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東京国際映画祭2021『復讐は神にまかせて』感想

喧嘩好きの青年が、ケンカと強い女性と恋に落ちる。だが、実は青年は性的不能のコンプレックスを抱えていた…。東京国際映画祭の3本目の作品に本作を選んだのは、予告編がかなり自分の好きなタイプの作品だったから。

奇抜な髪形をした主人公がスクーターに乗って疾走してる。このシュールな映像だけで心を鷲掴みにされた。16mmフィルムのざらついた映像もの感触も良い。本作の撮影監督は撮影は黒沢清監督作品でお馴染みの芦澤明子さんがつとめている。

加えて、本作はロカルノ国際映画祭2021で金豹賞を受賞しているという点も鑑賞を後押しした理由だ(金豹賞はグランプリにあたる賞、日本作品も馴染みの深い映画祭で、近年だと濱口竜介監督の『ハッピーアワー』に出演した川村りら、三原麻衣子、菊池葉月、田中幸恵が最優秀女優賞受賞している)

復讐は神にまかせてポスター (1)

そんな本作だが予告編の印象通り、奇妙でシュールな作品だった。主役は喧嘩好きの青年アジョ、彼は自分と同じくらい強い女性イトゥンと恋に落ちるが、実はアジョは性的不能のコンプレックスを抱えていた…というあらすじ。

冒頭の工事現場の戦闘シーンなんかは往年の香港映画や東映映画を思わせる。そういった作品へのオマージュを含んだ王道の作品になることを連想しながら観ていたが、その予想は大きく覆されることになる。

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破滅型の主人公が恋に落ちて大きく変わる。全体の筋道は変わらないが、その過程が何とも奇妙で予測不可。中盤以降は目的地の分からないドライブに付き合わされているような気分すら感じた。

あらすじやキャラクターだけを見ると、何とも珍妙に見える作品だが、実は作品に強烈なメッセージ性が含まれているその一つが劇中におけるジェンダーの役割の逆転。本作は一見するとアジョが活躍する話のようなのだが、実はアジョの惚れる相手のイトゥンが大活躍をする。

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通常、この手の物語の定型では男が様々な強敵たちを倒すのがセオリーだが、この作品では女性のイトゥンがめっぽう強い。というか、アジョとイトゥンのキャラクター的役割が逆転しているというのが本作の大きな特徴であり、高い評価を得ている理由の一つだろう。

暴れまくるイトゥンを観ながら、筆者は今年観た『べいびーわるきゅーれ』を思い出した。あの作品も強い女性が登場し大暴れする映画だ。強い女性を描いた作品は近年多く撮られているが、今年は肉体的にも男性より強い女性が登場する映画を目にする機会が多い。

本作でイトゥンが倒す男性達は「女性の敵」ばかりという点にも痛烈なメッセージ性が感じられる。パッケージこそポップで奇妙だが、その実、バイオレンスと社会性が潜んだなかなか面白い作品だった。暴力描写何気にえぐいし、下ネタも多いので人を選ぶ作品ではある。(その下ネタ描写が本作の重要なテーマの一つでもあるのだが)だが、個人的にはこの日見た映画の中で一番好きのはこういう作品だったりする。是非劇場公開して欲しいなぁ。

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