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【吸血鬼はスケボーに乗って夜を漕ぐ】『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』感想

最高にクールな『吸血鬼映画』を知っているか?

例えるなら「イラン×吸血鬼×ジム・ジャームッシュ」を掛け合わせたような見たことない吸血鬼映画だ。

ジャームッシュの吸血鬼映画といえば『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』。こちらは退廃的な雰囲気たっぷりの映画

『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』は日本で2015年に公開された。イランの架空の街を舞台に人間の青年と吸血鬼の少女の出会いがモノクロ映像で描かれる。

監督をつとめたのはイラン系アメリカ人のアナ・リリー・アミールポアー。本作が長編デビュー作となる。俳優のイライジャ・ウッドが製作総指揮を務め、世界のインディペンデント系映画祭で高い評価を得たことでも話題となった。

今回JAIHOで配信が開始していたので久し振りに観返して確信した。やはりこの映画の雰囲気が大好きだ。

海外の短編小説のような手触りが良い。多分この映画好きになる人多いと思うのでここで紹介させて欲しい。

2014年製作/99分/PG12/アメリカ

まずは簡単にあらすじを

映画は1人の青年が街を歩いている場面から始まる。
舞台となるのはイランの架空の街「バッドシティ」。名前の通り、橋の下に大量の死体が置かれてるというインパクトある風景が映し出される。

青年の名はアラシュ、どこにでもいる普通の青年だ。
スタイリッシュな車に乗っているのが自慢で父親と2人で暮らしている。どうも母親は2人を置いて出ていったらしい。そして父親は薬物中毒者である。

本作の主人公的存在のアラシュ。

本編が始まって目を惹かれるのがモノクロームの美しい映像。
一つ一つの構図がキメッキメでどこを切り取ってもポストカードになるかのよう。この美しい映像にオフビートなテンポで物語は進んでいく。

アラシュの家にチンピラが借金の取り立てにやってくる。
父親はクスリの代金をツケにしていたが払える状態じゃない。そして借金のかたにアラシュの愛車が持ち去られてしまうのであった。

ここまで聞いて「あれ?吸血鬼はいつ登場するの?」と思った人もいるだろう。どちらかというとこの映画の主人公はアラシュだったりする。

吸血鬼は途中から出てくるわけだが、彼女のキャラクターがとても魅力的。

部屋の様子からも音楽好きなのだろう。
部屋で音楽に身をくねらせ、夜になったらヒジャブを纏い街を彷徨う。その姿や行動はまるでダークヒーローのよう。

特にスケートに乗る姿が様になっている。
スケボーに乗ってる吸血鬼なんてこれまで見たことない。ボーダーのカットソーがめちゃめちゃ似合ってるのも良い。肩甲骨のラインが美しい。

部屋に隙間なく貼られたポスターからも趣向が伺える。

そんな吸血鬼の少女と青年が夜の街で偶然出会ってしまう。

そう、これはボーイ・ミーツー・ガールの話だ。

これまで孤独に過ごしていた吸血鬼と孤独を感じていた青年が惹かれあったのは必然なのかもしれない。

2人が彼女の部屋で過ごす場面が個人的にはこの映画のハイライトだと思う。監督が描きたかったのも、この吸血鬼のキャラクターと2人の出会いなんじゃないだろうか。

色んな偶然が重なって出会った2人。

というのもこの映画「これからどうなってしまうのか?」というところで終わってしまう。上述した短編小説のような手触りと述べたのはそういう終わり方のせいもある。

この先行きに不安を感じる終わらせ方は同じ吸血鬼映画の『ぼくのエリ 200歳の少女』を思い出す。正直、物語に物足りなさはあるものの、吸血鬼のキャラクターと美しい映像だけで充分過ぎるくらい満足だ。

※JAIHO他、U-NEXTにて配信中(2023年9月8日時点)。興味ある人は是非チェックしてみてね。

※最近、ビジュアルが良さげな作品の予告見かけて興味持ってたら、アナ・リリー・アミールポアー監督の新作だったっとは(だから、このタイミングで配信が始まったのか…)

アナ・リリー・アミールポアー監督の最新作『アナ・リリー・アミールポアー監督』は11月17日より全国順次公開予定。これは劇場に観に行かねば。


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