【ある男女の恋愛譚】『スーパーヒーローズ』感想【イタリア映画祭2022】
4月29日から開催している『イタリア映画祭2022』。2001年から始まったイタリア映画に特化した映画祭で今年で22回目の開催となる。5月19日からは第1部がオンライン上映も始まっており、その中の1作『スーパーヒーローズ』を鑑賞した。
こちらは今年のラインナップを見た時から楽しみにしていた作品。というのも本作の監督はブラックユーモアの大傑作『おとなの事情』のパオロ・ジェノベーゼ。この監督の作品は大好きなので、上映を知った時から絶対観ようと思っていた作品だ。
本作は『スーパーヒーローズ』というタイトルがついているが、いわゆるアメコミ系のスーパーヒーロー映画ではない。あるカップルの軌跡を追いかけた恋愛映画になる。
映画は雨の場面から始まる。偶然、雨宿りで居合わせた男女。男は女に話しかける。男は数学が得意らしく、雨を避けて帰れる確率などの与太話を語る。はじめはそっけない返事をする女だったが次第に態度がやわらいでいく。雨の中、男は走って去っていったようだったが、女の為に傘を買ってきてくる。女に傘を渡し立ち去る男。冒頭はこんな感じで始まるのだが、描写が凄くスマートでこの時点で本作のことが好きになった。
この作品は、ある男女が出会い付き合い始めるまでの過去パートとそのカップルの10年後を描いた現在パートが交互に映し出される。恋人たちの関係性を比較するのに効果的ということもあるのだろう、恋愛映画において時系列を弄っている作品は少なくない。
面白いのは、時間ごとにカップルたちの姿を追いかけていくと彼らの奇妙な人生の軌跡も見えてくる点だ。そこには偶然という言葉だけでは片づけられない、まさに運命としか言いようのない力で2人が引き付けられる瞬間がある。恋愛映画の良さとは、そうした運命めいたものにロマンを感じることなのかもしれない。
本作は、こうした話の構成含め脚本が本当に上手いと感じる。時系列に関しても10年後の2人の会話から伏線を張っていたり、過去の言動が予言や皮肉めいた形になっていたことに気付く楽しみもある。今も10年前も楽しいはずの旅先で喧嘩する姿が重なるのは、恋愛あるあるとしても共感できてニヤリとしてしまった。
主演2人のキャラクターも良い。マルコは大学で物理学を教えており、アンナは漫画家。職業からマルコは論理的でアンナは感情的と対比したキャラクターともなっていて惹かれあったのも良く分かる(それゆえにズレが生じることも)。
パオロ・ジェノベーゼ監督、『おとなの事情』でも、その次の作品『ザ・プレイス 運命の交差点』でも人間の心理を題材にしているだけあり、今作でもやはり心情描写が上手い。『おとなの事情』では、かなりえげつない人間の裏の顔を描いていたが、今作も恋愛映画だが、けっこう突っ込んでいる。
例えば、マルコの友人の男性は軽い気持ちで不倫をしたことにより、妻と別れ新しい恋人との間に子供ができている。だが、友人はそのことを後悔しており「今の妻との間に子供は欲しくなかった」とマルコに本心を漏らす。
マルコ自身も冒頭のアンナとの出会いはロマンチックだが、物語が進むうちに「おいおい」と突っ込みたくなるような事実が判明する。本作はこうした恋愛のえげつない面も描かれる。ロマンチックなだけでなく胸がチクッとなるようなリアルな恋愛映画となっている。
物語終盤のアンナの決断。唐突なだけに賛否分かれそうだが、2人を追って見ていたからこそアンナの行動も腑に落ちるものだった。本作はいずれ配信になるのかな。個人的には劇場公開にしてより多くの人の目に触れて欲しい作品とも思った。イタリア映画祭のオンラインでは、まだ上映中のため興味ある人は是非チェックして欲しい。
※下記サイトより。『スーパーヒーローズ』が観れる第一部は6月19日までなのでご注意を
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