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【棒と穴を巡るヘンな物語】映画『地下室のヘンな穴』感想

変な映画ばかり撮り続けているカンタン・デュピューという監督がいる。自我に目覚めたタイヤが人を殺しまくる『ラバー』や、鹿革ジャケットに異常なほどの愛情を持つ殺人鬼が巻き起こす惨劇『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』など…ね?変な映画ばかりでしょ?

カンタン監督はフランス出身の映画監督で今年48歳になる。これまでも奇天烈な作品を世に送り出し、フランスで唯一無二の地位を確立している。

そんなカンタン監督が2022年に製作した映画『地下室のヘンな穴』もかなり奇天烈。「入れば半日時が進むが、入った者は3日若返る」という奇妙な穴に振り回される夫婦の姿を描いたシュールコメディだ。

主人公のアランを演じるのは『恋愛睡眠のすすめ』のアラン・シャバ、アランの妻マリーを演じるのは『ジュリアン』のレア・ドリュッケール。アランの友人のジェラールを演じるのは『ピアニスト』のブノワ・マジメルと、いずれもフランスを代表する名優ばかり。奇想天外な物語を一流俳優が演じるというのもカンタン監督の作風らしい。

カンタン監督の作品を観るのは初めてだったので、楽しみにしながら臨んできた。これより以下は感想になります。※映画の内容に触れているので、未鑑賞の方はご注意ください。

2022年製作/74分/G/フランス・ベルギー合作

【感想】

風刺画のような映画だ。「奇妙な穴」繋がりということで『マルコヴィッチの穴』のような複雑怪奇な映画を連想していたが、本作のストーリーはいたってシンプル。若さを追い求めた人間たちの顛末が淡々と描かれる。

物語は若さに執着する2人の人間を中心に進む。1人は主人公アランの妻マリー、もう1人がアランの会社の社長でもあり友人でもあるジェラールだ。どちらも避けられない老いに対して、超自然的な現象やテクノロジーで乗り越えようとする。女性のマリーが美に、男性のジェラールは性に執着するというのがらしいといえばらしい。

邦題やあらすじ紹介から「時間を超越する穴」を中心に物語が進むかと思っていたら、ジェラールが手術した「電子ペニス」というとんでもない代物も登場する(しかも日本でしか手術できない謎の代物)から驚いた。しかも「電子ペニス」は一発ネタで終らない。映画はアラン夫婦の穴を巡る騒動とジェラールの電子ペニスのパートが交互に展開される。

なので、邦題は『地下室のヘンな穴と社長のヘンな棒』と付けた方がしっくりくる気がするが、配給側も「穴と棒」という表現だと直接的過ぎるので遠慮したのだろう。しかし、マリーが「穴」、ジェラールが「棒」という明らかに性器がモチーフになっている辺りは、さすが性描写が寛大なフランスという感じ。

ちなみに原題の『Incroyable mais vrai』は日本語だと『信じられないような本当の話』。これだと宣伝するのに弱いと思ったからこその邦題なのだろう。

物語は全編シュールで馬鹿馬鹿しいのだが、ところどころ皮肉めいた視点や教訓めいたメッセージも含まれている。若さに執着する2人とアランの対比は最も分かり易い。マリーとジェラールの顛末を見ると「結局は自然に生きるのがベストだよね」というカンタン監督の声が聞こえてくるようだ。

ジェラールの「ひと昔前の男」の描写も皮肉が効いている。やたら『電子ペニス』に対する反応を気にしたり、射撃場での失態などプライドの高さと気の小ささが伺える。車を買い替えるように付き合う女性をやたら変える点もいかにもという感じ。アランとジェラールは「老い」に対する姿勢だけでなく「愛する人に対する姿勢」も対照的だ。

穴の登場によってスレ違ってしまったアランとマリー。最後の心が通じ合う場面は観ていて切なくなった。最後までお互いの心が離れなかったのは、2人の間に確かな繋がりがあったんだろうな。

ということで、初カンタン・デュピュー作品だったが面白かった。これを機に過去作も掘り返したいが、個人的には最新作の『Smoking Causes Coughing』が猛烈に気になっている。

チープそうだけど面白そう…!

日本の特撮戦隊をモチーフにした作品で、タバコに含まれる有害物質を武器に闘うヒーロー達ということで、早く観たい!

ミッドランドスクエアシネマ2の9月10日の10:20の回で鑑賞。お客さんは10人程度。パンフレットはキャスト4人の対談形式のインタビューがあるのが良かった。


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