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【閉じ込められた屋敷の中で】映画『イヤーウィグ 氷の歯を持つ少女』感想

『エコール』、『エヴォリューション』の"変態"もとい"鬼才"ルシール・アザリロビック監督が2021年に製作した『イヤーウィグ 氷の歯を持つ少女』。

AIHOで4月27日から独占配信されているという知らせを見て驚いた。
新作が製作されていたことも知らなかったが、前2作が日本で劇場公開されていたのに本作は劇場公開がスルーされていたという事実もショック。

上から『エコール』(2004年)、『エボリューション』(2016年)どちらもかなりフェチズムを感じる独特の世界観が魅力的!

アザリロビック監督作品といえば、多くの謎を残し考察の余地もあるが今作はこれまで観てきた作品の中でも一番「?」な作品だった。

物語は20世紀のヨーロッパのどこか。
少⼥ミアは自分の唾液から作られた「氷の⻭」をつけながら過ごす日々を送っていた。彼女の世話をするのはアルバートという男。彼とミアの関係は不明だ。

ミアは光から遮られた屋敷から一歩も出られない日々を過ごしている。
アルバートは時折、屋敷に掛かってくる謎の電話に対しミアの容態を報告していた。そんなある日、アルバートは電話の主からミアを自分のもとへ連れてくるように言われ…という風にして物語は始まる。

説明描写がないのもいつものことだが、今作はいつにも増して不思議な場面が多い。途中から挟まれるウェイトレスのセレステの場面はアルバートの人物像を掘り下げると共に物語をさらに混沌とさせていく。

アザリロビック監督の作品は大抵子供が主役だが、今作で言えば主役は世話役のアルバートといえるだろう。

数多い謎の中でもアルバートのセレステと同一化したいという思い、この下りはよく理解できなかった。

言葉通りに捉えるならアルバートは性同一の問題を抱えていたということなのだろうか(後半に画的にもそういう場面があるし)。その反面、亡き妻と幸せな思い出もちょくちょくはさまれるし、アルバートの心情は正直よく分からなかった。

ミアとセレステ、奇妙にも2人の状況が重なっていく様子は物語というか抽象画を見ているような感覚に近いものを感じた。

そんな中でも変わらず、アザリロビック監督のフェチズムは炸裂している。

特に氷の歯を作る過程はやたら丁寧で監督が何を撮りたいのかが伝わってくる。大の男が少女の口をこじ開けてる様はエロティック。
こうした作品全体に漂う背徳感は『エコール』、『エヴォリューション』同様だ。

ビジュアルの美しさも健在。暗がりの中でライトに照らされるミアの姿が絵画もよう。監督作品の雰囲気が好きなら人なら本作もきっと気に入るのではないだろうか。

それにしてもアザリロビック監督の作品って、大体子供はどこかへ連れていかれてしまうんだけど、監督の中にそうした原体験でもあるのかな。

『イヤーウィグ 氷の歯を持つ少女』はJAIHOにて2024年4月27日~6月25日まで配信中。気になる人はチェックしてみては。

2021年製作/114分/イギリス・フランス・ベルギー合作


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