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【世間知らずの坊や、社会を知る】映画『ファニーページ』感想

高校生のロバートは恩師と崇める先生の死をキッカケに学校を辞めてプロの漫画家(カートゥーン作家)を目指すようになるのだが…

映画『ファニーページ』は『A24の知られざる映画たち』で公開されている作品の1本だ。Youtubeで予告編を観た時から「これ絶対好きなヤツだ!」と気になっていた作品。

結果的から言うと

大好きな作品だった。ただ人にはお勧めはしない。

かなりブラックでシニカル、おまけに下品な描写もある。

冒頭、ロバートが先生をモデルにスケッチを始める場面から始まるが、先生は突如全裸となり裸体をさらけ出す。この場面からして強烈だ(しかも先生はこの直後死んでしまう)。

この作品は、この先生のような風変わりな登場人物ばかり登場する。
風変わりというのも、よくある少し変わってるけど愛おしい人たちではなく少し変わってて近寄りたくない人たちばかり。

コミックストアにくるお客さんの描写もなかなかパンチが効いている。オタク文化の描写もなかなかキツイ。

自分は作品を観ながら「この監督は人間観察が大好きなんだろうな」と。それも意地の悪い見方が好きなんだと思う。

先生の死後、先生の言葉に感銘を受けたロバートはプロの漫画家を目指すため学校を辞めてしまう。実家を出てアパートを借りて住むのだがそこの生活がヒドい。

そこは半地下どころか完全な地下。
しかも謎の中年男性たちとルームシェアをするようになる。家の中は年中蒸し暑いしシャワーは泥水が混じっているというキツイ環境。

能天気とはいえ夢見る少年をここまで突き放すとはなかなか意地が悪い…(ロバートが自分の環境のひどさを自覚してないのがまだ救い)

こんな皮肉で意地の悪い作品を撮った監督は、ノア・バームバック監督の『イカとクジラ』に弟役として出演していたオーウェン・クライン。
役者としては音沙汰がなかったがいつの間にか監督になっていたとは…

ウォレスも傍から見たら近づきたくないタイプ。だがロバートから見れば憧れの存在だ。

アパートの同居人やウォレスと対照的な存在なのがロバートの両親。
真っ当な父親に母親。いわゆるハリウッド映画に登場する典型的な良きアメリカの家族。ロバートは典型的な裕福な子供、お坊ちゃんだ。行動力は人一倍あるが、何をして良いかわかっていない。

この物語は世間知らずの坊ちゃんが痛みと失敗を持って社会を知る物語なのだ。

ロバートたちが描いていた漫画が同居者たちにああいう使われ方をするというのもかなりブラック!

「お前は甘やかされたただの子供だ」

「才能もない負け犬であることを認めろ」

ウォレスとロバートの父親。社会的にも全く正反対の2人だがロバートに放つ台詞は皮肉にもロバートの現状を的確に表しているように感じた。

ウォレスも相当問題があるが、ロバートに苛立つ気持ちも分かるんだよなぁ

踏んだり蹴ったりな体験をするロバート。唯一の救いはロバートがまだ高校生であり、この話も冬休みの間に起きた出来事ということでまだ軌道修正がいくらでもできそうなところだろう(ロバートの両親も息子がいつか帰ってくると思っていそう)。

ロバートがいつか自分の人生を振り返った時「ああ、あんなこともあったなぁ」と人生の1ページになりそうな話。だからファニーページというタイトルなんだろうか。

ということで『ファニーページ』、人はかなり選ぶけど好きな人にはたまらない映画でした。

現在『A24の知られざる映画たち』で公開中。また1月26日からはU-NEXTでも配信開始とのこと。
気になる人は是非チェックしてみてね。

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