【あなたは何を信じるか?】映画『落下の解剖学』感想
人里離れた雪山の山荘で起きた事件
不自然な男性の落下死。疑われる妻、盲目の息子。果たして男性は事故死か、殺人か、自殺か?
2月23日から公開されている『落下の解剖学』。
フランスの山荘で起きた事件を巡るヒューマンサスペンスだ。
監督は『ソルフェリーノの戦い』、『愛欲のセラピー』のジュスティーヌ・トリエ。主演は『さようなら、トニー・エルドマン』のサンドラ・ヒュラー。
第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でパルムドールを受賞をはじめ多数の映画賞受賞ということで公開前から気になっていた作品。
公開されるとSNSでも話題になっており、自分も早速観に行ってきた。
実際に観てみると、高い評価を得ているのも話題になっているのも納得。
観る人によって全く異なる真実が見えてくる。
これは同僚や友達なんかと一緒に観て鑑賞後に感想を語り合ったりすると楽しいと思う。
物語はフランスの山荘で起きた不自然な落下死体を巡る事件について。
嫌疑が掛けられた被害者の妻。亡き夫と妻、2人の関係性に焦点が当てられる。やがて始まる裁判、すこしづつ明らかになっていく事実…
『ソルフェリーノの戦い』もそうだったけど、ジュスティーヌ監督は臨場感を生み出すのが上手い。
全編ドキュメンタリーチックに撮られており、まるで裁判の傍聴人になったような気持ちで鑑賞していた。
本作は「事件の真相はこうだった!」というミステリータイプの作品ではない。
事件を通して浮かび上がってくるのは「人間の姿」。当事者の妻や息子はもちろん、彼女が雇った弁護士に検事、事件に興味を持つ人々…事件に関わる様々な人間の姿が描かれる。
サンドラの弁護士ヴァンサンも言ってるけど、肝心なのは「事件の真相」ではなく「何を信じるか」。
今、目の前の人間(サンドラ)は信じれるに値するか否か、それを決めるのがこの裁判の本質ともいえる。
「人は無意識に自分の信じたいものだけを信じる」という言葉がある。この映画はまさにその言葉を表している。
観た人の頭の中でどんなストーリーを組み立てていたかでラストシーンの捉え方は全く異なってくることだろう。
映画を通じて人が人を裁くことの難しさや不確実さ、そして事件を傍から楽しむ人間の愚かさ(私たちもワイドショーやSNSで事件を野次馬根性で楽しんでいたりする)などをひしひし感じた。
見応えがあって本当に面白かった。
ここまで観た人によって受け止め方が全く変わってくる映画もそうそうない。気になった方は是非ともチェックしてみて欲しい。
※ここからはネタバレというかラストについての感想。未見の方はご注意を。
自分は「サンドラは夫サミュエルを殺していない」という結末をストレートに受け止めた。
ただそれは何か明確な根拠がある訳じゃない(前述した通り、事件の真相についてはどこまでいっても藪の中だと思う)。
正直、サンドラは劇中の情報だけで観ると嫌な人だけど、そんなサンドラに感情移入したのも事実。だから信じたくなった。
それに結局のところ、私たちがサンドラとサミュエルの関係について断片的な情報で決めつけることはできない。2人の間にどんな絆があってどんな関係性だったかは2人にしか分からないのだ。
ちなみに鑑賞後に前のお客さんの会話が聞こえてきたけど、その人は息子と母親がグルで事件を隠ぺいしてるという感想だった。
これだけ人によって解釈分かれるのってやっぱり面白い。
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