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怪獣が繋げる希望と願い『8日で死んだ怪獣と12日の物語 劇場版』

7月31日に公開された岩井俊二監督の『8日で死んだ怪獣の12日の物語』。新型コロナウイルス禍で作られた本作はYouTubeで公開した作品に映像、キャストを追加して劇場公開したものになる。筆者も8月1日にチネチッタ川崎の16:40の回で鑑賞してきたぞ。ここでは本作の製作経緯、作品のポイントを感想を交えながら述べていきたい。

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製作年:2020年 製作国:日本 監督:岩井俊二
目に見えない怪獣コロナへの恐怖が蔓延する世の中、カプセル怪獣を通販サイトで買ったサトウタクミは、怪獣の成長過程を配信していく。怪獣に詳しい樋口監督に話を聞いてるうちに、サトウはカプセル怪獣にコロナと戦ってくれるよう希望を持つが…

【YouTubeから映画へ~製作経緯~】

本作が作られたキッカケは、樋口真嗣監督がスタートさせた『カプセル怪獣計画』から始まる。これは、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛要請を受け、樋口監督が仲間とともに考案した企画だ。見えない大怪獣コロナに対し、怪獣の人形に願いを込めた動画を募集し、最終的に1本の動画にまとめるというもの。発起人には樋口監督の他、尾上克郎、田口清隆、辻本貴則、中川和博が名を連ねている。

その依頼を受けた岩井俊二監督は、物語を考えていたら、話が膨らんで映画になってしまったとの事。(映画化するつもりがなかったため、登場人物の名前も本名に近くなってしまったらしい)ちなみに本作は『カプセル怪獣計画』の番外編で完全なオリジナルストーリーの為、『カプセル怪獣計画』の事を知らなくても楽しめるぞ。

映画はYouTubeで公開されている「8日で死んだ怪獣の12日の物語」に、追加キャストと映像を加えたものを劇場版として公開している。

筆者はYouTube版も劇場版も観たが、違いとしてはのんが参加してるだけでなく、画面も劇場版がモノクロ、YouTubeがカラーとなっているため、劇場版はより映画っぽく、YouTubeは、いかにも配信っぽくなっているのが面白い。また、劇場版は、のんが物語上のアクセントとなっていて、退屈させない作りとなっている(YouTubeを繋げただけだと、正直、途中中だるみしたかもしれない)気になる方は先にYouTube(上記リンク)をチェックしてみるのもありだぞ。

【リモートで紡がれた怪獣育成日記】

全編が、ほぼリモートで撮られた本作。キャストが実際に集まることなく映画完成まで至っている。本作の主な出演者は5人。斎藤工、武井壮、のん、穂志もえか、そして『カプセル怪獣計画』発起人の樋口監督も出演している。

サトウタクミ①

本作は斎藤工演じるサトウタクミが通販でカプセル怪獣を購入し、その成長過程を1日毎に配信していく様が撮られている。そこにリモートで樋口監督、武井壮、のんなどが絡んでくるわけだが、このやり取りがなかなか面白い。特に斎藤工とのんのやり取りは、まさかの展開があってどうなるかが見逃せなくなる。武井壮は、正直、バラエティの印象が強いので少し不安ではあったが、コロナで仕事を失った斎藤工の先輩という役どころを自然体で演じていて見事にハマっていた。舞台挨拶などの様子を見ると、斎藤工が結構アドリブを振ったらしいが、2人とも全く動じる事がなかった模様(ちなみにこの作品、どこまでが脚本でどこまでアドリブだったのかが気になる。パンフレットによると樋口監督に関しては台本がなかったといっている)

【ウルトラ怪獣、ジョジョ、鬼滅の刃…サブカル好きに刺さるワードが連発】

本作を観る前に知っておきたいのが、カプセル怪獣という存在。筆者は劇場版を前情報無しに観たが(その後、YouTubeを見た)、がっつりウルトラ怪獣の名前が出てくることに驚いた(ちなみに世界観にも驚いたのだが、それは観てのお楽しみ)筆者はウルトラシリーズに関して、多少の知識はあったので楽しめたのだが、知らない人はもしかしたら若干の置いてけぼり感を感じるかもしれない。一応カプセル怪獣についての概要は以下に挙げておく。

カプセル怪獣…ウルトラセブンなどの作品に登場する、主に使役者が戦闘不可能な場合の支援に呼び出される怪獣。(ピクシブ百科事典参照)

カプセル怪獣の種類は3種類。(余談だが、現在絶賛放映中の『ウルトラマンZ』にはカプセル怪獣のウィンダムが登場してたりする)

ウインダム

他にも、劇中では『ジョジョの奇妙な冒険』だったり『鬼滅の刃』などのワードが出てくる。本作は漫画や特撮好きのサブカル層こそ刺さりそうな作品だともいえる。(もちろん、上記2つをしらなくても物語の理解には影響ない)

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後、面白いと思ったのが、劇中に何度もコロナ禍で、人が全くいない東京の風景が出てくるが、画面がモノクロのこともあってディストピア感が半端ない。人が少ないからこそ絶望感が伝わってくる。こういう映像も何年後かに映、当時を振り返る映像として使われそうだな…鑑賞中、そんな事を思ってしまった。

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また本作は、88分間、斎藤工が画面に映りっぱなしなのでファンにとっては垂涎もの。ラスト近くのカットやエンドロールを含め、まるで本作自体、斎藤工の壮大なPVのようでもある。スクリーンを一人で保たせるということ自体凄い事だが、斎藤工はまた声が色っぽい。自然とずっと見ていられる。本作を観て、改めて斎藤工の魅力に気付かされた。

エンドロールは小泉今日子が歌う『連れてってファンタァジェン』。それはまるで、このコロナ禍の現実世界から、劇中の世界への逃避行の願望のようにも聞こえる。

【まとめ】

いかがだっただろうか。コロナ禍で撮られた本作、岩井俊二監督は、今回の新型コロナウイルスの拡大に関して、そんなにネガティブではない事と語っている。「映画は100年少し前に始まってからは、20年サイクルくらいで技術革新などの変化が起きている、不意にこういうことになっても、それなりにみんな工夫していける耐久力や免疫がある。」苦しい状況が続く映画業界だが、映画の最前線で活躍する方からこういう発言が出るのは心強い。

『8日で死んだ怪獣の12日の物語』は絶賛公開中だが、8月7日からオンライン上映も開始することが決定した(オンライン上映の収益も、本作品上映劇場へ還元されるとの事)気になった方は、是非チェックして欲しい。

【余談】

ちなみに岩井俊二監督、9月11日に『チィファの手紙』という新作が控えている。こちらは今年公開された『ラストレター』の中国版。個人的に岩井監督の作品が3本も観れるのは嬉しい限りだ。

チィファの手紙



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