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東京国際映画祭2021『ラストナイト・イン・ソーホー』感想

ファッションデザイナーを夢見て、ロンドンのソーホーのデザイン専門学校に入学したエロイーズ。アパートで1人暮らしを始めたエロイーズは60年代のソーホーの夢を見るようになる。夢の中で歌手を目指す美しい女性サンディの姿になったエロイーズは、60年代の華やかなソーホーに魅力されるようになる。しかし、夢の内容は次第に荒んでいき、現実でも謎の怪奇現象に見舞われるようになったエロイーズは徐々に精神をむしばまれていく…

東京国際映画祭5本目は、12月10日公開予定の『ラストナイト・イン・ソーホー』。エドガー・ライト監督×アニャ・テイラー=ジョイという否が応でも期待してしまう組み合わせの本作を一足お先に鑑賞してきました。

会場になったのは有楽町駅目の前のよみうりホール。場内は日本版ポスターや劇中のネオンサインの掲示などがされており、その前で写真を撮る人だかりができているなどで賑わってました。

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特徴的だったのが客層。キャストや監督のファンなのだろう、映画祭の他の作品と比べて、年齢が若め&カップルなどの姿も多く見られたのが印象的。

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実は、本国では初登場6位という微妙な興行成績を挙げたという記事を目にしていたため、少し不安もあったのだが、その心配は全くの杞憂に過ぎなかった。結論から言うと、これまで観たエドガー・ライトの作品の中でも、特に面白く素晴らしい作品だった。

ということで、これより以下は『ラストナイト・イン・ソーホー』の魅力について、ネタバレ無しで語っていきたい。

※注意!※具体的な内容には触れてませんが、ネタバレが気になる人はご遠慮下さい。映画自体はとにかくお薦めです。

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『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(2008)、『ベイビードライバー』(2017)など、明るめのアクションを撮ってきたエドガー・ライト監督に撮ってサイコ・サスペンスである本作はまさに新境地。

コメディ寄りの作風が特徴的ともいえる監督にとって、サスペンスとの相性がどうなるか気になってたが、エドガー・ライト節は健在。ポップでお洒落。60年代の名曲が並ぶサントラのセレクトも良い。センスの良さは相変わらずなので、エドガー・ライト監督のファンは安心して欲しい。

『赤い影』(1983)や『反撥』(1965)など過去のイギリスのスリラーやサスペンス映画のインスピレーションを受けた本作は、どこか懐かしさを感じさせる王道な展開ながらも、アップデートされた価値観で新しい映画となっている。最も顕著に感じたのは、エロイーズが感じる「恐怖」の対象。映画冒頭、エロイーズがタクシーに乗る場面から始まっている場面からそれを感じることができるだろう。

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さらにエドガー・ライト監督は60年代のソーホーの華やかさと憧れを描きながら、その裏側の負の部分も描き出している。夢に溢れたショウビジネス界の裏側の描写は、日本にも通じる問題だけにより心に迫ってくるのではないだろうか。

他にも何気ない日常に潜むマイノリティへの偏見・差別への偏見も散りばめられていて何度かハッとさせられた。エロイーズの同級生のジョンがエロイーズに語る台詞は、そうしたマイノリティの人達への監督からのメッセージなんだろう。そういう意味で、本作はエドガー・ライト監督作品の中でも社会色の濃い作品といえるかもしれない。

ただし、だがらといってこの映画が説教臭くなってる訳では決してない。映画自体はポップに軽妙に描かれているのに語るべきことは多い。このバランス感覚もエドガー・ライト監督の素晴らしいところだ。

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主演2人の素晴らしさについても言及しておきたい。主演のトーマシン・マッケンジーは『ジョジョ・ラビット』(2019)で印象に残ってたぐらいだが、本作ですっかりその魅力にやられてしまった。もうオープンニングから素晴らしい、見事に映画に引き込まれた。

個人的に大好きなお目当てのアニャ・テイラー=ジョイもさすが。やはりこの女優さんは強い眼が印象的。悲劇に巻き込まれていく役どころを演じきっている。今回は劇中で歌う姿も披露しておりこちらも素晴らしい。両者のファンにとっては本作は間違いなく眼福映画となるであろうことも語っておきたい。

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絶賛ばかりで語ってきたので、人によっては評価の分かれそうなポイントについても述べておきたい。前述した通り、全体としては王道な展開となっているので、展開は読めやすい。(ただエドガー・ライト監督の演出によって中だるみや退屈に感じる瞬間は無かった)斬新な物語や演出を期待しているならそこは期待外れに感じるかもしれない。個人的に気になる点を挙げるとするならそこくらいかな。

といことで『ラストナイト・イン・ソーホー』、12月18日公開なので気になる人は是非ともチェックして見て欲しい!筆者も改めて公開されたらもう一度足を運ぼうかと思う。



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