【死者の蘇る月、愛と死が交錯する】映画『NOVEMBER』感想
映画『NOVEMBER』は2017年に製作されたエストニアの作品だ。19世紀末のエストニアの農村を舞台に、ある男女の奇妙なラブストーリーが描かれる。
エストニア、旧ソビエト連邦の一部でバルト三国の一つ。筆者には歴史で学んだこと以上に馴染みのない国だ。少し調べたところ、デジタル先進国で、首都タリンはジブリ映画の『魔女の宅急便』のモデルの一つにもなったとも言われてるらしい。
そんな「魔女」繋がりの本作は、19世紀の「死者の日」を迎える11月のエストニアの村を舞台にした物語。美しいモノクロームの映像に彩られて不思議な純愛の行方が映し出される。
幻想的な映像に引き込まれるが、内容はけっこう奇天烈という印象。映像美に対しブラックユーモアとシュールさが入り混じった物語がギャップがあって面白い。人を選ぶタイプの作品だが、筆者はかなり好きなタイプの映画だった。
ネタバレありの感想は下記に述べるが一言だけ。
使い魔のクリットが可愛い!!
シュヴァンクマイエルやティム・バートンのような「グロテスクだけど可愛らしい世界観」が好きな人には本作を強くお勧めしたい。
※以下は映画の詳細な内容に触れています。未鑑賞の方はネタバレにご注意ください。
【感想】
正直、この日は鑑賞前から睡魔に襲われており、館内が暗くなった時から「今日寝落ちしないかな…」と心配だったが、開始直後から「なんじゃ、こりゃ!」となる展開に眠気もすっかりふっ飛んだ。タイトルバックが出るまでの一連の展開はまるでコントのよう。この冒頭の場面からパンチの効いた内容であることが伺える。
後、この場面で「この作品は魔術とか当たり前の世界だ」と作品のリアリティラインも分かったからこそ、その後のシュールや演出もすんなり受け入れられたのかもしれない。
『NOVEMBER』というタイトルの由来が疑問だったが、パンフによると11月1日の「All Soul's Day(死者の日)」が元となっているらしい。
日本でも盆を舞台にした作品は多いが、死者が帰る時期だからこそ、この世とあの世の境界がより曖昧となり不思議な出来事も起きるというこのなのだろう。
「悪魔と契約して使い魔を得ることができる」、幻想的な設定だが描かれる世界は現実的。
エストニアのカルト的ベストセラーの小説が原作らしく(未邦訳)、小説ではどのように描かれているか分からないが、映画を観た限りでは、なかなかに底意地の悪い物語だと感じた。
全編シュールでブラック。美しく幻想的な映像だからこそ人間の卑しさが余計に目立つ。魔術で牛を盗んだり雑用を押し付けることはできても、人の心は思い通りにできないというのが物語のミソなんだろう。
キリスト教とアミニズムにもとづく異教という設定は、奇しくも今年上映されたチェコが舞台の『マルケータ・ラザロヴァー』(こちらもモノクロームの映像)と共通している。この作品もそうだが、東欧が歩んできた歴史を垣間見ることができたのが興味深かった。
奇妙な設定やシュールな演出に目がいきがちだが、話自体は昔ながらの王道の恋愛劇なので話の結末も予想はつく。
ハンスがクリットに感化される辺りが「ああ男だなぁ…」ってしみじみしてしまった。男は恋愛に関してはロマンチストになりがちよね。死に様は哀れだったけど、両想いになれたと勘違いしたまま死んだのだからある意味幸せだったのかもしれない。
本当に悲惨なのはリーナだ。入水自殺を試みたことでハンスとひと時の逢瀬を交わすことができる。物語はこのまま悲恋に終わるかと思ったけど、やはり本作はブラック。ロマンチックには終わらない。
救い出されたリーナの周りに沢山の金が散らばっている構図がシュールだし、この作品を端的に表しているのかもしれない。好きな人を失った余韻に浸る時間もない。「結婚の時にでも持って行け」という発言に対するリーナのしらけた表情が何とも空しい。悲しいかな、本作は最後まで夢を見させてくれないのだ。
物語の後を想像してしまった。リーナはこの後どうしたのだろうか?あきらめてエンデルと結婚したのだろうか。それとも他の誰かと?
多分それは無いな。あの村ろくな男がいなさそうだったし(というか若い男がいない)。
この記事が参加している募集
読んでいただきありがとうございます。 参考になりましたら、「良いね」して頂けると励みになります。