんは、気に食わない上司相手にも殺すぞ、と牙をむいているだろうか。
個人的にはそうだと面白い。
例えば上司にペコペコしているようなTさんの現状を知ってしまったら、ああ、確かに自分たちは大人になってしまったのだな、とつまらない感傷に浸らずにはいられないだろう。
彼女の態度が元々の性格から来るものだったのか、世の中の何かに抵抗していたに過ぎなかったのかは、よくわからないけれど。
どうか。
あの頃の堂々とした姿で、傍若無人さで、そして私に声をかけてくれた時の
優しさを携えて、どこかで生きていてくれたら。
そんな風に思ってみたりする。
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