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【騒々しく切なくて美しい】映画『ルナ・パパ』感想

6月3日から全国で順次公開されている再発見! フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅。タジキスタン出身のバフティヤル・フドイナザーロフ監督の作品を特集した上映イベントとなる。

フドイナザーロフ監督の名前は知らなかったが『ルナ・パパ』という名前は聞いたことがあった。映画友達に主演のチュルパン・ハマートバを凄く好きな人がいて、その人が話していたのがこの作品だったと思う(ちなみにその人のオールタイムベストはチュルパン主演の『ツバル TUVALU』)。

ということで観てきたが素晴らしかった。
自身のオールタイムベストに入りそうなくらい好き。正直、この特集は『ルナ・パパ』だけ観ようと思っていたが、この監督の他の作品も観なければとさえ思った。

癖の強い世界観だけに人は選ぶかもしれない。エミール・クストリッツァ監督が好きな人ならこの世界観にもハマりそう。

1999年製作/110分/ドイツ・オーストリア・日本合作

あらすじ:舞台はタジキスタンの美しい湖畔の村。演劇が好きな17歳の少女マムラカットは、戦争の後遺症を抱える兄や厳格だが優しい父親とともに暮らしていた。
ある夜、マムラカットは演劇を見に行った先で知らぬ男に誘惑され一夜を共にしてしまう。その一夜で彼の子を身ごもったマムラカットは兄と父とともに一夜を共にした男は探し回るのだが…

まずロケーションが素晴らしい。
辺り一面の荒野に地面スレスレに飛ぶ飛行機。絵画のように美しいグラデーションの湖。アニメやゲームでしか見たことがないような光景に見とれてしまう。

音も良い。
冒頭に馬の大群が駆け抜ける場面があるのだが音が轟音。地面スレスレに飛ぶ飛行機もそうだが、この迫力は映画館でなければ味わえないと思う。ここだけでこの映画を劇場で観て良かったと思った。

風景こそ美しいが、物語は幻想的というよりは強く「人間の生」を感じさせる。とにかくパワフルかつエネルギッシュ。マムラカットの一夜の相手を探し回る訳だが「うちの大事な娘を孕ませたのは誰だ!!!」と言わんばかりの勢いで暴走特急のように突き進む。

この観ていく側も振り回すような荒唐無稽さと疾走感が気持ち良い。このハイテンションさはエミール・クストリッツァ作品にも通じると思う。

この家族、観ていく内にどんどん愛おしくなっていく…

そして登場人物たちの愛おしさ。
主役のマムラカットはじめ出てくる登場人物たちはひと癖ふた癖もありそうな人物たち。観始めた辺りはそのアクの強さに少し引いてたのだが、物語が進むにつれどんどん好きになっていく。
物語が終わるころにはすっかり好きになっていたからこそ、ある展開に驚くのだが…

後半からは作品自体のトーンが変わる。特に結婚式の下りは予想できなさすぎて唖然とした。そこからの急展開も予想できない。「やはりお前か…」という伏線回収(確かに序盤にそれっぽい伏線はある)もある。

ここらへんまでは「おさまるところにおさまったかな?」と思って観ていたら…その後の展開に唖然。

そしてこの映画を観たなら絶対語りたくなるようなラストシーン。
あのラストがあるからこそ、この作品って今も語り継がれてるのでは…騒々しい分最後はすっかり寂しくなってしまった。

笑って切なくなって唖然とさせられて。とにかく感情を振り回されまくって楽しかった。まだこの1作しか観てないがこの作品だけで語るならフドイナザーロフ監督は奇才、まさにオンリーワンな物語。この作品に出会えて良かった。

この友達のキャラも凄く良かったな。


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