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【豚からはじまる】映画『PIG/ピッグ』感想【奇妙な物語】

誰がこんな展開を予想できただろうか。盗まれた豚を追いかけた先には予想もできない世界が広がっていた。

映画『PIG/ピッグ』は2021年に製作されたアメリカ映画だ。孤独な老人のロブは、山奥でブタを使いトリュフを収穫することで生計を立てていた。そんなある日、謎の2人組に襲撃されたロブは相棒の豚を奪われてしまう。豚を取り返すためにロブは2人組の行方を追うのだが…

主演はニコラス・ケイジ。共演に『へレディタリー 継承』、『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』のアレックス・ウルフ。監督は今作が脚本・監督ともにデビュー作となるマイケル・サルノスキ。

情報が公開された時から気になっていた。何せあのニコラス・ケイジが豚を取り返しに行くという設定からして面白い。その設定から『ジョン・ウィック』を想起させるという言う声も挙がっていた。

ところが実際に鑑賞してみると、これが予想の斜め上をいく映画だったので驚いた。人によって合う、合わないがハッキリ分かれると思う。

本作を一言で表すなら「奇妙な物語」。豚を取り返しにいくというあらすじから「ちょっとふざけてるよね?」と思っていたから予想外に真摯な作りに戸惑った。

Rotten Tomatesのメーターでは評論家・一般どちらからの評価も高い。

そんな本作だが、作品の評価はすこぶる高い。元アメリカ大統領で映画好きとしても知られるバラク・オバマ氏は、2021年度のお気に入りの映画の一本に本作を挙げている。また、出演したニコラス・ケイジ自身も後世に残したい映画のひとつに本作を挙げている。

内容は知らずに見た方が楽しめると思うので、下記の感想は鑑賞してから読むことをお薦めしたい。ただ、日本版ポスターの「リベンジスリラー」というジャンルを期待すると肩透かしを喰らうかもしれない。

奇妙な道のりを巡る物語ではあるけど、海外の短編小説のような趣きが感じられて筆者は好きな作品だった。強いインパクを残る映画ではないが、記憶に留まって何年かした時にふと思い出したりしそう。

※これより下記はネタバレに触れた内容となっています。ご注意下さい。

2021年製作/91分/G/アメリカ

【紹介&感想】

予想もしない展開が待っていた。豚を追いかけたら地下闘技場のような場所に行くから「ファイトクラブ?」と思ったら、料理で心を動かすという料理漫画のような展開になっていく。しかも終始、静謐なトーンで描かれるからそのギャップにも戸惑った。

確かに『ジョン・ウィック』と似ている部分もある。例えばロブの正体は伝説の料理人で皆に一目置かれている。ただし、キアヌがシリーズ通して暴れまくるのに対し、ニコラス演じるロブはガンジーの如く非暴力主義。殴られはしても自分から手は出さない(盗まれそうになった時、ナイフ掴んだり、人の車はボコボコにするが)。

海外のインタビュー記事を読むと、マイケル・サルノスキ監督は、ジャンルによる思い込みを逆手に取ったとも答えている。言及はしてないが、筆者は「アンチ・ジョン・ウィック」を意識したのではないだろうかと思うがどうなんだろう?

ただ、ロブの一切手を出さない描写からは監督の「描きたいのはそこじゃない」という意志が感じられる。

では、この映画は何を描いているのか?それは人間ドラマだ。劇中の重要人物は主に3人、主人公のロブに相棒のアミール、そしてアミールの父親だ。彼らは全員大切な人を失っているという点で共通している。

妻を亡くした後に俗世を捨て山に籠っていたのだろう。ロブは豚を取り返す旅の過程で自分の過去と向き合っていくことになる。そういう意味で本作は「喪失と再生」を描いた物語といえる。

他の2人もロブと同じだ。アミールは母を、アミールの父親は妻を失った悲しみと向き合うことになる(厳密にいうと死んだ訳ではないが、恐らく植物状態に近いことが伺える)

殴られた血などを一切拭かない辺りも本作の突っ込み所。シャワーくらい浴びなさいよ…

劇中に救いは描かれない。豚は返ってこないしアミール親子の関係も改善した訳ではない。設定はどこかファンタジックだが結末は現実的だ。

大切な人を失った。それでも人生は続いていくし人は生きていかなければならない。本作からはそういうメッセージを感じ取った。

映画の序盤、ロブの家のドアは閉じられてたが、最後の場面では開け放たれている。これはロブの閉じられた心が解放されているということを表しているのかもしれない。

本作はニコラス・ケイジのシリアスな演技を堪能できるという意味でも最近の出演作品とはひと味違っている。

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』や『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』など、癖のある映画でのニコラスも好きだが、本作のような人間ドラマの演技もしっかり魅せてくれる。アミール演じる共演者のアレックス・ウルフの軽薄なボンボン感も良かった。

ロブとアミールの関係性も良い。別れ際の「また木曜日に」という会話も今後の関係性を想像させて良い。

作品をつつむ静謐な雰囲気はこの監督の作風なのだろう。この作風も好き嫌い分かれるだろうが、筆者は好きだった。突っ込みどころは多いし、変な映画ではあるんだけど、そこも含めて本作は面白かった。

今作がデビュー作となったマイケル・サルノスキ監督だが、既に『クワイエット・プレイス』シリーズの3作目に抜擢されている。今後どんな作品を撮るか楽しみだ。

【参考にした記事】

海外のインタビュー記事。ニコラス・ケイジは本作の脚本を読んだとき、日本の俳句を意識したらしい。

鑑賞したのは伏見ミリオン座の10月16日の12時20分からの回。お客さんは20~30人くらいはいたんじゃないかな。客層は老若男女様々でした。

鑑賞した時に購入した『グリーンナイト』のムビチケと特典のステッカー。デザインが素敵。『PIG』の鑑賞チケットは無くしてしまった…


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